レガシーアプリをクラウドネイティブ化する方法Computer Weekly製品ガイド

レガシーアプリケーションと新しいデジタルプラットフォームを統合する方法について検討する。

2020年08月27日 08時00分 公開

 レガシーアプリケーションには、組織にとって依然として極めて大きな価値がある。レガシーアプリケーションはある種の安全性と安心感、必要な耐久性を提供しているからだ。イノベーションを加速させるデータがレガシーデータベースに保存されていることもある。SoE(System of Record)として、データ処理などのビジネス機能を支えるために使われる傾向もある。

 だがMuleSoftの欧州・中東・アフリカ(EMEA)担当サービスバイスプレジデントを務めるイアン・フェアクラフ氏によると、新しい消費者需要に適しておらず急速な変化に対応できる能力も低いことから、レガシーアプリケーションでは不十分なことも多い。

 「レガシーアプリケーションを捨てるという選択肢がない以上、それをモダナイズして新しいデジタルプラットフォームと技術をもっとシームレスに統合できる手段を見つけなければならない。レガシーアプリケーションに保存しているデータを使えるようにするため、アクセスを分散してもっと効率的にカスタマーエクスペリエンスを向上させる必要がある」。フェアクラフ氏はそう語る。

ITインテグレーションへの取り組み

 かつて採用していたポイント・ツー・ポイントのカスタムコードインテグレーションでは、2つのシステムをつないでデータが自由に流れるようにすることで、デジタルサービスを推進していた。

 だがITシステムは複雑化し、「結果的にアプリケーションとデータベースと端末の結び付きが強まることがある。それによって緊密な依存関係が形成されて変更が難しくなり、デジタルプロジェクトとアプリケーションモダナイゼーションの進展を減速させる」とフェアクラフ氏は言う。

 多くの組織はクラウドを、アプリケーションモダナイゼーションを加速させる手段と見なしている。パブリックIaaSでホスティングされるソフトウェアは、最新のハードウェアの恩恵を受けることができる。これは、寿命が近づいているかもしれない古いハードウェアへの依存を減らす助けになる。

 だが、メインフレームシステムのモダナイズを専門とするLzLabsのCEO、マーク・クレスウェル氏はこう指摘する。「レガシーアプリケーションはクラウドネイティブコンピューティングの新しい世界に参加できないというのが社会通念だ。評論家がその理由について問い掛けることはめったにない」

 メインフレームアプリケーションが簡単にはパブリッククラウドに移行できない理由は幾つかある。クレスウェル氏によると、相当なリファクタリングと再コンパイルを行わない限り、メインフレームアプリケーションをクラウドで実行することはできない。「メインフレームアプリケーションは一般的に、メインフレーム専用のマシンコードにコンパイルされている。メインフレームの命令セットはx86のそれとは大きく異なる。メインフレームアプリケーションはインフラソフトウェアに依存して、バッチとオンラインアクティビティー、データアクセスおよび他の多くのレガシーメインフレーム機能を管理している。アプリケーションそのものと同様に、このインフラソフトウェアもまた物理メインフレームハードウェアと結び付いていて、標準的なx86環境では稼働しない」

 クレスウェル氏によると、メインフレームシステムをクラウドに移行させる上でのもう一つの障壁は、メインフレームソフトウェアの開発パイプラインが、クラウドネイティブアプリケーションが依存しているラピッドデプロイ機能の多くに対応できないことにある。集中的にプランニングしない限り、メインフレームでテスト環境の回転を速めることは実質的に不可能だという。「レガシーアプリケーションは、各コードブランチを統合した後の大規模なインテグレーションテストに対するサポートが存在しない」とクレスウェル氏は言う。

 クレスウェル氏によると、クラウドネイティブアプリケーションに対応してここ数年で台頭してきた技術の大半は、メインフレームのレガシー環境では利用できない。コンテナ化されたデプロイモデルを使ってアプリケーションコンポーネントを実行することができなければ、他のクラウドネイティブ条件の多くは達成できない。

 だが最近、アプリケーションをそのままの形でコンテナ化されたオープンソースシステムに移行させることが可能になった。ここでは、基本的なメインフレームインフラがソフトウェアで定義された形でクラウドに忠実に再現される。「アプリケーションはまさにそのままの状態で機能できるようになり、クラウドネイティブ実装への道が開ける」とクレスウェル氏は語る。

 ただし、モノリシックなメインフレームアプリケーションをクラウド環境に単純に移しても、クラウドネイティブにはならない。クレスウェル氏にとって、x86サーバやクラウドでは実行できないレガシーAPIを標準的なLinuxとクラウドネイティブコンポーネントをベースとするAPIに入れ替えることが再ホスティングプロセスの鍵を握る。この実装モデルは、クラウドネイティブコンポーネントの活用を可能にすると同氏は言う。

 MuleSoftのフェアクラフ氏は、「デジタルトランスフォーメーションニーズに対応しながらレガシーアプリケーションをモダナイズすることが可能だ。これで新しい可能性が開かれ、準備が整った状態になる」と話す。

