人工知能が人の脳を超える? 究極技術「メモリスタ」とはデバイスのアナログ特性を活用

人間の脳のアナログ処理能力は想像以上に高く、人工知能関連技術がそれに太刀打ちするにはさまざまなハードルがある。一方、現状を打破すべく、デバイスのアナログ特性を生かした技術開発が進みつつある。

2015年10月20日 08時00分 公開
[Mike MatchettTechTarget]
米KnowmのWebサイト 人工知能の可能性を広げる技術開発が進みつつある(画面は米KnowmのWebサイト)

 私たちは常に、物事をよりスマートかつ迅速に進める衝動に駆られている。それは人間のさがだろう。データセンターでは、巨大で高速なデータストリーム(連続的に発生する一連のデータ)に機械学習アルゴリズムを導入し、ビジネスで特殊な競争上の優位性、または大きな社会的利益を生み出している。

 ただし、現在のデジタルベースのコンピューティング環境とストレージは、データセンターの処理能力、パフォーマンス、容量の全てをもってしても、私たち人間の左右の脳で行われるアナログ処理には太刀打ちできない。脳は、デジタルコンピューティングのアーキテクチャ(以下、デジタルアーキテクチャ)と比べて段違いに優れた処理能力を持つからだ。生物的な規模と速度で計算するには、純粋なデジタルを超える新しい形態のハードウェアを活用しなければならない。

デジタルの制約が阻むAIの進化

 多くの機械学習アプリケーションは、データ固有のパターンと挙動を調査した後に、その情報を用いて既知の事象を分類し、次に起こる事象を予測したり、変則的な部分を特定したりすることが基本となっている。この仕組みは、人間の神経細胞とシナプスの働きと大して変わらない。人間の神経系は、入ってくる信号から学習し、その内容を蓄積し、蓄積した内容を“事前情報”として使用して、賢明な判断を下したり行動に移したりする。

 人工知能(AI)関連技術の開発者は過去30年にわたり、さまざまなアプリケーション用に実用的な神経網などの機械学習アルゴリズムを作成してきた。ただし、これらのアルゴリズムは、デジタルの微細化と速度の限界による制約を受けている。

 デジタルビットの切り替えをベースにした今日のデジタルアーキテクチャは、1年半または2年で集積回路の集積度が倍増するという「ムーアの法則」に後れを取らずに付いていく上で、幾つかの大きな問題に直面している。消費電力、微細化、処理速度にはそれぞれ固有の限界があるからだ。AIを人型ロボットに進化させたい場合でも、機械学習を巨大なデータセットに合わせて調整し、広告費をより効果的に使用できるようにしたい場合でも、この問題がついて回る。従来のコンピューティングインフラには、生物的な規模と密度に匹敵する力がとにかくないのである。

 突き詰めると、真の問題となるのは電力である。コンポーネント間でメッセージを送信したり、信号(データ)をやりとりしたりすることは、大きな電力の無駄遣いの1つである。デジタルアーキテクチャの基礎レベルでは、CPUとあらゆるものの間で膨大な量のI/Oが必ず発生する。これは、ごく少量のデータを処理するタスクであっても変わらない。密度を高めたり、小型のチップを開発したり、CPUの近くにフラッシュメモリを追加したりしても、デジタルアーキテクチャでビットを移動するには今でも大きなエネルギーと時間が必要になる。一方、人間の脳では、メモリ、ストレージ、処理の全てが密接にまとまっている。

 脳はアナログベースの省力型のアーキテクチャを運用している。そのため、デジタルなシステムとは異なり、私たちは朝ベッドから起き上がるために何Mワットもの電力を必要としない。目の前にある問題に特化して作成されたアナログ回路は、大量の命令サイクルを必要とせず、高速かつ一直線に目的地に向かう。遠隔地にある端末にビットデータとしてデジタル形式で保存されるのではない。回路に永続記憶装置が備わっていれば、長いI/Oの待ち時間もない。

メモリスタ技術の紹介

 言うまでもなく、シリコンデバイスは基本的にアナログである。しかし、シリコンデバイスは複雑に接続された論理ゲートやストレージとして利用されてきた。もし映画の世界のように、現在のシリコンチップレベルの密度でアナログコンピューティング回路のシリコンを設計できたらどうなるだろうか。この飛躍的な発明は、新たに出現した「メモリスタ」と呼ばれるデバイスのアナログ属性を活用することで実現できる可能性がある。

 メモリスタは、送り込まれる電気信号に基づいて内部抵抗を変化させることが可能なデバイスだ。内部抵抗を測定して、不揮発性のメモリとして利用できる。メモリスタはDRAMに近い高速なシリコンデバイスである。少なくともNAND型のフラッシュメモリより10倍は高速なことから、メインメモリとして利用可能だ。

 米Hewlett Packard(HP)は最新のメモリスタ技術を永続デジタルメモリとして使用する研究を進めている企業の1つだが、メモリスタを市場に送り出すめどは全く立っていない。メモリスタを市場に出すことに成功した企業や人物は、ストレージとメモリを集約させた全く新しいデジタルアーキテクチャの新時代を先導することになるだろう。

 実は、画期的なコンピューティングを他社に先駆けて開発しているスタートアップが1社存在する。それが米Knowmだ。同社は、高速メモリにデータを存続させるだけでなく、1つの操作で複雑な計算処理をするためにメモリスタ技術を活用している。この計算機能がなければ、保存したデータをCPUにアンロードし、処理し、書き戻さなければならない。Knowmによれば、メモリスタの小さな回路のアナログ特性である適応学習機能を備えた“シナプス”を活用しているという。回路に信号を送り込むと、その信号から特定したパターンを直接学習し、同時に保存もできる。

 理論上は、この基本的な機能単位を増強することで、ほとんどの機械学習アルゴリズムの速度を飛躍的に向上できる。Knowmは若い企業ながらも、既にさまざまなテクノロジーを提供している。具体的には、それぞれが独立して動作するシナプスチップ、スケーラブルなシミュレーター、定義済みの低レベルAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)、高度な機械学習ライブラリなどだ。

 AIがお好きな方や映画『ターミネーター』の大ファンの方には申し訳ないが、機械学習は進歩するよりも、打ち切られてしまう可能性の方がはるかに高いと、筆者のチームは考えている。それでも、Knowmが「Neural Processing Unit」と銘打った新しいハードウェアの設計は、極めて高速かつ省電力、高密度、ストレージ集約型のアナログハードウェアの特性をスマートに利用している。この設計は、コンピューティング業界全体に大変革をもたらすターニングポイントとなるだろう。

 メモリスタによるコンピューティングソリューションを最初に活用した企業や人物は、機械学習だけでなく、コンピューティング全体に関する既存の価値観を根底から覆す大変化をもたらすはずだ。

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