AppleやGoogleのペースに合わせ、Microsoftが計画しているOfficeとWindowsのリリースサイクルの短縮は、企業ユーザーにどのような影響をもたらすのだろうか。
Microsoftは長年にわたって、Microsoft OfficeとWindowsのメジャーアップデートを3年サイクルで実施してきた。両製品はMicrosoftの稼ぎ頭であり、2011年も年間売上約700億ドルのうち5割以上を占めた。しかしライバルのApple、Googleが、OSやクラウドベースのアプリケーションを積極的に更新している影響で、長年機能してきた“Microsoftのパターン”も時勢にそぐわなくなってきた感がある。
それを裏付けるかのように、2012年11月半ば、Windows部門を統括してきたスティーブン・シノフスキー氏がMicrosoftを去り、その直後にCEOのスティーブ・バルマー氏が「今よりも速い開発サイクルを導入する」と発言した。この言葉は“Office提供体制の構造改革”を指しているようだ。
ある情報筋によると、「Officeのコア機能と、Windows、Mac OS、iOS、Android用Officeの機能を単一製品にまとめる計画がある」という。具体的には、1つのサブスクリプションを購入すれば、Officeのコア機能と各OS用のソフトウェアコンポーネントをダウンロードできるようにする。最終的には、OSやモバイル端末の種類を問わず、Officeの物理インストールを撤廃し、オンラインサブスクリプションを通じてOfficeのダウンロードとインストールを行える体制に移行する計画だという。
この計画はエンドユーザーにとっても朗報といえそうだ。米サンアントニオ腎臓病センターでIT管理者を務めるフィリップ・L・モヤ・ジュニア氏も、「計画が実現すれば、1ライセンスで複数のプラットフォームに対応できるようになる。実に理にかなっている」と評価する。
一方、Windowsについては先行きが読めない。タッチスクリーン対応になったWindows 8と、そのARMプロセッサ版であるWindows RTは、エンタープライズ市場になかなか受け入れられない可能性がある。先のモヤ氏もMicrosoftのタブレット端末「Surface RT」の評価を行ったが、「Active Directoryドメインに参加できず、グループポリシーを適用することもできない。業務で使うには難点が多過ぎる。一般的に使われているIT資産管理の方法が利用できない以上、導入はできない」と話す。
大手運輸会社の購買エージェントを務めるレン・バーニー氏も、「Microsoftのタブレットは興味深いが、デスクトップPC版にしてもタブレット版にしても、当社はWindows 8を導入できる状態ではない。仮に導入するとしても、かなりの時間が必要だろう」と消極的な姿勢を示す。ちなみにモヤ氏は、2013年にリリース予定のIntel製x86プロセッサを搭載した「Surface Pro」を待つつもりだという。こちらならグループポリシー適用などの管理機能をサポートするためだ。
調査会社の米IDC プログラム副社長 アル・ギレン氏は、「MicrosoftがOfficeとWindowsのリリースサイクルを見直すつもりなら、デスクトップ市場とモバイル市場を分けて考える必要がある」との見方を示す。特にWindowsについては「タブレットとデスクトップPCで共通のOSを開発するにしても、タブレット向けのWindows RTには柔軟性を持たせて市場のニーズに対応しやすくし、デスクトップPC向けのWindows 8はこれまでのような計画的なリリースサイクルにすべきだ」と話す。
この点について、「Microsoftは、まずタブレット向けWindows 8のリリースに注力し、それから1年以上かけて、デスクトップPC向けのWindows 8をリリースすべきだった」と話すアナリストもいる。「それだけの時間があれば、企業のIT部門は時間をかけて新バージョンの機能に合わせて自社のIT環境を調整し、Windows 7からのアップグレードに踏み切れたのではないか」と考えられるためだ。
OfficeとWindowsのリリースサイクル短縮計画は企業ユーザーにどのような影響をもたらすのか、多くのIT関係者がその動向に注目している。
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