レガシーアプリケーションをモダナイズするためのヒントComputer Weekly製品ガイド

アプリケーションのモダナイゼーションに際しての課題の一つに、旧システムの知識がある。事例からレガシーの近代化のヒントを探る。

2020年08月31日 08時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]

 企業にモダナイゼーションを迫る要因は多い。注意を要するのは、会社を分割(つまり事業を売却)した後、システムを置き換える必要が生じたときだ。

 Legal & General(以下、L&G)は、2019年5月に損害保険事業をAllianzに売却すると発表したときにこの問題に直面した。ピーター・ジャクソン氏がデータサイエンス部門のグループディレクターとしてL&Gに入社したのは2018年。同氏が任されたのはビジネスのデータ条件をサポートすることだった。

データ転送を助けたのは社内メインフレームの専門知識

 損害保険部門の売却により、L&Gは既存のシステムを破棄する必要が生じた。これがデータウェアハウス戦略を見直すきっかけとなった。

 L&Gは、SAS InstituteのETL(抽出、変換、読み込み)ツールの複数ライセンスに費やす時間と費用を削減したいと考えていた。ジャクソン氏が立てた全体戦略は、L&Gのデータ管理を統合アプローチに移行することだった。最も差し迫った課題は、損害保険事業売却後のL&Gのデータニーズをどのようにサポートするかだ。問題となるデータは、メインフレームの「IBM Db2」に収容されている顧客データベースだ。L&Gは顧客のマーケティングに使えるデータを切り出したいと考えていた。「メインフレームのデータを素早く抽出してETLツールに展開する必要があった」とジャクソン氏は話す。

 そのツールは、メインフレームのDb2に接続して「Microsoft SQL Server」ベースのデータウェアハウスにデータを抽出する必要がある。ジャクソン氏がETLツールとして選んだのは「WhereScape」だ。WhereScapeのメリットの一つは、ETLプロセスの一環としてデータウェアハウスを自動作成する点にある。

 L&Gは多くの企業と同様、自社のITをアウトソーシングしていた。新しいプロジェクトではメインフレームのDb2を理解し、メインフレームのデータとそのメタデータ、その使用方法の関係を把握する必要があった。「数百万行のデータがあった。チームはSQL Serverを理解しなければならず、かなり多くのDb2スキルも必要だった」とジャクソン氏は話す。同氏は、メインフレームとSQL Serverの専門知識を再構築するために社内チームのスキルアップが最善の方法だと決めた。

 このプロジェクトでは、

  • メインフレームのDb2データの切り出し
  • そのデータのクレンジング
  • そのデータの重複排除

を効率的に行う必要がある。ジャクソン氏によると、これには6カ月かかったという。このプロジェクトでは、同社が以前使っていたETLツールでWhereScapeが生成した結果を検証できるというメリットがあったとして、ジャクソン氏は次のように話した。「運用アプリケーション用に比較せずに新しいデータを抽出することもあった。今回は以前のETLと新しいETLの出力を比較して監査できたのでリスクは非常に低かった」

 メインフレームのデータをSQL Serverに移行するプロセスを終えた今、パフォーマンスの向上を目指してデータを他の場所に移行する段階になっているとジャクソン氏は話す。

Active Directoryの最新化

 ドイツの電力会社RWEは既存のITを置き換える必要があった。そのため、同社は将来を見据えたITバックボーンを構築している。ITバックボーンに「Microsoft Azure」ベースの新たなインフラを統合し、デスクトップは「Windows 7」から「Windows 10」に更新して「Office 365」を展開する。同社は数百万ポンドを投じるモダナイゼーションプロジェクトをAvanadeに依頼した。このプロジェクトでは、新たなITインフラのセットアップ、2万人のWindows 10移行が含まれる。

