大学のIT部門が生きる道【前編】
学生はなぜ“使ってはいけないアプリ”を勝手に利用したがるのか
クラウドサービスの普及は、大学をはじめとする高等教育機関のIT活用の在り方を変えつつある。利便性とセキュリティの間で葛藤する高等教育機関のIT部門の現状を追う。
高等教育機関のIT部門には困難な任務が課されている。それは増加の一途(いっと)をたどる脅威から保護しながら、データやアプリケーションへアクセスしやすい環境を維持することだ。
Hofstra University(ホフストラ大学)のロバート・ジャッキーウィズ氏は、IT部門の全メンバーがコンサルタントだと考えている。これにはマシンルームのオペレーターも含まれる。
教育機関のIT部門が生きる道
「『データ処理事務員がコンサルタントだ』とは考えられないかもしれない。だが実際、彼らはデータの保存やシステムのバックアップ、そして緊急時のデータのリストアをサポートしている」。米ニューヨーク州ヘムステッドにあるホフストラ大学でIT部門のバイスプレジデントを務めるジャッキーウィズ氏はこう述べる。
ジャッキーウィズ氏はホフストラ大学の課題について「IT部門だけでなく大学全体で『テクノロジーに関するアイデアがあるなら、IT部門に伝えよう』という校風をどうやって確立するかだ」と語る。
理論的には、大学のキャンパスは“臨時のIT部門”として機能する。インターネットが当たり前になった世界に生まれ、高等教育機関に通う現在の学生は、今までで最も技術的な教養のある世代だ。また最新技術に詳しい教職員は、安価または無料のクラウドベースのアプリケーションをダウンロードしたり、独自のアプリケーションを開発したりすることができる。
高等教育機関のIT部門は、情報の自由な流れを促進する環境を警戒するだけではなく、学生や教員に対してデータのセキュリティを脅かす異常な脅威について教育しなければならない。
教育機関のIT活用を調査するEDUCAUSEのレポートによると、専門学校や大学のIT部門にとって最大の問題は情報セキュリティだという。その問題を解決できるか否かは、テクノロジーに対して高い期待を抱いているエンドユーザーに、IT部門がどれだけうまくサービスを提供できるかにかかっている。
「IT部門がクラウドサービスを迅速にレビューして提供できない場合、エンドユーザーにとって最も抵抗の少ない方法は、IT部門の関与を避け、自力でサービスを利用することだ」とジャッキーウィズ氏は指摘する。だがそのプロセスにおいて、エンドユーザーは知らないうちに学校や個人のデータを危険にさらす可能性がある。
エンドユーザーがスマートフォンやタブレットを持ち込んでタスクの遂行に使用し始めると、ソフトウェアや他のテクノロジーに関して、IT部門の管轄外にある製品/サービスに目を向ける傾向が組織内に広まっていく。この傾向を「シャドーIT」と呼ぶ。
インターネットで利用可能なクラウドアプリケーションであるSaaS(Software as a Service)の普及によって、IT部門だけでなくエンドユーザーも必要な情報をごく簡単に入手できるようになった。これは全ての業界で発生している事象で、高等教育機関も例外ではない。
ガイドの役割を担う大学のIT部門
ホフストラ大学のIT製品導入プロセスは、学内で利用可能なアプリケーションを増やしにくい構造になっている。同大学のIT部門は、学生約1万1000人と教職員2500人が使うIT製品をまとめて管理している。医学部やロースクールに配置した複数のITスタッフはアプリケーションの選定に携わるものの、購入前にはIT部門の承認が必要だ。
だがIT部門以外の教職員に対しては、話が異なる。
大手パブリッククラウドプロバイダーであるAmazon Web Services(AWS)について、ジャッキーウィズ氏は次のように述べる。「学部のエンドユーザーがAWSのWebサービスを利用するのを阻む理由はない。AWSは安価で適切なサポートを提供している。そのため大学で多数の技術スタッフを配置する必要もない」
ジャッキーウィズ氏と同氏のチームは専門知識を活用し、エンドユーザーがテクノロジーに関して良い決定を下せるようサポートしている。魅力的なアプリケーションに興味を持つ教職員向けには、正当な手順でダウンロードできるようにしている。
学生向けにはもっと面白い仕組みを用意している。バラク・オバマ米大統領がサイバーセキュリティ啓発月間に指定した2015年10月、ホフストラ大学のIT部門はインターネットセキュリティに関する話と、Tシャツやマグカップを用意した学生フェアを開催した。
ホフストラ大学のIT部門は、学生の参加を促すために偽の調査を実施した。「IT部門で無線LANの接続状況を確認する必要がある」という偽の情報を学生に知らせるメールを送付。本文からは、「あなたはだまされています。気を付けてください」といったメッセージを表示するWebサイトへ学生を誘導した。「『これが良くないことだというなら、その理由をもっと詳しく知りたい』と考える学生がフェアに参加した」とジャッキーウィズ氏は語る。
後編では前編に引き続き、各高等教育機関の実例を基に、シャドーITの課題解消に向けてIT部門が取り得る策は何かを見ていく。
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