0.5歩先の未来を作る医療IT
医療クラウドと遠隔診療の規制緩和は医療のIT化を後押しするのだろうか?
クラウドとタブレットの普及によって、医療現場のIT活用が浸透しつつあります。診療報酬による評価やさまざまな規制緩和は、このムーブメントに対してどのような効果をもたらすのでしょうか。
2010年の医療分野でのクラウドコンピューティング(以下、クラウド)の解禁や、2015年の事実上の遠隔診療解禁など、医療ITに新しい波をもたらそうとする規制緩和が進んでいます。これまで遅々として進まなかった医療のIT化が、いま一気に動き出そうとしています。
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電子カルテはいまだになかなか普及しない
医療分野のクラウド利用解禁
2010年2月に発出された厚生労働省医政局通知「『診療録等の保存を行う場所について』の一部改正について」により、医療分野のクラウド利用が解禁となりました。従来、医療情報を管理するサーバの設置は、医療機関とそれに準ずる団体にしか認められていませんでした。この通知によってサーバ設置場所の範囲が拡大し、民間企業による設置も認められました。
このクラウド利用解禁から6年がたち、クラウドのセキュリティに対する医療機関の不安も徐々になくなりつつあります。今では地域医療連携システム、在宅医療システム、医療現場向けソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、診療予約システム、画像ファイリングシステム、そして電子カルテなど、さまざまな医療情報システムのクラウドサービスが登場しています。自施設のオンプレミス環境をクラウド環境に移行するケースも少しずつ増えています。
医療情報システムがクラウド化することで、システムの「機動性」が高まります。月額料金制のSoftware as a Service(SaaS)のように初期費用が安価で手軽なクラウドサービスも選択肢に含めることで、医療機関がIT化を進めやすい環境が整いつつあります。
タブレットの普及
時を同じくして、2010年にAppleが初代「iPad」を発売し、一気にタブレットの普及が始まりました。タブレットは従来型のクライアントPCと比べ、「携帯性(機動性)」と「操作性」に優れています。常に動きながら業務をする医療現場の特性と相まって、現場から熱烈なラブコールが送られ、医療分野での普及が急速に進んでいます。現在ではiPadをはじめ、「Android」搭載タブレットや、「Surface」のようなWindowsタブレットなど、さまざまなタブレットが医療分野で活躍しています。
IT化は医療現場に合えば浸透する
これまでの医療分野に長らく存在した「ITアレルギー」「PCアレルギー」のような状況が、クラウドとタブレットの普及によって、いままさに瓦解(がかい)していこうとしています。
特に「居宅」や「ベッドサイド」で業務をすることが多い医師や看護師にとっては、「どこでも気軽に業務ができる」この技術革新は、待ちに待った環境整備だったのではないでしょうか。クラウドとタブレットという2つの技術革新によって、医療現場にIT化が浸透したのは紛れもない事実です。このことは、クラウドとタブレットが現場の運用に合っていることを意味します。医療現場のニーズにITがやっと追い付いたように感じます。
遠隔診療の実質解禁
2015年8月に発出された厚生労働省医政局事務連絡「情報通信機器を用いた診療(いわゆる『遠隔診療』)について」により、遠隔診療が事実上解禁となり、従来の離島やへき地などに限定していた利用範囲を広げ、一般利用にも開放されることとなりました。
この厚生労働省医政局事務連絡では、あくまで遠隔診療は対面診療を補完するものと位置付けていますが、2018年改定の議論によっては、さらなる診療報酬での評価が見込めます。これを大きなチャンスと考えたさまざまな企業が遠隔診療サービスの提供を開始しています。
遠隔診療の解禁は、1999年4月にカルテの電子保存が認められた際に電子カルテベンダーが多数出現した現象や、医療分野でクラウド利用が解禁された後、電子カルテをはじめとするさまざまな医療システムがクラウド化した状況に似ています。ITの普及を受け、規制緩和が起こり、新たな市場が創造されたのです。
IT化が診療スタイルを変える
遠隔診療の解禁は診療スタイルそのものを変えるほどのインパクトがあります。IT化が診療スタイルさえも変えるという点で、電子カルテやクラウドの解禁よりも大きな影響をもたらすように感じます。ウェラブル端末(活動量計や家庭用バイタル機器)などの利用と合わせて「モノのインターネット」(IoT)とともに普及していくのではないかと期待しています(図1)。
2018年診療報酬改定での遠隔診療の評価はあるか
遠隔診療は、これまで通院継続が難しかった患者の「受診機会」を創出し、継続的な受診をサポートする新しい診療の形であると考えられます。現時点では、遠隔診療が患者にとってどれだけの効果をもたらすかは、エビデンス(根拠)が不足しているため、予測にとどまります。それでも遠隔診療の現場を取材していくうちに、外来医療、在宅医療とともに新たな診療スタイルとして、遠隔診療は十分にすみ分けができるのではないかと筆者は考えるようになりました。
この新しい流れが、わが国に定着するには時間がかかるかもしれません。しかし外来、入院、在宅、遠隔という診療スタイルの多様化が、超高齢社会を迎えるわが国にとって、医療の質向上と医療費の抑制に有効に作用することは想像できます。2018年に予定している診療報酬改定で、遠隔診療の評価に関する検討が進むものと予想されます。前向きな議論が起きることを期待します。
次回は、遠隔診療やIoTの進展が、医療にどのような影響をもたらすのかを探り、その効果を探ることで「IT化の普及条件」を考えます。
著者紹介
大西大輔(おおにし・だいすけ) MICTコンサルティング
一橋大学大学院MBAコース卒業。医療コンサルティング大手に入社。2002年に医療IT機器の常設展示場「MEDiPlaza」を立ち上げ、企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当。2016年10月に医療ICT専門コンサルタントとして独立し、MICTコンサルティングを設立。医療機関向けシステムの開発アドバイス、導入アドバイス、医療IT人材の育成などを行う。過去2000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、公的団体を中心に講演を多数実施している。
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