IT化と業務効率化を同時に進める
医療大手が医師の“IT疲れ”を解消するために取った方策とは
EHR(電子医療記録)に関する、医療従事者の作業負担は増えつつある。IT化に伴う医師の疲弊を軽減するためのITツールを開発し、“ITをもってITを制する”ことを試みるKaiser Permanenteの事例を紹介する。
現代の医師は、個人の医療・健康情報を電子的に蓄積したEHR(電子健康記録)を調査し、治療に活用することができる。その作業が増えて過大な負担となり、医師の疲弊につながる場合があるという。
米国最大の非営利HMO(会員制健康維持組織)であるKaiser Permanenteの医師、ラーフル・パリーク氏は2019年4月、米国遠隔医療学会(ATA:American Telemedicine Association)の年次カンファレンス「ATA2019」の講演で、次のように述べた。「医師が健康を維持し、やりがいをもって患者を治療するという健全な働き方を、ITが阻害してしまう場合がある」
Kaiser Permanenteは、医師の疲弊を解消する対策を講じるために、“ITをもってITを制する”アプローチを取った。このアプローチについて詳しく説明する。
“ITリーダー”の任命
Kaiser Permanenteは2012年ごろ、医師の“IT疲れ”を解消するための施策を開始した。
まず各診療科にITリーダーを置いた。ITリーダーを担当するのは医師で、操作の実演を交えて、ITの最適な活用法を同僚に教える役割がある。Kaiser Permanenteは、ITリーダーの教育やサポートもしているとパリーク氏は説明する。
これらのITリーダーは、Kaiser Permanente本部とのパイプ役も務め、ITを治療に活用する方法についての洞察を伝えている。「われわれは当時利用していた全てのITシステムを見直し、もっと有意義に医療現場で利用する方法を模索していた。ITリーダーは、この取り組みのけん引役となってきた」(パリーク氏)
ITで医師のワークフローを簡素化
Kaiser Permanenteはこれまでに、医師のワークフローを簡略化し、医師の疲弊の軽減に役立つ3つの技術を開発した。
EHRツールバー
最初に開発したアプリケーションは、「EHRツールバー」だ。パリーク氏の同僚の1人は、EHRシステムで開いている患者カルテを閉じるために、何度もマウスクリックをしなければならないことに不満を募らせていた。5~6回クリックが必要になる場合もあった。
この同僚は問題解決のために、Kaiser PermanenteのEHRシステムで動作する、EHRツールバーというソフトウェアを開発した。EHRツールバーによって、医師は患者カルテを3回のクリックで閉じることができるようになった。「以前のシステムでも、1人の患者のカルテを1回閉じるだけなら、それほど手間ではなかった。だがその作業を長期間繰り返していると、面倒でうんざりしてくる」(パリーク氏)
Clinician Connect
Kaiser Permanenteが開発した「Clinician Connect」は、遠隔地にいる医師が、Kaiser Permanenteの医療センターに勤務する専門家とスムーズに連携するためのアプリケーションスイートだ。
従来、遠隔地の医師が同センターの専門家に連絡する場合は、病院のオペレーターに電話をかけてつないでもらう必要があった。医師はClinician Connectを使うことで、系列病院ネットワークに接続している医療機関や専門家と直接連絡できる。オペレーターを通す必要はない。
Clinician Connectは、系列病院間でのコラボレーションとコミュニケーションの改善を目的としていると、パリーク氏は語る。「同僚と音声通話や安全なテキストチャット、ビデオ通話ができる。私も患者も、待ち時間が驚くほど減った」
医療用ビデオ通訳ツール
Kaiser Permanenteは医療通訳者も雇用している。パリーク氏によると、医療通訳者は非常に少ないため、医師が必要としているときに業務を依頼しようとしても、手配に時間がかかることがあるという。
この問題に対処するため、Kaiser Permanenteはベンダーと協力し、Appleのタブレット「iPad」からアクセスできるオンデマンドビデオ通訳ツールを開発した。このツールは、米国手話(ASL:American Sign Language)を含む27言語の通訳が可能だ。
今回紹介した3つのアプリケーションは全て、現状の課題を解決するために開発された。いずれも開発には現場の医療従事者が関わっている。「これらの技術は、患者が自分に合った適切な治療を受けるときにも役立つ」(パリーク氏)
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