バズワードになってしまった「AI」
「AlphaGo」は“真の人工知能”からは程遠い、それでも考えたい機械学習のビジネス価値
人工知能(AI)は50年近くにわたりアプリケーション開発の究極目標となってきた。だが現在進められている各種のプロジェクトがAIという看板を掲げているからといって、それらが真のAIであるとは限らない。
人間の囲碁チャンピオンに勝つ囲碁のアルゴリズムは、人工知能(AI)アプリケーションの好例といえるのだろうか。
例えばレイシストのTwitterボットはどうだろうか。
このところ、AIをめぐる動きが目まぐるしい。Googleの「AlphaGo」プログラムが囲碁で人間の世界チャンピオンに勝った。囲碁はチェスとは比較にならないくらい複雑なゲームだといわれている。このプロジェクトはAIをめぐる興奮を大いにかき立てたが、Microsoftのチャットボット「Tay」が暴走して差別的な発言や卑猥な発言をするようになったことで、こうした興奮が一気に冷めた感がある。
では、こうした一連の出来事はAIの現状に対してどんな意味があるのかといえば、何の意味もないのだ。
AIの能力は人間の知能に及ばない
併せて読みたいお勧め記事
人工知能(AI)のビジネス価値
人工知能は人間の仕事を奪うのか?
これらの出来事はいずれも機械学習の好例だ。Microsoftは自然言語処理レイヤーを組み込むことにより、Tayをコグニティブ(認知)コンピューティングの領域に引き上げたといえる。だがTayにしてもAlphaGoにしても、真のAIからは程遠い。
コンピュータAIシステムの生みの親の1人といわれるカーネギーメロン大学の研究者ハーバート・サイモン氏は1956年に「機械は20年以内に、人間が行う仕事を全てこなせるようになるだろう」と述べた。時間軸で見れば同氏の予言は大きく外れたものの、この発言はこれまでのAIの位置付けを端的に示している。すなわち、人間の脳の力を機械の脳の力で置き換えることが目標とされてきたのだ。
だが今日、AIと呼ばれているものを見渡すと、その能力と人間の知能の間にはまだ大きなギャップがある。現在、AIと呼ばれているものの多くは、特定のタスクを実行するために最適化されたアルゴリズムにすぎない。これとは対照的に、人間の知能は多くの異なるタスクを処理できるのが特徴だ。今日のAIシステムはいずれも、状況を理解する能力が広い意味で欠落している。
これはAIの定義の問題ではない。今日のAIと同じような状況は以前にもあった。5年ほど前に「ビッグデータ」という用語が広範に認知されたとき、企業のマーケティング担当者はこぞって自社ソフトウェアをビッグデータシステムと呼び始めた。今日、データの管理や分析を行えるソフトウェアは何でもビッグデータツールと呼ばれている。この用語は手垢にまみれて、今ではほとんど無意味になってしまった。
現在のAIは機械学習システムにすぎない
AIアプリケーションでも同じことが起きている。私の所には、誰かしらからコグニティブコンピュータやAIソフトウェアを宣伝するメールが少なくとも1週間に1回は送られてくる。大抵の場合、これらの製品は機械学習システムと大して変わらない。
もちろん、学習する能力は、自然言語を通じて意思疎通する能力と同様、知能の重要な要素である。また、機械学習は企業にとって素晴らしいツールになる可能性がある。機械学習アルゴリズムをベースとするレコメンデーションエンジンでAmazonが成功したのが好例だ。
だがAmazonのケースをAIの例として挙げるのは行き過ぎであり、これは機械学習やインテリジェンスシステムに関する議論の質を下げることにもなる。AIと聞いてほとんどの人々が最初に思い浮かべるのは、知能を持った機械が人類を抹殺しようとする「ターミネーター」や「マトリックス」のような空想的な未来のディストピアだ。これがビジネス価値をめぐる議論と何の関係もないのは明らかだ。
機械学習のビジネス価値に目を向ける
保険会社であれば、こういったことを気にせずに、機械学習アルゴリズムを使って不正請求を素早く特定するにはどうすればいいかを考えればよい。コールセンターであれば、多数の電話機を使った従来の方式よりも多くの顧客に素早く対応できる自然言語処理エンジンを利用する方法を検討すべきだ。「AIとは何か」という議論は学者やSF作家に任せておけばいい。
ほとんどの人は、AlphaGoやTayがAIアプリケーションの現状にどういった意味があるのかなど気にしてはいない。これらは真のAIでもなければ、現在盛んに宣伝されている製品の多くとも異なっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[Jamf Japan 合同会社] MDMだけでモバイルセキュリティは十分? 不足する対策を16項目でチェック -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的な家電メーカーが実践する「クリエイティブプロセス効率化」の方法とは? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的テクノロジー企業に学ぶ、プロセス標準化とプロジェクト納品自動化の秘訣 -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソニー・ピクチャーズ テレビジョンに学ぶ、次世代サービスデリバリーのヒント -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソミック石川に学ぶ、ICT浸透後に直面した「工数管理」の課題と解決策
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
2
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
3
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
4
【基本情報技術者試験】「デュプレックスシステム」と「デュアルシステム」の違いは?
-
5
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
-
6
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
7
エンジニアが選考を辞退する本当の理由 7割が隠す“面接の違和感”とは
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
「Microsoft一択」で本当にいいのか 知らぬ間にライセンス費用が膨らむ真相
-
10
なぜOpenAIやAnthropicのAIは「脱走」したのか 情シスが迫られるエージェント統制
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
生成AIのハルシネーションを防止 回答精度を高めるセマンティックレイヤーとは
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
-
9
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
10
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー