エンタープライズコラボレーションソフトウェアのSlackは、2019年の上場で一気に名声を高めた。この分野にはどのような選択肢があり、この技術をどう使っているのか。
コラボレーションソフトウェア企業Slack Technologies(以下Slack社)の米ニューヨーク証券取引所への上場は特に多くの関心が集まった。
Slack社のメッセージングサービスは複数の業界で定着している。小売業界ではBenefit Cosmetics、Intu Digital、Walmart傘下のJet.comなどが顧客として名を連ねており、Slack社の成長に対する期待は大きい。同社の「Slack」はデジタルメッセージングとコラボレーション、情報共有のための企業向けプラットフォームであり、電子メールや(デジタルではない)物理的な伝言板の代替を提供する。
Clarins UKのマネージングディレクター、デビー・ルイス氏によると、同社はもう一つのエンタープライズコラボレーションプラットフォーム「Workplace by Facebook」を採用したことで、経営陣にも第一線の従業員にとっても好影響が出ているという。
多くの企業がコラボレーションソフトウェアや技術を社内コミュニケーションのために提供しているが、いずれも機能は少しずつ異なる。Workplace by FacebookはMicrosoftの「Yammer」やSlackと並んで大手に分類されるが、StorIQ、Yapster、Ziplineといった新興勢力も台頭しつつある。一方、企業向けリスト作成ソフトウェア「Trello」を保有するAtlassianは、2018年に「Stride」と「Hipchat」を打ち切り、株式と引き換えに知的財産をSlack社に売却した。
YammerはスーパーマーケットチェーンのSainsbury'sやDIY小売りチェーンのKingfisherといった大手に採用されている。一方、Workplace by FacebookはFarfetchやO2の親会社Telefonicaといった企業で評判がいい。
Yapsterのような新興企業について、製品開発に貢献でき、サプライヤーとの親密な関係を築けるという理由で魅力を感じるという小売業者もある。
Workplace by Facebookについては、私生活での利用とあまりに広く結び付いているという理由で業務への導入に懸念を示す小売業者もある。
ドーナツ&コーヒーチェーンKrispy Kreme Doughnutの人事サービスマネジャー、ニッキー・プラングリー氏によると、欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規則)が発端となって公式ツールの必要性が生じ、会社の情報を共有できるWhatsAppの代替が必要になった。2018年初めにプラングリー氏は同社の英国・アイルランド法人のためにYapsterを選定。このおかげで、それまで確立が難しかったサポートチームと第一線の従業員間のコミュニケーションが実現したと指摘する。
「われわれの店舗の多くは(ショッピングセンター内にある)ボックスストアなので、お知らせを貼り出せる掲示板がない。そうした環境でどうすれば、恐らくシフトの引き継ぎのときにしか顔を合わせないスタッフとコミュニケーションが取れるのか。Yapsterで全く新しい相手とのコミュニケーションの道が開けた。それまではサポートオフィスから管理職に指示を出し、そこを通過してチームに伝えられていた」(プラングリー氏)
コラボレーション技術は会社の成長にも絡んでくると同氏は言う。「会社が大きくなるにつれ、スモールビジネス感覚を保つ必要が生じる。そうした場面でYapsterが非常に重要になる。われわれの店舗はスコットランドからデボン(イングランド南西部)まで各地にある。そうした中でどうすれば、自分がKrispy Kreme Doughnutファミリーの一員だと感じてもらえるのか」
Krispy Kreme Doughnutは、2019年6月にデジタル人事・給与プラットフォームを開設し、そこに全ての書類や勤務表、管理機能を保存して1カ所からアクセスできるようにした。
プラングリー氏は会社の中核的なコミュニケーションのために同ポータルを使い、Yapsterは組織内での成功や実績を評価するための手段として並行利用したい意向だ。「同プラットフォームとYapsterを組み合わせることで、会社を横断して即座に連絡を取ることができる」
成功を祝い、アイデアを共有し、管理職を第一線の従業員と結び付けるために、Honest BurgersはWorkplace by Facebookを利用している。同社は英国全土の35店舗で650人の従業員を抱える急成長中のバーガーチェーンだ。
Honest Burgersの社内コミュニケーションプロジェクトを率いるダニエル・デイビス氏によると、同社は堅調な成長の途上にあり、客も年々増えつつある。だがこの成長を続けるため、従業員に重点を置く必要に迫られている。
Honest Burgersの成長戦略は「従業員の幸せ=お客さまの幸せ=会社の幸せ」にある。だがサービス業界の多くの企業と同様に、スタッフのつなぎ止めが大きな課題になっている。
「Honest Burgersは採用や新人研修にこの1年で1万時間を費やした。それなのに最初の90日で辞められてしまう。これは取り組むべき大きな課題だ。特に、EU離脱によって欧州からの優れた人材の供給に及ぼす影響やコストの上昇、安定した給与に与えるプレッシャー、さらには素晴らしいキャリア形成の場としてのこの業界に対する全般的な見方といった外的要因も考慮しなければならない」とデイビス氏は話す。
Honest BurgersがWorkplace by Facebookを導入した主な理由について、同氏は次のようにコメントした。「社内の誰もが仕事をしやすくするために、できることは何でもやる必要がある。イライラや妨げの原因となる障壁を取り除き、うまくいかないことがあれば従業員の声に耳を傾けられる環境をつくり出したい」
多くの小売業者は「SharePoint」や「G Suite」など、エンタープライズソフトウェアパッケージ製品の一部として提供され、定期的なアップデートの対象となるコラボレーションツールを使い続けている。メインのソフトウェアスイートに別のアプリを組み込んでいる企業もある。
Paul Smithの小売り業務マネジャー、ラッセル・トンプソン氏によると、同社は長年SharePointを使っていて、これは今も「小売店舗や異なる時間帯を横断してコンテンツを動かすための主な手段」になっている。
「社内を横断して情報を伝達するためのよりソフトなツールとして、表彰プラットフォームがある。われわれが提携しているReward Gatewayのポータルは、公式か非公式かを問わず、ブログの掲載やコンテンツのアップロードができる」(トンプソン氏)
Workplace by Facebookの調査によると、ビジネスリーダーの95%はコラボレーションツールの価値を認識していると回答した。だが導入済みという回答は56%にとどまり、この技術の市場には潜在的に多大な成長の余地があることが示された。
Slackが登場した2014年、同社のWebサイトや宣伝文句はこううたっていた。「想像してください。チームの全員が1カ所でコミュニケーションでき、即座に検索でき、どこに行っても利用できると。それがSlackです」
そのシナリオは、コラボレーションや合併、そしてオープンなAPIのアプローチによって、多くの小売業者や接客業者を含む多数の企業で現実となった。
Slackが台頭したのとほぼ同時期に、同社創業者のステュワート・バターフィールド氏はこう語った。「世界はコミュニケーションの在り方における100年の変化が始まったばかりの段階にある。われわれは決然としてその境界を押し広げる」。それから5年、技術が大きく変わり、新しいコラボレーションツールが相次ぎ市場に参入する時期を経て(Slackの上場にまつわる騒ぎは言うまでもなく)、バターフィールド氏の言葉は的を射たのかもしれない。
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