生産性ツール市場でMicrosoftとGoogleが取るべき戦略は同じ?必要なのは第三勢力

Office 365とG Suiteを中心とした生産性ツール市場をGartnerが分析。今後の市場動向と、MicrosoftとGoogleが取るであろう戦略を語った。

2019年10月09日 08時00分 公開
[Caroline DonnellyComputer Weekly]

 クラウドベースの生産性ツール市場は「Microsoft Office 365」(以下Office 365)と「G Suite」の寡占状態であると言える。この状況が近いうちに変化することはなさそうだというのが、Gartnerでデジタルワークスペース部門のバイスプレジデントを務めるジェフェリー・マン氏の見解だ。というのも、この市場に大きな影響を及ぼす挑戦者はなく、MicrosoftとGoogleの優位性を直接脅かす企業が現れる兆しもないためだ。

 MicrosoftとGoogleの生産性ツールに含まれる機能の一部を提供できる企業もある。だが完全な意味で2社のどちらかの地位を奪うような企業は存在しない。

 MicrosoftとGoogleが提供している機能を構成する要素を他のサプライヤーから調達することは恐らく可能だ。だが実のところ、クラウドベースの生産性ツール市場はこの2社の一騎打ちの状態になっているとマン氏は話す。

 同氏は本誌のインタビューに答えて次のように語った。「課題は、1社のサプライヤーが全方位で正面攻撃を行うことではない。それは難しい。1社で電子メールスイート、会議ツール、インスタントメッセージを提供し、それらをドキュメント管理と組み合わせるのは困難だ」

シンプルさをMicrosoftユーザーに売り込むGoogle

 Googleは以前にもシンプルさを売り込むメッセージを活用した。具体的には「Microsoft Exchange Server」の長年のユーザーがOffice 365に切り替えるアップグレードパスを選ぶのをやめさせようとした。

 「MicrosoftがOffice 365について抱える大きな問題の一つは、同サービスが巨大で、肥大化し、複雑になっていることだ。そのためGoogleはシンプルさを強調する。G Suiteはクラウド専用で、オンプレミスやハイブリッドには対応していない」とマン氏は言う。

 「G Suiteは全てをブラウザを通じて行う。用意されているライセンスプランも3つだ。Microsoftの場合、数え方によってはプランが約50にも上る」

 とはいえ、Gartner独自のデータによると優位に立っているのはMicrosoftだという。パブリッククラウドメール市場におけるMicrosoftのシェアは、2018年3月には14.4%だったが2019年4月には16.6%まで上昇している。

 これは少なからず同社のオンプレミスレガシーの恩恵によるものだ。それがGoogleに対する大きな強みになっているとマン氏は考えている。とはいえGoogleのマーケットシェアも、同期間に9.4%から10.3%に増加している。

 「Microsoftは完全にオンプレミス市場を支配し、唯一の競争相手はIBM(Lotus)だった。だが、IBMは生産性ツールの提供をほぼ取りやめ、この市場から撤退した。多くの企業は別のサービスの利用を考えることなく、Office 365を選んでいる。企業がMicrosoftに満足していればユーザーも同じで、そうなるのは自然の流れだ」(マン氏)

 このデータに対するGartnerの見解によると、オンプレミスの生産性ツールからの移行を計画する企業の約3分の2がMicrosoftを選び、残りの3分の1はGoogleを選んでいるという。

 Gartnerのデータの幾つかを詳しく調べると、明確な業界別導入パターンが明らかになる。このデータは、マン氏の言う「インターネットの心臓部」を調べ、そのデータを利用して電子メールのルーティング方法を評価することでまとめられている。

 こうした方法で、Gartnerは現在起きていることに対する現実的な見解を得ることができるとマン氏は言う。だが、同氏はこのアプローチに幾つかの制約があることを認めた最初の人物でもある。例えば、Gartnerが収集するのは電子メールの利用データのみだ。同社はこのデータを使ってクラウドベースの生産性ツール市場全体の状況を把握しようとしている。

 「またデータの収集方法が原因で、オンプレミスとクラウドの両方を利用するハイブリッド導入は不明に分類される」とマン氏は言う。

 「サードパーティー製のスパムフィルターを利用している場合や、風変わりな方法で電子メールを構成している場合にも同じことが当てはまる。また、追跡できるのは上場企業に限られる」

ユースケースのパターン

 Gartnerが集めたデータと事例証拠を組み合わせることで、Microsoftが金融、保険、製薬、航空宇宙といった規制が厳しい業界の企業に好まれていることが分かる。同社の技術が歴史的にこのような業界に定着しているためだ。Googleは教育、小売り、メディア、エンターテインメント業界の顧客や新興テクノロジー企業コミュニティーに選ばれる傾向がある。

 Gartnerが集めたデータではOffice 365を利用する企業とG Suiteを利用する企業の絶対数を確認することはできない。ただし現状に対する全体的な印象は分かる。このような理由から、実際の数値は提示される数値よりも大きくなる。そのため「少なくとも20%が〜を利用している」と表現することになるとマン氏は話す。

 Googleの親会社AlphabetがG Suite事業を分離独立した企業として扱うことを決めたとしても、同社のシェアは収益が10億ドル(約1075億円)をはるかに上回るほどの価値があるとマン氏は言う。同氏は次のように補足する。「GoogleはMicrosoftを打ち負かす必要はない。数十億ドル規模の市場でナンバー2ならば、何も問題はない。同じ意味で、MicrosoftがGoogleをこの市場から追い出す必要もない」

 「Microsoftは多くの市場シェアを有するという点でGoogleを打ち負かし、勝利している。だがGoogleには、他の企業に負けない重要な得意分野がある。Microsoftが勝っているとしても、同社が全てを独占する状況になるわけではない」(マン氏)

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