「5G」は単なる次世代通信ではない 5Gに秘められた可能性とは?ビジネス上の収益性向上にも期待が持たれる

各社が第5世代移動通信システム(5G)サービスの開始予定を発表している。だが多くの人にとっては、5Gにどんな意味があり、どう収益に結び付き、どんなスケジュールで展開するのかもよく分からない状況にある。

2018年06月24日 05時00分 公開
[Tim WrightComputer Weekly]

 第5世代移動通信システム(5G)のモバイルネットワークについては、「単なる4Gの高速化」という見方から、「ネットワーキングの未来そのもの」という見方まで、多くの説が唱えられてきた。しかし今、ようやく5Gの概念がはっきりする段階に入り、技術が開発され、実験用の設備が稼働し、実験が始まっている。

 モバイルネットワーク事業者は今、計画を立てる立場にある。実際に複数の事業者が、5Gを使った何らかのサービスの開始予定を発表した。それでも多くの人にとっては、5Gに何が求められているのかも、それがユーザーにとってどんな意味があり、どう収益に結び付き、どんなスケジュールで展開するのかも、現実と誇大宣伝との違いも、いまだ分からない状況だ。

 Institute of Telecommunications Professionals(ITP)が2018年5月に英国で開催したセミナーは、こうしたテーマを扱っていた。セミナーには100人以上が出席し、BT、Cisco Systems、英国5G諮問委員会、Nokiaの専門家が登壇した。

機能ブロック

 BTの主席ネットワークアーキテクト、アンディ・サットン氏は、機能ブロックに関する5Gネットワークアーキテクチャについて解説した。このアーキテクチャは、例えば低遅延が求められる用途や、緊急サービス、上りの高帯域幅、スタジアムの観客といった用途に対する認識に基づいている。

 この機能の具体的な実装方法は用途によって異なる。例えば低遅延サービスは、特定の機能をエッジの至近距離に置くことが求められる。だが、そうした機能の多くは仮想化されて、標準的なx86コンピュータプラットフォームに実装されることから、違うネットワークの導入は想定できない。

 5Gの進化と、特に中核ネットワークについては5Gの初期のインスタンス化が4Gに大きく依存するという事実を反映して、アーキテクチャには複数のオプションが存在する。新しいアンテナデザイン、すなわちMIMO(massive multiple-input and multiple-output)では、スループットと容量のために必要となるビームフォーミング技術がある。

ネットワークスライシング

 Cisco Systemsのソリューションアーキテクト、ブーピンダー・シン氏はネットワークスライシングの概念について、主に転送の観点から説明した。ネットワークスライシングは、5Gで最も大切な概念かもしれない。これによって5Gでは、遅延やセキュリティ、サービス品質、帯域幅などに違いのある複数のサービスを同時に提供できる。

 3Gと4Gでも既に、仮想プライベートネットワーク(VPN)という形でスライシングの概念を取り入れ、異なる種類のサービスのために事実上の分離状態を形成していた。5Gではこれが1段階進歩して、ハードスライシング(例えば波長やMPLSの利用など)に加え、ソフトスライシングがアクセスとコア全般にわたって使われる。一度に何百ものスライスを使うこともあり、それぞれがオーケストレーション管理の下で迅速に作成され、変更され、その後削除される必要がある。結果として、あらゆる用途に対応可能な極めて柔軟性が高いアジャイルネットワーク機能を実現できる。

 英国5G諮問委員会のマンスール・ハニフ氏は、ネットワークスライシングを使った5Gのビジネス利用について解説した。これを使えば1つのプラットフォームに対する1回の投資であらゆる種類の新しい収入源を確保できる。課題となるのは、対応可能な複数のサービスにコストを分配することによって、そうした投資から収益を上げることだ。

5Gの潜在性テスト

 ハニフ氏は、ウスターシャーやブリストルでの実験、サリー大学5Gイノベーションセンターでの研究など、複数の実験やテストベッドについても紹介した。

 英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、これが全ての人に開かれ、非常に柔軟なアクセスと利用ができ、コンソーシアムをベースとしていることから、実験とテストベッドのための補助金を確保している。テストベッドは特に、新興ソフトウェア企業に照準を絞っている。

 Nokiaの英・アイルランド担当マーケティングディレクター、ポール・アダムズ氏は、「Cynicism, truth and layered realities」(皮肉、真実、階層化された現実)と題したプレゼンテーションの中で、5Gは単に携帯電話の売り上げを増やすためだけのプラットフォームではなく、全く別のものだと強調した。4Gではモバイルブロードバンドが全てだったのに対し、5Gはマルチサービス対応につながる用途にけん引されるという点で、はるかに包括性が高まる。

 アダムズ氏はブリストルのショーケースの短編ビデオを上映した。これは、5Gの潜在的可能性に一般ユーザーを触れさせたという点で世界初だった。5Gに対する関心は業界を横断して加速しつつあり、技術が現実になっていると同氏は強調した。NTTドコモは2020年に5Gのサービスを開始すると発表し、他の事業者も同じようなスケジュールで取り組んでいる。

 筆者自身はパネルディスカッションの司会を担当した。この場には、不動産会社Cluttonsの通信事業部責任者、ジョン・グラバット氏が加わった。同氏は、ビル管理会社や開発会社と連携することによって、通信インフラの導入を促進させるCluttonsの役割について説明した。特に5Gのコンテキストでは、建物の中に大量のアンテナが必要になる。通信インフラは、電力や水道、空調と同じようなビルの公共設備と見なす必要がある。

 聴衆からは、5GにおけるWi-Fiの役割や、5Gに特有の懸念、または新しいセキュリティの懸念があるかどうか、衛星の利用(特にバックホールで)、アップリンク速度が十分かどうか、周波数の割り当てと料金設定にOfcom(英国情報通信庁)が果たす役割など、幅広い質問が寄せられた。

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