Computer Weekly製品導入ガイド
アジャイル導入のメリットと、導入を阻む組織内の壁
IT部門が事業部門のプロジェクトを後押しするには、組織に変化が必要だ。これはアジャイル導入のチャンスだが、アジャイルは万能薬でもなければ、導入を阻む課題もある。
デジタル化はITの価値を変化させ得る。だがITにはその準備ができているのか。新製品やサービスで事業価値が約束されることもある。しかし大抵は単純に、それまであったものを少しだけ改善するにとどまる。IT部門は一方で事業部に対してITインフラの責任を持つと同時に、テクノロジーに支えられた事業のサポートを要求される。
Webの人気が出始めたころ、あらゆる企業がWebにプレゼンスを持ちたがった。今はあらゆる企業がデジタル化の一端を担いたいと考えている。ITには事業価値をもたらすことはできないかもしれないが、そうしたプロジェクトを促進させることはできる。
かかわり方のルールを変える
CIC(最高情報責任者)は、どうすれば日々システムを運用しながらデジタル化による事業の前進を後押しできるのか。McKinseyの報告書「Competing in a digital world: Four lessons from the software industry」(デジタル界の競争:ソフトウェア業界から学ぶ4つの教訓)の中で、コンサルタントのヒューゴ・サラジンとジョンソン・サイキスの両氏は、かつてはIT部門と事業部門は別々の機能として運営される傾向にあり、一方の規律を身に着けた人材がもう一方に踏み込むのは難しかったと指摘する。同報告書は、企業がソフトウェア企業のようになるべき理由を解説。IT部門はもっと事業に精通する必要があり、事業部のリーダーはソフトウェアに精通する必要があると提言する。
「中核技術だけでなく、回転が速く接続性の高い、デジタル化された市場の動的な仕組みを理解するために、管理上層部を含めた全レベルで基本的なソフトウェア能力が要求される」(同報告書より)
従来型組織構造の企業のIT部門は業務慣行に起因する制約を受けている。もし、デジタル化によって企業がソフトウェア会社のようになることを強いられるのであれば、IT部門も順応しなければならない。調査会社Gartnerの予想では、2015年までに事業の変化速度は、ITがその変化に対応できるペースをしのぐようになる。結果としてIT部門は、デジタル事業やモノのインターネットで生成される大量のデータに対応できるアジャイルインフラに切り替えるため、「バイモーダル」なITアーキテクチャを採用する必要が生じる。
バイモーダルはGartnerの用語で、長期プロジェクトのうち、中核的なITインフラ関連の作業など、急ぐ必要のある作業を分割することを意味する。複雑なプロジェクトは分割して管理しやすくする必要がある。各部分が目に見える事業上のメリットを実現できることが理想だ。
Quocircaのアナリスト、クライブ・ロングボトム氏は、全てを小さな断片に分割し、各部分を組み合わせる形で管理することが、プロジェクト管理成功の鍵を握る特徴だと指摘する。
ロングボトム氏は言う。「だが多くの場合、対応がなされるのは全体としてのプロジェクトのみであり、プロジェクトのプロセスを構成する作業はほとんど管理されていない。この傾向が特に顕著な公共セクターでは、多数のプロジェクトが計画され、数年がかりで運用される。時がたつに従ってユーザーのニーズが変化しても、プロジェクトが目指す最終結果が変わることはなく、変化が積み重なるにつれ、望ましい結果が訪れることはなさそうに見える」
アジャイル化推進の概念は、数年前から人気が高まってきた。VMworld Europeでは、VMwareのパット・ゲルシンガーCEOがエンタープライズにおけるアジャイルの必要性を説いている。ゲルシンガー氏によれば、仮想化によってデータセンターにおけるハードウェアの制約は取り除かれ、企業のダイナミック化とアジャイル化が推進される。
多くの場合、アジャイルは企業が変化に対する反応性を高める手段と見なされる。プロジェクトのための公式スペック作成に何カ月も何年も費やす代わりに、ITは軽量化を実現する。オンライン人材紹介会社のReed.co.ukは、このやり方で決済システムにビットコインを導入した。同社のマーク・リドリーCTO(最高技術責任者)はチームに対し、Googleのような方式でアイデアを練るよう促した。
アジャイルでできること
