医療業界の間で、これまでは消極的だったクラウド活用の機運が高まりつつある。データ保護やコスト削減、災害対策などの面で、オンプレミスでは得にくいメリットがあるからだ。それは何なのか。
セキュリティや接続性、信頼性、コストにまつわる問題を理由に、医療業界は長い間クラウドに否定的な傾向にあった。しかし最近は、医療機関のクラウド活用事例が目立つようになった。病院や診療所は、ストレージの拡張性や災害復旧、データセキュリティの面でクラウドにメリットがあることを認識しつつある。医療機関の間では、オンプレミスのメールやアプリケーション、データなどを、パブリッククラウドやプライベートクラウドに移行させる動きが広がっている。
医療機関のIT部門は、治療やスタッフに必要なITインフラの要素とシステムが全て適切に機能するようにしなければならない。従来こうした要件を満たすには、クラウドを利用するよりも、医療機関が所有するデータセンターにITインフラを構築する方が容易だと考えられていた。オンプレミスであれば、ネットワークのアプライアンスやサーバの速度、ワークステーションの機種に加え、そうした機器のサポート担当者もIT部門が管理できる。
しかしオンプレミスでは、IT部門がハードウェアの入れ替えやOSの更新作業に時間と手間を取られることが多い。システムを確実にサポートするためには、データセンターでの経験を有するシステム管理者を確保する必要がある。そうなるとIT部門の管理者や幹部は、イノベーションに時間を費やすのではなく、IT環境ばかりに時間と手間をかけることになる。
こうしたこと全てに加え、病院では増加傾向にある医療情報を管理するために、ストレージを増やすニーズが高まっている。データ分析や人工知能(AI)関連の高度なアプリケーションを活用するために、コンピューティング能力を強化することも求められている。より高速で、柔軟性があり、コスト効率に優れたITインフラを求めるIT担当者にとって、オンプレミスはもう実用的なオプションでも、スケーラブルなオプションでもなくなっている。
初めてクラウドを導入するとき、IT担当者はオンプレミスの基本サービスを、幾つかSaaS(Software as a Service)に移行することから始めると簡単だ。メールやエンタープライズコンテンツ管理、VoIP(Voice over IP)、従業員用ファイルストレージは、HIPAA(米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)に準拠したまま、GoogleやMicrosoftなどのクラウドベンダーが提供するサービスに移行できる。
病院のアプリケーションやサーバは、クラウドに移行することで、従来のオンプレミスにあった制約を克服できる。オンプレミスの仮想マシンでホストしている電子カルテや研究用のシステムといった主要なサーバアプリケーションは、クラウドベンダーの仮想マシンやサービスに移行できる。医療機関で利用可能なクラウドを提供するベンダーには、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Google、IBM、Oracleなどがある。ここからは、医療機関がクラウドに主要システムを移行するメリットを、幾つか紹介する。
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