 RWEでインフラの責任者を務めるエドワード・バウマンズ氏は戦略について次のように説明する。「今日のエネルギー業界で成功を収めるには、圧倒的な速度と応答性が必要になる。組織的な変化が必要なとき、即応できる柔軟な運用環境を構築することも重要だ。当社には新しいIT運用モデルが必要だ。だが、競争が激しいエネルギー分野で将来の成長を支えるにはクラウドベースの最新アーキテクチャも必要になる。クラウドベースの新しい職場環境は、当社のアジャイルエンタープライズを構築し、RWEの将来に備えるための完璧な基盤を提供するだろう」

 プロジェクトが開始されたのは2年前。このプロジェクトでは、長年運用しているレガシーActive Directoryを新しいグリーンフィールドIT環境に移行する価値があるかどうかを評価する必要があったとして、バウマンズ氏は次のように話す。「その移行は悪夢のようなものだった。Active DirectoryをAzure Active Directoryに迅速に移行できたため、グリーンフィールドアプローチは適切だったと考える」

 RWEはアプリケーションをクラウドに移行し、クラウドファーストの戦略を取りたいと考えている。だが同社のバックエンドアプリケーションの一部を運用するための新たなオンプレミスサーバもまだ必要だ。バウマンズ氏は次のように話す。「できる限り多くクラウドを利用したいと考えている。だが、一定時間内に事業を分割しなければならず、期限がある。スピードが重要だ」

 2020年末には関連ネットワークとセキュリティをセットアップし、再生可能エネルギー事業を合併に持ち込み、Windows 10に移行する必要があると同氏は語る。バウマンズ氏はそれが簡単な仕事ではないことを認めている。同社はビッグバンアプローチを採用している。同氏は次のように話す。「このようなアプローチを取るべきではない。だが、それが可能であることを証明したい。当社の技術インフラは整っている。2020年1月には最初の1000ユーザーの移行を済ませた」

災害復旧施設から着手

 どのようなモダナイゼーションプロジェクトでも、業務の混乱を招く大きなリスクが存在する。特に、老朽化したIT機器でミッションクリティカルなソフトウェアを運用している場合は、そのリスクが大きくなる。こうした状況に直面しているのがTotal Gas & Powerでヨーロッパエンタープライズアーキテクチャ向けのテクノロジーアーキテクトを務めるドミニク・メイドメント氏だ。企業にエネルギーを供給するエネルギーサプライヤーである同社は、「WebLogic」などのミドルウェアや「Solaris」といったOracle製品の長期ユーザーで、「x86」や「SPARC」などさまざまなアーキテクチャのサーバを運用している。

 「6年前にTotal Gas & Powerに入社した当時、同社の数々の技術に驚かされた。それはNetApp、Cisco Systemsのブレードサーバ、Ciscoのネットワーク製品、VMware製品で構成された『Cisco FlexPod』に部分的に集約されていた」とメイドメント氏は話す。このセットアップによって同社のガスと電力の基幹業務アプリケーションがサポートされ、同社の国外開発者向けに仮想デスクトップが提供されていた。ただし、メイドメント氏は次のように話す。「このインフラを管理するには3人の異なるエンジニアが必要になることが分かっていたので、もっと優れた方法が必要だった」

 同社の災害復旧(DR)サイトを高度な機能を備えた施設として再開発する予定だと知ったとき、この技術アーキテクチャを見直す機会が生まれた。メイドメント氏によると、コンバージドインフラの経験に基づけば、同社の運用システムに大きな影響を与えずにパフォーマンスを向上させることができる新たなインフラを提供する方法を検討するチャンスがあったという。「それは素晴らしいチャンスであり、リスクも少ない」と同氏は語る。

