初めてでも分かる「IHE」講座【第3回】
循環器疾患に関する検査のシステム間連係ガイドライン「IHE循環器ドメイン」
高血圧や虚血性心疾患、不整脈などを扱う循環器分野では、心電図や超音波、心臓カテーテルなどの多様な検査が用いられる。システム間の検査データ交換の標準化を目指すIHEの循環器分野での取り組みを紹介する。
医療情報システムの効率のよい構築・運用のために標準化が進められている「Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)」。本連載では、一般社団法人 日本IHE協会(IHE-J)のメンバーがIHEの概要や各分野(ドメイン)での展開、導入事例などを紹介する。第3回となる本稿では、日本光電工業の小山武彦氏が「循環器」ドメインを解説する。【編集部】
連載:初めてでも分かる「IHE」講座
IHE循環器ドメインの対象範囲とは?
IHE循環器ドメインでは、主に循環器疾患に関する検査などを中心に検討している。IHE循環器ドメインで扱っている主な内容は、以下に大別される。
- 心電図検査
- 超音波検査
- 心臓カテーテル検査
- データハンドリング(データの二次利用)
IHE循環器ドメインでは、上記項目に関してユースケースを検討し、テクニカルフレームワークを作成して、実装および検証を行っている。
1. 心電図検査
(1)心電図検査のワークフロー
心電図検査には一般的な「安静時標準12誘導心電図検査」(以下、標準12誘導心電図)の他、携帯用の小型心電計を用いて長時間(24時間以上)にわたり心電図を記録する「ホルター心電図検査」、運動で心臓に一定の負荷をかけて変化を観察する「運動負荷心電図検査」などがある。
IHEテクニカルフレームワークにおいては、現時点では標準12誘導心電図の表示のみを統合プロファイル(※)として定義している。標準12誘導心電図の統合プロファイルは波形情報だけでなく、解析結果や計測値も表示する内容である。
※ 利便性の高いワークフローを継続的に実現するために、ベンダーを問わないシステム連係を安価かつ容易に実現するためのワークフロー。
- (i) PDF、SVGを利用した基本的な表示
PDF、SVGは世界で広く利用されている文書、画像データ形式である。各種機器から発生した心電図画像を単一サーバで保管し、履歴として検査ごとに管理している。利用者はテクニカルフレームワーク(システム間連係のための標準規格の使い方を示したガイドライン)で定義したURL書式でWebブラウザからアクセスすることで、履歴一覧画面を表示したり、画像データ形式での心電図波形を閲覧したりすることが可能だ。画像データ形式は取扱いが簡便であるという利点はあるが、再計測やフィルタ処理などの二次利用ができないという欠点もある。
- (ii) MFERを利用した多様な表示
日本IHE協会では、日本の国内仕様として心電図波形のフォーマットに、既に「ISO/TS11073-92001」として技術仕様書となっている標準規格「MFER(Medical waveform Format Encoding Rules)」を採用している。波形データの標準規格を採用することで、画像データではなく生波形としてデータを扱うことが可能となり、波形ごとの経時比較表示ができる。また、心電図波形計測ツールなどを使用した二次利用が可能となる。MFERは、日本発の世界標準規格(現状では技術標準)として今後の活用が期待されている。
(2)システム間連係の現状と新たな試み
実世界におけるモダリティ(心電計)とシステム間の検査データ交換については、各社ともベンダー独自のプロトコルを使用している。現在、新たな試みとして標準12誘導心電図について、プロトコル変換ゲートウェイや簡易システムを経由してJAHIS生理検査データ交換規約に準拠したシステム間のデータ交換が検討されている(JAHIS:保健医療福祉情報システム工業会)。データ交換は、波形データはMFER形式、テキスト情報は「HL7-CDA」形式、トランザクションは「HL7 Ver2.5」など、標準規格を用いて実装される予定だ。
2. 超音波検査
(1)超音波検査の主なワークフロー
循環器領域における超音波検査は、主に「心臓超音波検査」が中心となる。心臓超音波検査のワークフローは、「経胸壁心エコー」「経食道心エコー」「ストレスエコー」を対象にしている。「血管内超音波検査」(IVUS)や「心臓内心エコー」(ICE)などは含まれていない。
心臓超音波検査の統合プロファイルは、例えば、放射線部門など既存の他のドメインのプロファイルと共通した点が多く、「予約検査ワークフロー(SWF:Scheduled Workflow)」「患者情報の整合性確保(PIR:Patient Information Reconciliation)」「エビデンス文書(ED: Evidence Documents)」の3つのプロファイルとなる。
(2)超音波検査システムの現状と課題
ここからは超音波検査システムを導入することによるオーダエントリシステムとの連係、リポートの電子化という点に関する現状と課題を紹介しよう。
- (i)オーダエントリシステムとの連係
