「脱炭素×IT」で何ができるのか? “偽りのSDGs”批判にも抗力を発揮脱炭素社会におけるITの役割【前編】

「脱炭素」の動きが強まる中、ITには何が求められ、何ができるのか。IT分野における取り組みの現状や、今後力を注ぐべき点を探る。

2022年01月27日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

 「脱炭素」の動きが強まりつつある中で、企業のITには何が求められるのか。脱炭素は二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、最終的にはCO2排出量と吸収量が均衡する状態「カーボンニュートラル」を目指す活動だ。この脱炭素に向けた取り組みは、国際連合(国連)が定めた「SDGs」(持続可能な開発目標)とも関係するので、両方の取り組みを併せて検討することもできる。SDGsの目標には、クリーンエネルギーを十分に行き渡らせることや、気候変動への対策、自然環境の保全など、脱炭素と重なる項目も盛り込まれている。

脱炭素を促すITの役割 「Climate TRACE」は何をするのか?

 ITと脱炭素はさまざまな点で関わりがある。サーバやストレージ、データセンターの空調などは電力消費の基であるし、筐体(きょうたい)や内部部品には化石燃料由来の原料を使用している。電力や化石資源の使用を減らす上で、その削減対象になる分野だ。一方でCO2排出量を削減するためにITを活用する視点もある。2021年に登場したツールが参考になる。

 複数のNGO(非政府組織)や企業の連合組織であるClimate TRACEが、温室効果ガスの排出状況を把握するためのツールを2021年9月にインターネットで公開した。このツールはAI(人工知能)技術や衛星画像、センサーなどを使って世界各国で排出される温室効果ガスのデータを収集して可視化する。CO2排出量の標準的な算出方法として採用されている、経済活動状況と排出係数(排出量に換算する指標)を掛け合わせた計算ではなく、観測に基づいてより現実に近い数値を迅速に求めることがこのツール開発の目的だ。脱炭素の成果の可視化にITが貢献することの分かりやすい例だと言える。

脱炭素に役立つシステムに関心

 今後、IT分野において脱炭素やSDGsの取り組みを進める際に、企業は何を重視すべきなのか。脱炭素やSDGsとITの関係について調査した調査会社IDC Japanのアナリスト、村西 明氏は「既存ITの効率性を高めるのは当然のこととして取り組む必要がある。今後は脱炭素を前提にした事業の推進にITを活用する視点が重要になる」と指摘する。

 IDC Japanが国内の約1200社を対象に2021年に実施した調査によれば、脱炭素のために重視するITとして図のような結果が挙がっている。ITを含む既存設備の脱炭素化につながる取り組みは、企業にとっての重要度としては2021年から2023年にかけて低くなる。中でも、図の最上位にある「オンプレミスITのクラウド化」は、2021年と2022年〜2023年を比較すると10ポイント近く下がる。

画像 図 脱炭素のための重要なITとして企業が選択した割合(出展:IDC Japan資料)《クリックで拡大》

 反対に、企業にとって重要度が高まるITは、再生可能エネルギーの需給を制御するシステムなど、脱炭素の取り組みを推進するために必要になる新しいシステムだ。例えば自動車の開発なら、実機を使った衝突実験をやめて3D(3次元)モデルを使ったシミュレーションに切り替えることで廃棄物削減になる。トヨタ自動車とイオンは、配送トラックの走行データを収集・分析して物流の効率化につなげるための協業を公表している。これは図の項目「サプライチェーンの見える化や効率化を図るシステム」に当たる。

いち早く動く金融業界

 脱炭素やSDGsに必要になる新システムの分野において、特に顕著な動きがあるのは金融分野だと村西氏は言う。例えば国内の金融機関は「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」(PIF)という融資を開始している。PIFは環境、社会、ガバナンスに配慮した経営をしている企業を選んで投資する「ESG投資」への関心の高まりを受けて始まった取り組みだ。金融機関はPIFを提供する際、融資先の企業活動が環境、社会、経済に与えるインパクト(影響)を評価して融資を決定する。

 PIFは方向性としてはESG投資と似ているが、環境、社会、経済に与える「良い影響を増やす取り組み」「悪い影響を減らす取り組み」をそれぞれ明確にして企業活動を評価するという点で、ESG投資の意図を発展させた形となっている。具体的に個々の取り組みを評価するにはそのための手法やツールが必要になる。「金融機関が融資先を評価するために、現状や進捗(しんちょく)を可視化し、そのデータを分析するシステムの導入も増加するだろう」と村西氏は指摘する。

 ESG投資が焦点を当てるのは環境、社会、ガバナンスであるため、その対象領域は環境や社会、経済の持続可能性を高めるための17個の目標を掲げるSDGsと重複する。投資の観点ではESG投資、企業が実施する取り組みとしてはSDGsであり、両者は表裏一体の関係にある。

 こうして企業がSDGsに取り組む重要性が高まってくる中において、村西氏は「SDGsウォッシュ」の対策としてもITが役立つ可能性があると指摘する。SDGsウォッシュとは、見せかけのSDGsの取り組みを指す。実際には活動や結果が伴っていないにもかかわらず、社外に対してSDGsの取り組みをアピールすることだ。そうした企業が批判の的になる例も出ている。企業の目標や活動状況に関するさまざまなデータを突き合わせて、実態を把握するための仕組み作りにITは欠かせない。


 後編は、脱炭素を視野に入れて既存IT運用を見直すポイントや、SDGsとの関連が高いIT施策の例を紹介する。

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