九州でクリーニング店を営む田原大介氏は、独学で「TensorFlow」を学び、ディープラーニング技術を駆使して衣類を自動認識できる無人店舗作りに挑戦している。
顧客自身に操作してもらうセルフレジがスーパーマーケットに普及し、Amazon.comが米国で無人店舗「Amazon Go」の実証実験を進めている。国内では九州のチェーンストアであるトライアルが、セルフ会計機能付きのショッピングカート導入実験をするなど、実店舗における無人化や省人化に向けた取り組みが広がっている。九州でクリーニング店を営むエルアンドエーも、そうした実証実験に取り組む企業の1つだ。驚くのは、同社が従業員数百人を有する大企業でも、先端的なIT部門を持つ企業でもないということ。同社の副社長、田原大介氏が独学で画像認識のノウハウを学び、無人店舗を作ろうとデータ収集を続けているのだ。
エルアンドエーは、福岡県田川市に8店舗を展開するクリーニング店。田原氏の祖父の代から続き、田原氏が継いだときには既に6店舗あり、しっかり街に根付いたクリーニング店だった。規模は大きくないものの堅実なビジネスに思えるが、なぜディープラーニングをはじめとする人工知能(AI)技術を取り入れて変革に手を付けたのか。田原氏はその理由を「市場の変化」だと説明する。
田原氏が「ある意味、時代の先端を行く地域です」と語る田川市は、過疎地域の指定を受けており、高齢化や人口減少が進んでいる。加えてクリーニング業界の動向も芳しくない。家庭用洗濯機が高機能化したことなどもあり、市場規模は大幅に縮小。総務省「家計調査年報」によると、1世帯(2人以上の世帯)当たりの年間クリーニング支出金額は2017年に6043円と、最盛期である1992年(1万9243円)の半分を大きく割り込んだ。「この傾向が進めば店舗にコストをかけられなくなるので、差別化と省人化を進めなければなりません」(同氏)
差別化については、いち早く手を付けた。従来のクリーニングに、着物のメンテナンスショップと靴・バッグのメンテナンスショップを併設した、新感覚の店舗をオープン。日常衣類の洗濯だけではなく、身に付けるもののメンテナンスという広いニーズに応える専門店としてトライ中だ。
もう1つの省人化に役立つ手段として目を付けたのがITだ。「脱電話、脱メール、脱Excel」を掲げて2008年に内線電話として「Skype」を導入。メールに頼っていたコミュニケーションはチャットツールの「ChatWork」に、表計算やファイル共有は「Google スプレッドシート」と「Google ドライブ」に移行した。
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