タレントマネジメント製品紹介【第4回】
オンプレミス、クラウドを自由選択、SAPタレントマネジメントの「いいとこ取り」
「SAP ERP」ユーザーの約半数が利用している同社の人事管理機能。タレントマネジメント機能も企業のグローバル化に合わせて伸びているという。買収した「SuccessFactors」との組み合わせで企業の多様なニーズに応える。
ERPパッケージ製品の先駆け的存在であり、高いシェアを持つ「SAP ERP」。財務会計を中心とした基幹系業務で導入されることが多い同製品だが、人事管理のモジュールも多くの企業で採用されており、日本国内ではSAPジャパンの顧客のうち約半数が導入している。
グローバル経営の人材管理ニーズに対応
SAP ERPの人事管理機能は、「SAP ERP HCM(Human Capital Management)」(以下、HCM)という名称で提供されており、SAP ERPの一機能として導入されるだけでなく、人事管理のソリューションとして単体で導入されるケースも少なくないという。その特徴の1つは、勤怠管理や給与管理、申請管理といった旧来の伝統的な人事管理ソリューションの分野にとどまらない、幅広いタレントマネジメントの機能にある。統合人事データベース上に、さまざまなインタフェースを通じて人材情報を集約した上で、これをさまざまな切り口で取り出して参照できるようにしている。いわゆる、人材情報の「見える化」だ。
しかし、SAPジャパン ソリューション統括本部 エンタープライズマネジメント本部 本部長 松村浩史氏によれば、人材情報の見える化だけでは近年の企業ニーズ、特にグローバル経営の人材管理ニーズに応えることはできないという。
「現在進んでいる日本企業の海外進出は、単に生産拠点を海外に移すだけでなく、海外市場でのビジネスを伸ばすことを目的にしている。従って、海外拠点でビジネスをリードできる人材をいかに育成できるかという点が重要になってくる。タレントマネジメントのソリューションも、単に海外拠点の人材情報を本社から参照できるだけでなく、グローバルで人材育成のサイクルをうまく回していくことが求められている」
HCMの特徴は、まさにこの点にあると同氏は言う。グローバル経営では、例えば各拠点のリーダー層を育成するための教育研修の仕組みが必須になる。また、後任者計画の仕組みも重要になってくる。世界中に散在している拠点や子会社にどのようなポストがあり、そこではどのようなスキルや経験が必要とされるのかをあらかじめ定義し、管理しておく。そして万が一、そのポジションの要員が組織から抜けた場合、なるべくポストの空白期間を作らないよう、適任者を人材データベースから迅速に検索し、配置しなくてはいけない。そのためには、各拠点に散らばる人材のスキル管理や人事考課管理、ポートフォリオ管理などの機能がポイントになる。
こうした高度なタレントマネジメント機能は、日本国内に閉じてビジネスを行っていた時代であればいざ知らず、グローバル経営では自ずと必須になると松村氏は言う。
「日本企業では伝統的に、人材育成に関する情報は各事業ラインの部長や事業部長、あるいは人事担当者が属人的に管理してきた。従って、どうしても『人材育成にシステムを使うなんて』という風潮が強い。確かに、日本国内だけであればこれまでのやり方でうまく回ると思うが、これがグローバルとなると管理職が現地の要員1人1人を把握するわけにはいかない。従って、システムを活用しないとガバナンスを効かせることができない」
BIやSNSで人材情報の有効活用を促進
もう1つ、HCMの大きな特徴として挙げられるのが、人材情報の分析やシミュレーション機能である。グローバル経営の効率を高めるためには、海外拠点の経営状態をいち早く本社で把握し、適切な手を先回りして打っていく必要がある。そのためには、拠点ごとの売り上げや利益率といった「カネ」にまつわる情報、在庫や生産量といった「モノ」に関する情報と同様に、海外拠点の「ヒト」に関する情報もリアルタイムに把握し、それを分析した上で適切な施策を打っていく必要がある。
例えば、ある国や地域で売り上げを伸ばしたい場合、販売計画に見合うだけの数の人員が現地にそろっているか。売りたい商材に関するスキルを持った人員が、十分な数いるか。あるいは、拠点ごとの人員の年齢や職種の分布はどのようになっているのか。HCMではこういったことが、図やグラフなどで一目で把握できるBI(ビジネスインテリジェンス)機能を備えている。また、組織構造に着目して、ある組織にどのような社員が所属していて、どのような職歴を持ち、どのような評価を受けているかといった情報も、ポータル画面から簡単に追うことができる。さらに、こうした各種の情報は、PCからはもちろん、「iPad」などのスマートデバイスからも参照できる(参考記事:全26種、SAPのスマートフォン向け業務アプリの全貌)。
SAPでは近年、同社のBIソリューション「SAP BusinessObjects」や、インメモリデータベース製品「SAP HANA」を活用したデータ分析ソリューションに力を入れており、HCMへの高度なデータ分析機能の搭載もその一環だという。