超音波検査におけるオーダエントリシステムとの連係用のワークフローは、放射線部門の機能と重なる部分が多い。オーダーの発行(OP:オーダ依頼者)から、検査の進行管理(OF:オーダ実施者)、結果の参照(ID)など、かなりの部分が定義されている。しかし、施設独自の要求を実現することを求められることも多く、その点が標準化普及の支障にもなっている。
- (ii)リポート電子化の課題
超音波検査において、短時間にリポートを作成できるようにするためには、所見情報や計測データをより簡単に間違いなく入力できることが大切である。特に循環器検査の場合、計測データの転記を容易で確実にできることが非常に重要な改善項目となっている。
その実現には、超音波診断装置から計測データをリポートシステムへ転送する必要がある。最近では、数値データをやりとりするための書式である「構造化レポート(DICOM-SR)」に対応した機器も増えており、数値データのリポートへの取り込みが以前よりは簡単になった。しかし、標準規格であるはずのDICOM規格でありながらも、メーカーごとに出力仕様が異なる場合があり、個別対応となる部分もまだ多いのが現状である。
リポートに関しても、施設ごとに所見や診断コメントなどで独自の語句を用いていたり、計測項目も異なっている場合もある。リポートシステムの納入時には、施設ごとのカスタマイズ作業が発生している状況だ。リポートに記載されているテキストデータの出力形式に関しても、統一形式がなく施設ごとに異なっている場合が多い。
3. 心臓カテーテル検査
(1)心臓カテーテル検査の主なワークフロー
心臓カテーテル検査には「血管造影検査」の他、「電気生理学的検査」や「血管内イメージング検査」などがある。心臓カテーテル検査で発生する画像は主に動画像となるが、静止画像データを取り扱う放射線領域のワークフローに類似している。
循環器領域では、意識不明の氏名不詳患者に対して心臓カテーテル検査と治療を施行する場合がある。そのため、予約検査ワークフロー(SWF)に加えて、事後に患者氏名が判明した場合の患者情報修正ワークフロー(PIR)を最初から加え、時刻同期プロファイル「Consistent Time」(CT)と合わせて統合プロファイル「Cardiac Catheterization Workflow」(CATH)としている。
(2)日本発の統合プロファイル血管内イメージング検査(IVI)
循環器領域では、動脈硬化性プラークの組織性状評価に「血管内超音波」(IVUS)、「血管内視鏡」「光干渉断層法」(OCT)など新しいイメージング法が登場している。これらの診断法は、心臓カテーテル検査のワークフローと類似しているが、検査の特殊性ゆえにワークフローの標準化が難しいという課題もあった。
しかし最近では、施設のインフラ整備が進むとともにDICOM化が急速に広がってきている。IHE-J循環器委員会では、IVIプロファイルの国際規格を目指し、米国との協議を経て、CATHのプロファイルの一部としてIVIのプロファイルを定義することになった。
4. データハンドリング(データの二次利用/循環器データの標準出力)について
循環器領域では上述した各種検査画像のみならず、画像や波形を解析した結果得られた計測値情報が、診断、治療指針の決定に大きく寄与しているという特徴がある。また、多施設共同研究や学会主導の全国調査など、大規模な研究や調査も盛んに行われており、北米や欧州では国が主導する「ナショナルデータベース」(National Registry)が構築され、登録が義務付けられている国もある。
一方、日本では施設内のリポートシステムやデータベースシステムから、外部のデータベースへ情報を伝達するワークフローや技術が標準化されていないのが現状だ。
IHE循環器ドメインでは、それぞれのシステムからの出力データの標準化と業務シナリオの定義をすべく活動している。その第一段階として、標準12誘導心電図検査、心臓超音波検査、心臓カテーテル検査での計測値やデータを出力項目として定義し、標準形式で出力する仕様を検討中である。
出力項目の選定に関しては、日本循環器学会をはじめそれぞれ専門の学会とも協力して進めている。また、循環器領域だけでなく、放射線や臨床検査などの分野における他のリポートとも整合を取る形で検討を進めている。
例えば、解析結果や計測値などのテキスト情報を出力する形式として、医療情報分野で世界的標準形式になりつつある「HL7 CDA R2」形式をベースに検討している。さらに、それらの計測値データは、標準化ストレージ規格「SS-MIX(厚生労働省電子的診療情報交換推進事業)」の拡張ストレージの構造形式で出力するよう検討しており、将来的には施設間連携や臨床研究・評価、データベース(National Registry)登録の基礎データとなることを想定している。
IHE-Jでは今後、上記の計測値データの出力形式を「工業会標準」(JAHIS標準)として登録し、最終的には厚生労働省標準にすることを目標に掲げている。
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