 レガシーシステムにアクセスするためのAPIの作成は、アプリケーションモダナイゼーションの物語の一部分にすぎない。Rubrikのデベロッパーリレーションズディレクター、レベッカ・フィツュー氏は、APIをソフトウェア製品のように扱うことを奨励する。「APIコンシューマーが経験する苦労を最小限に抑えるためには、APIを製品として扱う必要がある」

 APIのバージョン管理は、組織が複雑性を解消し、チームが迅速に変更を行う助けになる。フィツュー氏は開発者に対し、アプリケーションを破損する可能性のあるAPIの変更については、新しいバージョンのAPIを作成するよう促している。新しいAPIバージョンを必要とするそうした変更は、APIの一部を変更したりレスポンスの種類を変更したり、レスポンスデータ形式を変更したりするものを対象としなければならない。新しいエンドポイントやレスポンスの値を追加する場合など、既存のアプリケーションを破損するリスクを伴わない場合、バージョンの大きな変更は恐らく必要ないと同氏は指摘する。

 現在、顧客が企業とやりとりする際は、モバイル、デスクトップ、コールセンター、店舗を網羅するバックエンドシステムに接続する。優れたカスタマーエクスペリエンスを実現するために、この接続はシームレスでなければならない。ConfluentのCTO(最高技術責任者)オフィスでリードテクノロジストを務めるベン・ストップフォード氏は言う。「顧客は支払いの参照やカタログの閲覧を行う場合であれ、機械学習ルーティンに誘導されている場合であれ、世界中でやりとりするセンサーに接している場合であれ、単一の連結されたエクスペリエンスを期待する」。これを達成するためにはデータがアプリケーションからアプリケーションへ、マイクロサービスからマイクロサービスへ、あるいはデータセンターからデータセンターへ流れる必要がある。ソフトウェアとデータおよび人を単純ではないやり方で結んでいる企業は、この問題に真っ向から取り組む必要がある。

 ストップフォード氏はIT意思決定者に対し、データを移動中に結び付けて処理するデータインフラを提供するイベントストリーミングシステムの検討を促している。こうしたITインフラは、マイクロサービス、クラウド、オンプレミスデータセンターをリアルタイムで結ぶルートを提供する。「そうしたアーキテクチャは全てが、AppleやNetflixのようなインターネット大手であれFTSE 500銘柄を構成する企業であれ、多数の分散された、だが重要なソフトウェアを1つに見せるという同じ目的を持つ」と同氏は解説する。

中枢神経

 ストップフォード氏によると、イベントストリームはアプリケーションをデータ層で結び付けながら、ソフトウェア層では分離させ続ける一種の中枢神経の役割を果たすことによって、物理的な分離を提供する。「それがグリーンフィールドの開発であっても、モノリシックの進化であっても、クラウドネイティブへの移行であっても、メリットは同じだ」と同氏は言い添えた。

 アプリケーションモダナイゼーションのプロジェクトは、アプリケーション開発に重点を置いてアジャイルやDevOps、オープンリーダーシップといった現代の働き方や管理の方法を推進する傾向がある。だがDMW Groupのアジャイル&デジタルトランスフォーメーションデリバリースペシャリスト、ジョン・ケンドリック氏とAXELOSのITサービス管理担当製品アンバサダーのアクシャイ・アナンド氏によれば、変更管理プロセスの動きが遅くて厄介で官僚的だと感じている組織が多いという。「アジャイルチームは当面の反応として、無視するか、場合によっては変更管理プロセスを完全に拒絶している」

 ケンドリック氏とアナンド氏はそうしたプロジェクトについて、人と業務にどんな影響を与えるかに関する詳細が欠けていることがあると述べ、「変更管理プロフェッショナルの多くは一般的に、チームのペースが速くなれば失敗したりバグが入り込んだり、重要なコンプライアンスニーズを見落としたりする確率も高まると信じている」と語った。

文化的影響の拡大

 アプリケーションモダイナイゼーションはソフトウェアチームを越え、組織全体に幅広い文化的影響を及ぼす。そして文化的影響は、どんなアプリケーションモダナイゼーションプロジェクトにおいても、成否を左右しかねない最大級の問題になる。「ITモダナイズに関連して行うことは何であれ、その会社の現在のやり方に沿っているか、徹底した文化の変更が必要になるかのいずれかでなければならない」。Sumo LogicのEMEA担当バイスプレジデント、イアン・チジー氏はそう話す。

 人々がその変化の価値を認識し、自分たちにとってどんなメリットがあるのか把握できなければ、これはどんな技術の実装よりもはるかに難しいと同氏は言う。組織はAPI接続やイベントストリーミングのような技術を使って情報サイロを結び付けるという領域を越えて、アプリケーションのモダナイズについて考える必要がある。アプリケーションモダナイゼーションプロジェクトを成功させるためには、自分たちの仕事のやり方が改善したと誰もが認識できる方法でビジネスプロセスの改善を目指す必要がある。そのためには人とプロセスと技術を網羅する、データに対する総合的なアプローチが求められるとチジー氏は話している。

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