「脱炭素」や「SDGs」に対してIT分野ではどのような取り組みが求められるのか。社会のデジタル化が今後も進んで、IT機器の利用機会が多様化する中で、これらは軽視できないテーマになりつつある。
「脱炭素」(二酸化炭素=CO2の排出量削減の取り組み)や、その活動と部分的に重なる「SDGs」(持続可能な開発目標)の動きは、IT分野にも少なからぬ影響を与える。大企業を中心に「カーボンニュートラル」(CO2排出量と吸収量の相殺)の方針を掲げる動きが世界で相次いでいること、国内では2022年の税制改正ではいったん見送られたものの炭素税導入の検討が続いていることなど、脱炭素に向けた動きが強まっている。下記のような外圧も浮上しつつある。
例えばAppleは、自社のカーボンニュートラルを進めるだけではなく、同社のサプライチェーンにも同様の取り組みを求めると公表している。取引先から取引先へと、その動きは広がる可能性がある。
こうした中で、企業のIT部門は脱炭素やSDGsについて何を検討すればいいのか。前編「『脱炭素×IT』で何ができるのか? “偽りのSDGs”批判にも抗力を発揮」は、IDC Japanのアナリスト、村西 明氏の解説を基に脱炭素を契機とした産業界の変化について触れた。本編は既存のIT運用を見直すポイントや、国際連合(国連)が定めた広範に及ぶSDGsの目標をIT施策に取り入れるアプローチについて考察する。
既存のIT設備の脱炭素につながる施策としては、エネルギー効率の高い製品へのリプレースやエネルギー効率向上につながる運用の改善、クラウドサービスの使用などが基本だ。これらは電力コストにも影響するので、企業としては徹底すべき取り組みになる。AI(人工知能)技術をはじめとする高負荷のデータ処理をするとなれば、それだけサーバの消費電力が高くなる。効率的なサーバの冷却方法を検討する必要も生じると考えられる。
クラウドサービスの利用が脱炭素につながる可能性がある理由は、さまざまなクラウドベンダーがデータセンターで調達する電力源を再生可能エネルギーに転換しているためだ。自社が化石燃料由来のエネルギーを使用しているとすれば、クラウドサービスに移行することは温室効果ガスの削減につながる。ただしクラウドサービスに移行するかどうかは、まずはシステムの特性や構築・運用の都合を優先しなければならない。クラウドサービスに移行することによる温室効果ガスの削減は、あくまでも結果論として捉えるべきだ。
ITのエネルギー効率向上と言えばハードウェア自体の電力消費を考えがちだが、ソフトウェアからのアプローチもある。企業がデータ利用時にコンピューティングやストレージのリソースを使用し、それに伴い電力消費が発生することを前提にすると、「効率的にハードウェアのリソースを使用する視点も重要になる」と村西氏は話す。これにつながる取り組みが生まれている。
2021年にソフトウェアのエネルギー効率を測定するための国際規格「ISO/IEC 23544:2021」が誕生した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が助成した事業だ。例えばソフトウェアが効率的にハードウェアのリソースにアクセスするようにソフトウェアを設計することで、利用するリソースの削減、それに伴う電力消費の削減が見込める。この国際規格はそうした取り組みを進める上で、どれだけエネルギー効率の向上を図れているのかを評価するための指標になる。既存のITシステムの効率化や、脱炭素のためのシステム開発時に活用できる可能性がある。
こうした脱炭素の取り組みはSDGsの項目とも重なり合う部分があるが、SDGsの17個の目標はそれ以外にもさまざまな観点を含んでいる。例えばSDGsには貧困や飢餓の解消、質の高い教育機会の提供、陸や海の環境保全といったものも含まれている。
SDGsとITの関わりを見いだすのは簡単ではないが、村西氏によればさまざまな試みが進んでいる。例えば下記のようなものだ。
これらの社会貢献の要素を含むSDGsの活動と本業の成長をすぐにつなげることは簡単ではない。それでも村西氏は「SDGsが新ビジネス創出のきっかけになる可能性もある」と言う。SDGsは17個の広範な目標を掲げているので、それだけ広い観点で検討する余地がある。
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