 そこで選択したのが、DRにNutanixのハイパーコンバージドインフラを使うことだった。これによりDRサイトを迅速に運用可能になるだけでなく、10個の異なるプラットフォームを取り除き、1つのコンソールウィンドウでITインフラを管理できるようになった。Nutanixで運用する最新ITインフラにレガシーシステムを移行するのは、単純なリフト&シフトプロジェクトではなかった。Nutanixが一部のレガシーITとは異なるハードウェアアーキテクチャをベースにしていることを前提として、メイドメント氏は次のように話す。「DEC(Digital Equipment Corporation)の『Alpha AXP』サーバで稼働している『Tru64 UNIX』のデータベースなどをエミュレーションする必要があった。これらはStromasysのエミュレーターで運用される」。Nutanixでレガシーアプリケーションをエミュレートできることを示して、メイドメント氏は次のように続けた。「それが適切なことであり、リスクを緩和し、レガシープラットフォームに未来を提供することになると会社を納得させることができた」

 メイドメント氏によると、SPARCサーバについては全ワークロードをx86サーバで運用するSolarisに移してから、それらをNutanixに移行するのが当初の計画だったという。「だが調査の結果、Solarisのパーティション機能で分割した仮想OS環境(ゾーン)を仮想マシンに変換すると、それをNutanixクラスタに直接移動できることが分かった」と同氏は話す。これにより、SolarisベースのWebLogicアプリケーションサーバはNutanixで運用可能な仮想マシンとして移行することができた。

段階的移行

 メイドメント氏によると、フロントエンドアプリケーションに関しては、WebLogic環境をNutanixに段階的に移行するのに先立ち、ソフトウェア開発環境を移行することを計画しているという。バックエンドシステムはもっと複雑だと指摘し、同氏は次のように語る。「当社には、一部のアプリケーションの知的財産権を購入し、固有の要件に合わせて独自に社内開発を始めているという経緯がある。これらについては誰かにサポートを求めることができない。これらのアプリケーションについてはリバースエンジニアリングに最大限の努力を傾ける必要があるため、極めて慎重に扱わなければならない」

 状況によっては、レガシーコードを新しいプラットフォームに移す価値はないかもしれないと同氏は話す。だが、レガシーアプリケーションの機能の一部を生かせる他の事業領域が見つかるかもしれないとも話す。「こうしたことに目を向け、移行する価値が実際にあるかどうかを問い掛ける。レガシーアプリケーションをエミュレートすることになるかもしれないし、何か新しいものを構築することになるかもしれない。場合によっては、MuleSoftのAPI統合を使ってアプリケーションを抽象化することもあるだろう」

 Total Gas & Powerの長期目標は「Red Hat Enterprise Linux」に標準化することだ。だがSolarisから移行するに当たり、アプリケーションの再コンパイルが必要になるだろう。同社が解決する必要がある問題の一つは、Red Hatのエンタープライズサポート契約だとメイドメント氏は話す。Red HatはNutanixのハイパーバイザー(AHV)をホストできる。だがRed Hatエンタープライズサポート契約ではカバーされない。ただし、Nutanixのサポートを受けることはできる。

事業の原動力

 L&G、RWE、Total Gas & Powerの例が示すように、アプリケーションのモダナイゼーションはたまたま行うものでも、デジタル化戦略やクラウドファースト戦略だけが推進力になるものでもない。「大半のアプリケーションモダナイゼーションの取り組みは、何らかの要因がプロセスを後押しすることで行われる」と話すのは、CCS Insightで主席アナリストを務めるボラ・ロティビ氏だ。つまりアプリケーションのモダナイゼーションは別の何かがきっかけになって行われる。

 今回の取材ではレガシープラットフォームをモダナイズする際のリスクを緩和する方法も語られた。L&Gのケースでは、メインフレームベースのDb2でのETL出力は、他のETLツールとWhereScapeの出力と比較することができた。Total Gas & Powerのケースでは、自社のDRサイトを最新化し、これを使ってハイパーコンバージドインフラでレガシーTru64 UNIXデータベースをエミュレートする方法を示すことができた。ロティビ氏は次のように話す。「アプリケーションのモダナイゼーションに採用できるアプローチはたくさんある。ITの意思決定者は下調べを行い、リスクとビジネス価値を検討して最善のアプローチを決める必要がある」

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