オープンソースの2大クラウド基盤である「OpenStack」と「CloudStack」。その変遷と最新動向を振り返るとともに、それぞれの戦略と指針を確認する。
※ 本連載は、『オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い』のダイジェスト版として、2回にわたってオープンクラウドの技術動向をお伝えします。
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)の普及に伴い「オープンクラウド」というキーワードが注目されている。以下は、オープンクラウドの実現に向けた5つの要素だ。
上記を踏まえ、オープンクラウドを構成する技術には大きく3つのカテゴリがある。「オープンネットワーク」「オープンIaaS」「オープンPaaS」だ。
本連載ではその中のオープンIaaSとオープンPaaSについて扱う。第1回の今回は、オープンソースの2大クラウド基盤である「OpenStack」と「CloudStack」を中心に、オープンソースベースのクラウド基盤ソフトウェアの進展について解説する。そして第2回ではCloud FoundryやOpenShiftに代表されるオープンPaaSの技術動向を解説する。
2006年のAWS(Amazon Web Services)によるAmazon EC2/S3のリリースは、IT業界に大きな影響を与えた。そして2007年、米国カルフォルニア大学サンタバーバラ校でAWSと同様のクラウド環境を大学内でも構築することを目的とした研究プロジェクトとして、Amazon EC2 APIと互換性のあるソフトウェア「Eucalyptus」が登場。これを機に、OpenStackやCloudStackの他、「CloudForms」「OpenQRM」「Abiquo」など多くのオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアが登場した。日本国内では2009年4月にあくしゅが開発した日本初のプロジェクト「Wakame-vdc」などがある。
2010年7月19日、米Rackspaceと米NASA(アメリカ航空宇宙局)が中心となりOpenStackプロジェクトが開始された。OpenStackは、IaaS(Amazon EC2相当)やオブジェクトストレージ(Amazon S3およびEBS(Elastic Block Store)相当)などを構築できるオープンソースベースのクラウド基盤ソフトウェアで、KVM、XenServer、VMware vSphereなど多様なハイパーバイザーをサポートしている(OpenStackについて詳しくは:OSSクラウド基盤 OpenStackの全て)。
2010年3月、Rackspaceは自社でクラウドストレージサービスとして提供している「Cloud Files」のコードを「Swift」という名称で公開。また2010年5月にNASAはIaaS機能を備える「Nebula」をベースに仮想マシンの管理を行う「Nova」を公開した。これがOpenStackプロジェクトの始まりとなっている。OpenStackプロジェクトは、米Dell、米RightScale、米Intel、米AMD、NTT、NTTデータなどが参加し、既に180社以上、3300人を超える開発者がプロジェクトに参加している。
2012年4月12日には、米Rackspace、米AT&T、米Hewlett-Packard、米Red Hat、米IBMなど19社の企業や団体の参加による非営利団体「OpenStack Foundation」が設立され、IBM、Red Hatなどがプラチナメンバーとなっている。それ以前のOpenStackプロジェクトの任務は、開発やコミュニティー活動の緩やかな管理だったが、今回のベンダー中立の立場を取る財団「OpenStack Foundation」の設立によって、ガバナンス体系を採り、技術や財務での支援を行っている。
OpenStackでは、Apache License, Version 2.0を通して開発したソースコードを完全なオープンソースとして公開している。標準開発言語はPython、標準外部APIはOpenStack APIの独自APIで、REST API(HTTPベース)とAmazon EC2/S3互換API、標準OSはUbuntuとなっている。OpenStackは、大規模システムにも対応するスケーラビリティーを備え、特定のベンダーにロックインされない業界標準仕様のクラウド基盤を開発し、クラウド技術のイノベーションを促進することなどを指針としている。今後も無償のオープンソース版と有償のエンタープライズ版といった機能やサポートの異なるエディションを提供するOpen Core戦略は採らず、商用版のようなクローズエディションを作らないことを明言して中立性・透明性の確保を徹底している。
OpenStackプロジェクトの開発体制はコミュニティーベースとなっており、メーリングリストをベースに、意思決定のプロセスや開発プロセスは全てオープンに公開されている。OpenStackに取り込む機能項目の決定に当たっては、リリースとリリースの間の約半年ごとに世界中から開発者が集まる「Design Summit」を開催する。開発者から提案された方針・仕様・設計・実装などをオープンに議論し開発項目を決定している。技術的な面での意思決定においては、Architecture Boardの承認が必要となる。承認後のプロジェクト管理やソースコード管理は、開発者コミュニティーのためのポータルサイト「Launchpad」上で管理され、ソースコードはGitHubで公開されている。
アジアにおいてもOpenStackへの関心が高まっている。2012年8月10日〜11日に、「2012 OpenStack APAC Conference」が北京、上海で開催された。アジア太平洋地域を対象としたカンファレンスで、アジア地域からはロシア、中国、韓国、台湾、オーストラリア、日本など、総勢2千数百人が参加した。各プログラムでは、韓国コリアテレコム(KT)のSwift採用事例や上海交通大学のOpenStackを取り巻く仮想ネットワークの動向など、活発な議論が行われた。
日本においては、2010年10月21日のOpenStack 第1版(Austin)のリリースに合わせ、NTTデータ、NTTデータ先端技術、クラウド利用促進機構、クリエーションライン、国立情報学研究所などにより「日本OpenStackユーザ会(JOSUG:Japan OpenStack User Group)」の設立が発表された。JOSUGでは、日本語によるマニュアルや解説文書の公開などOpenStackに関する情報発信、情報共有を行うなど、コミュニティーを通じて日本国内でのOpenStackの普及推進活動が行われている。
OpenStackは、以下の通り、単独でも利用可能なコンポーネントから構成されている。コンポーネントの詳しい解説は「機能を徹底比較! 〜Eucalyptus、CloudStack、OpenStack」をご覧いただきたい。
OpenStackプロジェクトでは2012年4月5日、OpenStack5回目となるメジャーリリースとなる最新版「OpenStack 2012.1」(コード名:Essex)を公開した。OpenStackプロジェクトはこれまでに、リリースコード名「Austin」(2010年10月)、「Bexar」(2011年2月)、「Cactus」(2011年4月)、「Diablo」(2011年9月)、そして「Essex」(2012年4月)と機能面での進化を続けており、6カ月ごとのメジャーリリースを予定している。
6回目のリリースとなる2012年9月27日の「Folsom」では、Virtual Network ServiceのQuantumとCinderがCompute(Nova)から独立し、コアコンポーネントとして追加される。2013年4月には7回目のリリース「Grizzly」が予定されており、2012年10月15〜18日の「Design Summit」で追加機能が決定された。
OpenStackの採用は国内外でも進んでいる。
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