無線LANアクセスポイント(AP)の伝送速度や同時接続数などの性能は差がつきにくくなっている。そうした中、ベンダー各社はネットワークの分析機能に力を入れ始めている。
無線LAN(Wi-Fi)やそのアクセスポイント(AP)の機能は成熟してきており、現在はAPの性能で差がつきにくくなっている。こうした中、ベンダー各社はWi-Fiのネットワークを流れるデータを可視化して分析する機能を充実させたり、ネットワークを分析するための独自機能を加えたりすることで、差異化を図っている。具体的に、ネットワークの可視化や分析でどのようなことが可能になるのかを確認しよう。
最近では屋外でもWi-Fiの活用が広がっている。スタジアムでは人の多さや、天気による電波の波及環境の変動しやすさなどからWi-Fiの設置が敬遠されてきた。しかし、機器性能の向上や運用ノウハウの蓄積などによって、観客向けの無料Wi-Fiスポットが整備されるようになってきた。「スポーツ会場で利用されるデータ量は増加傾向にある」とネットワーク機器ベンダーExtreme Networksでユーザー企業の無線LAN導入を支援している宮本福雄氏(システムエンジニアリング部)は解説する。
例えば、試合中にSNSにアクセスする観客がいると分かれば、試合中に選手名を付けたハッシュタグを作成してファンに投稿を促したり、該当するSNSに広告を出したりといった施策が可能になる。「実際、米国のあるスポーツチームではスタジアム内のネットワークを分析した結果、試合中にチームに関する動画を『Facebook』や『Instagram』に投稿する観客が想定より多かった」と宮本氏は話す。
このように、ネットワークを分析して、その結果を基に施策を打ち出すことでファンとの交流を深めるチャンスにつながる可能性がある。近年は一部のAPが通信の中身を精査する「ディープパケットインスペクション」(DPI)機能を搭載しており、パケット(ネットワークを流れる分割されたデータ)を分析してさまざまな情報を得ることができる。
Extreme Networksは、DPIによるネットワーク分析の効果をユーザー企業にアピールして、競争力につなげている。
「APから取得できるユーザー数、ユーザーの位置情報、トラフィック(ネットワークを流れるデータ)量などのデータと、スタジアムの運営者が持つデータを組み合わせることで、マーケティング活動につなげることができる」と宮本氏は述べる。同社はネットワーク分析ツール「ExtremeAnalytics」を提供しており、その拡張機能「Extreme Cloud Business Insights for Venues」を利用することで、CSV形式のファイルを利用して他のデータと組み合わせて分析できる。
Extreme Cloud Business Insights for Venuesの画面。アメリカンフットボールの試合中に起きたイベントと、会場内のWi-Fiにアクセスしたユーザー数を時系列で分析している。《クリックで拡大》米国のプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」(National Football League)のとあるチームでは、Extreme Networksの無線LAN APとExtreme Cloud Business Insights for Venuesを利用して、「観客がアクセスしているアプリケーションやWebサイト」に関するアクセス数などのデータと、「アメリカンフットボールの試合中に発生したタッチダウン(得点を獲得する方法の一つ)やハーフタイム(競技の中間におく休憩)などのイベントの時系列データ」を組み合わせて分析。どのようなタイミングで観客のエンゲージメント(組織への献身の度合いやモチベーション)が高まるかを分析している。
「観客がどのようなタイミングで、どのようなアプリケーションを利用しているかに関するデータを把握することは、チームにとっても意味がある」と宮本氏は解説する。例えば、観客が試合をどのように楽しんでいるか、どこに関心を抱いているかなどを理解できれば、新しいコンテンツの企画や、試合中の演出の工夫につながる。
その他にも、スタジアムにおけるパケットを分析することで以下の効果が期待できる。
このようにネットワークから得られたデータを分析することで、さまざまな洞察を得ることができる。ダッシュボードやグラフを用いて、必要な情報を一目瞭然にすることは、もはや難しいことではない。
だが、データを得てもマーケティング活動に直結するわけではない。可視化されたデータから、どのような意味を読み解き、どのような行動につなげるかは、ネットワーク機器ベンダーとユーザー企業双方が今後も検討を重ねる必要があるだろう。
次回は小売店での導入例を基に、ネットワークを分析することのメリットを解説する。
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