先進企業の量子コンピューティング活用例&実証実験もう競争は始まっている

多くの企業が、将来の競争優位を得るため量子コンピューティングのテストを始めている。量子コンピューティングからメリットを得るには、効果がある領域を特定する必要があり、先進企業はそれを見つけつつある。

2020年12月16日 08時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]

 D-Wave Systems(以下、D-Wave)は、次世代プラットフォームとして量子クラウドサービス「Leap」と量子システム「Advantage」を公開した。このプラットフォームには、5000超の量子ビットと15ウェイの量子ビット接続を提供するAdvantage量子システムに加えて、最大100万個の変数を含む問題を処理できる拡張ハイブリッドソルバーサービスが含まれている。

 同社は量子教育プログラム、開発者キット、シミュレーター、ハイブリッドアーキテクチャ、そしてパブリッククラウドで量子コンピューティングリソースを利用可能にすることに取り組んできた。これらは、企業が量子コンピューティングを実験してそのメリットを理解し始めるのに役立つ。

ビジネスチャンス

 2020年の初め、McKinseyパートナーのアレクサンドル・メナード氏、イワン・オストジック氏、マーク・パテル氏とシニアコンサルタントのダニエル・ボルツ氏は量子コンピューティングに関する記事を共同執筆し、ビジネスリーダーが量子コンピューティング時代に向けた計画を検討し始める必要がある理由を説いた。

 多くの企業は今後10年以上、量子コンピューティングから大きな価値を得ることはできないだろうと彼らは述べている。だが、5年以内にメリットを得る企業が出るという見方もある。彼らは次のように書いている。「全てのビジネスリーダーは、量子コンピューティングの仕組み、解決に役立つ問題の種類、可能性を生かすためにすべき準備についての基本的な知識を持つ必要がある」

 D-Waveが451 Researchに委託し、253社の企業に対して行った調査に回答した企業の5分の4以上は、量子コンピューティングからメリットを得られる応用事例があると答えている。この調査では、回答企業の39%が既に量子コンピューティングの実験を行っていると報告している。

 回答企業の半数以上(55%)は、複雑な問題を解くことがビジネス上重要だと答えている。意思決定者の57%は量子コンピューティングの潜在能力が自社に大きな影響を与えると考えていることも分かった。

 ただし、現時点で量子コンピューティングを使う計画はないと答えた企業も62%に上る。3年以内に使う計画はないと回答した153社の68%が、量子コンピューティングで解決できる可能性のある問題領域を特定していることを認めている。

 451 Researchでリサーチ部門のディレクターを務めるオーウェン・ロジャース氏は次のように話す。「驚くほど多くの企業が既に実験を行っており、その大多数は量子コンピューティングが影響を及ぼす可能性のあるユースケースを念頭に置いている。量子コンピューティングによって優位性が得られることを考えると、今実験していない企業は将来不利になる恐れがある」

 ロジャース氏は次のようにも指摘する。「調査の回答は、量子コンピューティングが単に学術的問題や理論上の問題を解くためのメカニズムではなく、財務上の見返りに結び付いていることを示している」

量子コンピューティングの活用と実証事件

 自動車メーカーVolkswagenはD-Waveの顧客の1社だ。Volkswagen Group of Americaで高度テクノロジー部門のディレクターを務めるフロリアン・ニューカート氏は次のように語る。「量子コンピューティングは当社にとって新しいものではない。2019年11月、リスボンでバスを配車するアプリケーションを使ってハイブリッド量子アプリケーションを初めて運用した」

 「Volkswagenは量子コンピューティングについて理解を深めることを重視している。D-Waveのシステムは、多数の変数を持つ最適化タスクに驚くべきスピードで対処する機会を当社に提供してくれる。これらがビジネスに適した量子アプリケーションの前進につながる」

 2020年7月、スペインの銀行Banco Bilbao Vizcaya Argentaria(BBVA)は、動的ポートフォリオ最適化に量子アルゴリズムを使う実験の方法を検討した。動的ポートフォリオ最適化では、非常に多くの変数を使って資産の最適な組み合わせを判断する。時間経過に応じたポートフォリオの運用実績、可能性のある取引手数料、大量売買による市場価格への潜在的な影響の計算に量子コンピューティングを試している。

 計算に数百の資産や要因が関係する場合は量子コンピューティングに利点があることを実証するために、AccentureとD-Waveが協力して量子アニーリングを使ったテストを行った。BBVAによると、このテストで有望な結果を得たため、他の技術を使ってこのケースの調査を継続するようチームを説得しているという。

 BBVAでリサーチおよび特許部門のグローバル責任者を務めるカルロス・クチコフスキー氏は、量子コンピューティングの金融サービスへの潜在的な影響を議論する中で次のように話している。「量子コンピューティングはまだ開発の初期段階だが、金融部門への潜在的な影響は既に現実になっている。当行の調査は、ツールが十分成熟したときに量子コンピューティングが競争上大きな優位性をもたらす可能性のある領域を特定するのに役立っている。ある具体的なタスクについては、今後2〜5年でこの優位性が実現すると考えている」

 D-WaveのCEOアラン・バラッツ氏は次のように話す。「量子コンピューティングは企業(特に大企業)が重大な問題を解決する方法を根本的に変えるところまできている。企業のリーダーや意思決定者がビジネスプロセスを見直し、よりアジャイルで革新的になるにつれ、アイデアをビジネスに大きな影響を与える量子アプリケーションに変えるためのツールやサポートが必要になる」

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