同社が近年力を入れているもう1つのソリューションに、SNSがある。こちらも同じく、タレントマネジメントの領域における活用が進められている。同社は現在、企業向けSNS製品「SAP StreamWork」を提供しているが、これを人材情報の有効活用のために利用するのだという(参考記事:「ソーシャルERP」は仕事に使えるTwitter、Facebook?)。
「これまでも、人材データベースを使ったスキル検索などのソリューションはあったが、その多くはあまり現場で活用されなかった。その理由は、人材情報を活用できる具体的な場を提供できなかったから。その点、ソーシャルメディアを使えば、ある特定のスキルやナレッジを持つ人をデータベースの中から見つけられるだけでなく、その人に直接コンタクトを取ることもできる。また、弊社が提供するSNS製品は過去の組織構造を保持できるため、例えばかつての同僚を介して間接的にコンタクトを取るようなこともできる」(松村氏)
Facebookのような個人向けSNSとは異なり、アクセス権限の管理やセキュリティの強化など、企業ユースに特化したさまざまな機能が備わっており、企業が安心して利用できるという。
SaaS「SuccessFactors」とのすみ分け
SAPでは、こうした人材情報を使ったデータ分析やSNSのソリューションを、他にも提供している。それが、同社が2011年12月に買収した米SuccessFactorsの製品だ(参考記事:「SuccessFactors」が実現する日本企業に最適なタレントマネジメント)。SuccessFactorsは、タレントマネジメントソリューションをSaaS型のクラウドサービスとして数多くの企業に提供してきたベンダーで、日本国内でもSAPによる買収前から既に大手企業を中心に導入事例が増えてきている。
SuccessFactorsのソリューションには、「Workforce Planning」「Workforce Analytics」という分析機能が含まれているが、SAPによる同社の買収後も、これらの機能の強化は続けているという。また、「SuccessFactors Jam」というSNSのソリューションも提供されており、既に海外のユーザーの間では広く使われている。上記で紹介したStreamWorkは企業ユースに特化した仕様だが、SuccessFactors JamはどちらかというとFacebookのような個人向けSNSに近い作りになっており、初心者にはより親しみやすいという。
「同じ企業向けSNS製品でも、StreamWorkとSuccessFactors Jamでは毛色が若干異なる。いずれこの2つはマージされて1つの製品になる予定だが、それぞれの特色を組み合わせればかなりいいものになるのではないかと思う」(松村氏)
オンプレミス、クラウドのハイブリッド提供も
そもそも、SAPはHCMという実績のある人材管理ソリューションを既に持ちながら、なぜSuccessFactorsの買収に踏み切ったのだろうか? 松村氏によれば、オンプレミスとSaaSというソリューション提供方式の違いにその理由があるという。
「オンプレミスと比べた場合のSaaSのメリットの1つが、システムを手早く立ち上げられること。グローバル市場における競争は年々激しさを増しているので、海外拠点での人材管理や人材育成の仕組みを素早く立ち上げて回せるようにならないと、競合他社に遅れてしまう。また、日本特有の人材管理の方式が、そのまま海外で通用するとは限らない。やはりグローバル経営という観点で見た場合には、海外拠点でグローバル標準の人材管理のやり方を素早く立ち上げることが重要で、そのためにはシステム構築に時間がかかるオンプレミスよりSaaSの方が適している」(松村氏)
ただし、グローバル企業の全てのニーズにSaaS型のSuccessFactorsがマッチするとは限らない。SaaSは初期投資コストこそ低く抑えることができるが、長期的に見た場合にはオンプレミスの方が安くつく場合もある。また、機能のカスタマイズも基本的にはできない。
一方のHCMは、SAP ERPの他のモジュールと同様に、極めて柔軟にカスタマイズを施すことができる。そのため、既に自社内に確固として確立された人材管理や人材育成の仕組みがあり、どうしてもこれを維持したい場合には、豊富な機能と柔軟なカスタマイズ性を併せ持つHCMの方が適している。
あるいはHCMとSuccesFactors、それぞれの「いいとこ取り」をするハイブリッドな運用もあり得る。事実、そうした使い方をしている企業も既に存在するという。
「フルオンプレミス、フルクラウド、ハイブリッド、これら全てのシステム形態にSAPは対応していく。これによって今後、顧客のあらゆるニーズに幅広く応えていくことができると考えている」(松村氏)
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