VMworld 2013で発表されたクラウドサービス「vCloud Hybrid Service」は、機能面・価格面でVMwareユーザーから多くの期待が寄せられている。VMwareはこの製品で、ライバルのAmazon、HP、Rackspaceに対抗できるか。
米VMwareは2013年8月最終週に開催したVMworld 2013で、クラウドサービス「vCloud Hybrid Service」の一般提供を2013年9月に開始すると発表した。エンタープライズ用途でクラウドを利用する顧客の獲得を目指す。
vCloud Hybrid Serviceは、広く普及しているVMwareのサーバ仮想化技術を基盤としており、価格も競争力があることから有望だ。だが、同社の顧客の多くは、ミッションクリティカルなアプリケーションの仮想化にまだ苦労している。
VMworld 2013の基調講演においてスライドで示されたVMwareの推計によると、同社の顧客の約54%は、仮想化が進んだ段階(3段階から成る仮想化からクラウドコンピューティングへの移行過程の第2段階と位置付けられている)にあり、20%は既にクラウドの自動化によって“サービスとしてのIT”を提供しているという。
だが、大手小売企業でシステムエンジニアを務める匿名希望の来場者は、「われわれはまだ第1段階だ。vCloud Hybrid Serviceを利用する態勢は整っていない」と話した。
しかし、他の来場者からはvCloud Hybrid Serviceの可能性に対する期待の声が聞かれた。
アリゾナ州ピマ郡共同専門教育学区(JTED)のITディレクターを務めるケビン・ディグナム氏は、内部インフラの大部分をvCloud Hybrid Serviceに移行する予定だ。これによって、毎年のコストの見通しが立てやすくなり、自前のデータセンターの運営に掛かる電力コストが減少し、ハードウェアのリプレースやディザスタリカバリ(DR)について心配する必要がなくなる。DRについて悩まずに済むのは、vCloud Hybrid Serviceでは追加料金なしでバックアップが行われるからだ。
また、「このサービスは、自前のデータセンターでは到底実現できない高いスケーラビリティを提供してくれる」(ディグナム氏)。
VMwareの顧客であるもう1人の来場者は、構築済みのプライベートクラウドをvCloud Hybrid Serviceに拡張するよりも、自社で維持管理することに力を入れていくと述べた。さらに、ハイブリッドクラウドシナリオにおけるプライベートとパブリックの両サイドで、VMware技術にロックインされる可能性に懸念を示した。
「サービスプロバイダーを乗り換えるのは大変だ。“廃棄してリプレースする”羽目になる」と、掘削流体を扱う米Francis Drilling Fluids(FDF)のスティーブ・シャーフCTO(最高技術責任者)は語った。
vCloud Hybrid Serviceは、米国ネバダ州ラスベガス、バージニア州スターリング、カリフォルニア州サンタクララのデータセンターを通じて提供される。「vCloud Hybrid Service Dedicated Cloud」と「vCloud Hybrid Service Virtual Private Cloud」という2つのサービスクラスが用意されている。
VMwareによると、vCloud Hybrid Service Dedicated Cloudでは、物理的に隔離された専用コンピューティングリソースが提供される。価格は1CPU、メモリ1Gバイトの仮想マシン(VM)が1時間当たり13セントからで、VMのバックアップサービスも価格に含まれる。vCloud Hybrid Service Virtual Private Cloudは、米Amazon Web Services(AWS)のVirtual Private Cloud(VPC)と似たコンセプトのサービスで、価格は1時間当たり4.5セントから。
AWSのクラウドサービスでは、ユーザーは3年間の専用リザーブドインスタンスを1時間当たり3セントという低価格で利用できるが、専用インスタンスが特定のリージョンで実行されている間、1時間につきリージョン当たり2ドルも料金が課金される。しかも、これらは、3年間分の予約金106ドルを支払うことで適用される金額だ。また、AWSのサービスでは、ユーザーが冗長性を独自に設計する必要があり、これもクラウドコストを押し上げる可能性がある。
1時間当たり4.5セントというvCloud Hybrid Service Virtual Private Cloudの価格は、AWS、米Rackspace Hosting、米Hewlett-Packard(HP)のサービスのオンデマンドインスタンスの価格に近い。これら3社の価格は1時間当たりそれぞれ6.5セント、6セント、4セントとなっている。
もちろん、ハイブリッドクラウドの性質上、ユーザーは「VMware vSphere 5.1」以降のオンプレミスライセンスコストも考慮に入れる必要がある。vSphere 5.1以降は、vCloud Hybrid Serviceを利用するための要件だ。FDFのシャーフ氏にとってはこの要件も、vCloud Hybrid Serviceを採用しない理由となった。だが、JTEDのディグナム氏は、vSphereを既に購入していたため、vCloud Hybrid Serviceのための初期設備投資を追加する必要はなかったと話した(※)。
※ 本稿掲載後にVMwareは、vCloud Hybrid ServiceがvSphere 4.1 update 2以降に対応していることと、同サービスを利用するのにオンプレミスインフラは必要ではないことを明確にした。
待望されていた機能(vCloud Director 5.5とvCenter Site Recovery Manager《SRM》のレプリケーションの統合など)や、ディザスタリカバリオーケストレーション製品の発表はなかったが、VMware幹部は今回のVMworldにおいて、2013年第4四半期からvCloud Hybrid Serviceで、Disaster Recovery as a Service(DRaaS)のβ版を提供する予定であることを明らかにした。
「われわれのレプリケーション製品は現在、マルチテナントに対応していない」と、VMwareのクラウドインフラおよび管理ソリューション担当上級副社長、ラグー・ラグラム氏は語った。「レプリケーション元とレプリケーション先が、同じ組織に所有されていると想定してしまう」
これはVMwareにとって、DRaaSを提供する前に解決しなければならない難問だろう。
一方、データセンターソフトウェアを手掛ける米HotLinkは最近、VMwareのVMをvCenterからAWSクラウドにレプリケーションし、DRを実現する製品「DR Express」をリリースした。利用料金はVM1台当たり月額25ドルだ。
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