リドリー氏の開発チームは2週間ごとに1日、自分自身のプロジェクトに取り組む時間が与えられた。チームの1人がビットコインに関心を持ち、ミーティングでそのアイデアを紹介。数週間でビットコイン決済機能の実装が出来上がった。同プロジェクトは財務に影響することからCFO(最高財務責任者)の監修を必要としたが、経営上層部でさえも、スクラムプロジェクト管理手法における2週間単位のスケジュールを受け入れることが要求された。
この動きの速い開発プロセスのおかげで、Reed.co.ukのビットコインシステムは3回のプロジェクトセッションで準備が整った。同社は取引の時点で通貨をポンドに換算することにより、ビットコイン決済を統合。ビットコインはその後、同社のCFOと会計システムが認識できる通貨に変換される。
ただしアジャイルはアプリの開発を速めるための万能薬というわけではない。
「全ての手法には欠陥があり、中には役に立つものもある。アジャイルの問題はプロセスとは無関係で、人員に関係している」。TCSの首席アジャイルコンサルタント、マナブ・メハム氏はそう語る。
実際に、組織内の人員がアジャイルで何を達成できるか理解していなければ、そうしたプロジェクトは従来のウォーターフォール式アプローチと同じくらい壊滅的な問題に突き当たりかねない。
DSDM Consortiumの製品イノベーション担当ディレクター、バーバラ・ロバーツ氏は「関係者の認識を変えさせることに尽きる」と話す。
どのような組織でも、変化への対応が難しい人員が必ずいる一方で、柔軟に対応できる人員もいる。その状況をどうさばくかが課題になるとロバーツ氏は指摘する。アジャイルとはそれまでやってきた作業を捨て去ることではないと同氏は言い、プロジェクトでうまくいっていない部分に目を向けることを勧めた。
「プロジェクト管理は結構だが、もしプロジェクト管理のスタイルが間違っているのなら、そのスタイルをどう変えるかに目を向ける必要がある」(ロバーツ氏)
アジャイルプロジェクトはチーム作業の自立性を高める一助になるが、常に制約はある。「会社としての標準を確立する上で、チームメンバーの立場は最善とはいえない」とロバーツ氏。チーム文化が浸透していればアジャイルプロジェクトはうまくいく。だが内向的な性格の人員にとっては混乱を招きかねない。プロジェクト管理者は作業を分割して、そうした人員が従来型に近いアプローチを使ったプロジェクトの特定部分に集中できるようにしなければならない。「必要な場面では妥協が求められる」とロバーツ氏は強調する。
継続的な開発
Forrester Researchのアナリスト、マーゴ・ビジタシオン、ゴードン・バーネットの両氏によれば、IT部門は継続的な変化に順応する必要がある。「透明性の高い実績測定と測定基準があれば、新規プロジェクトと現行プロジェクトの間でバランスの取れた投資配分の頻度を高めることができ、1年ごと、あるいは半年ごとの計画立案や予算割り当ては不要になる。長期的な投資戦略と短期的な実行は、フィードバックの繰り返しから得られるデータを使って決定できる」。両氏は報告書にそう記している。継続的な開発と配信は確実に、デジタル化によって生じる事業側のニーズを管理するCIOにとっての標準になるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
2
AIが本番環境を削除し復旧に13時間 「暴走」ではなかったAWS事例
-
3
IT人材の42%が転職予備軍 辞めさせない組織の4つの共通
-
4
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
-
5
「プログラマー不要論」にThe Linux Foundationが示した答え
-
6
SAP保守を分割・離脱も可能に EU承認で変わるECCユーザーの2027年問題
-
7
Microsoft 365の知られざる5つの裏口 パスワードを変えても攻撃者は消えない
-
8
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
9
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
10
アラート47%削減 オープンハウスが捨てた「全部メール通知」の監視体制
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
2
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
6
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー