医療現場におけるデジタル成熟度の底上げを目指し、英国政府はNHSの予算制度を見直し、医療機関がIT化を進める際の資金調達プロセスをより明解にするための行動計画を提示している。その内容は。
中編「『医療DXの意欲があっても予算がない』問題を解決する『WPfW』とは?」は、英国の国民保健サービス(NHS:National Health Service)における、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を目的とした資金調達を円滑にする国家的な取り組みを紹介した。NHSのデジタル推進部門であるNSHXは、医療機関のDXプロジェクトで直面しがちな課題に対してさまざまなガイドラインを用意し、具体的なアクションを示している。医療機関のIT活用を推進する際の指針となる「What Good Looks Like framework」(以下、WGLL framework)はその一例だ。
医療機関および統合ケアシステム(ICS:Integrated Care System。注1)の関連組織がデジタル関連の負債を把握し、WGLL frameworkで定める成功基準を満たす条件を可視化するために、英国政府は専用の計算ツールを提供する。これにより医療機関は、IT投資から得られる利益を追跡しやすくなる。既存のIT製品やサービスを利用するに当たって、組織全体でベストプラクティスを共有することも容易になる。
※注1:地域住民への医療と福祉サービスを提供する組織(NHS傘下の医療機関、地方自治体、ベンダーなど)が、サービス提供体制の改善を目指して締結しているパートナーシップおよび、包括的なサービス提供体制のこと。地域ごとの統括組織となる統合ケア委員会(Integrated Care Board:ICB)は、本稿公開時点で英国全土に42件存在する。
2022年以降、ICSはIT投資計画に対する資金をICS自身の予算から捻出することになる。ICSの財源は、電子カルテをはじめとする医療情報システム、クラウドサービス、データセンター、ハードウェア、セキュリティ対策など、医療機関で利用するさまざまなシステムの導入に当てられる。一方で国家財源は、国のインフラ、NHS公式の医療アプリケーション、「NHS Long Term Plan」(5〜10年先の社会情勢や医療ニーズの変化を見据え、資金調達やサービス品質の維持を目指すための長期計画)にひも付く試験的なプロジェクトを対象とするようになる。
NHSXは、IT投資に関して医療機関が直面する障壁を特定して克服し、プロジェクトへの資金調達を最適化するために「Who pays for what」(以下、WPfW)という提言書をまとめている。この提言書には、ICSと国家それぞれの資金調達の手法を今後どのように変えていくかについて、以下のような説明がある。
※注2:NHSにおいて、各地域への財源配分や医療改革(臨床研究プロジェクトなど)を主導する組織。元はNHS EnglandとNHS Improvementはそれぞれ独立した組織だったが、両者は2019年4月から単一の組織として連携している。
2021年8月31日(現地時間)、NHSXのCIOであるソニア・パテル氏は、NHSX公式ブログにエントリ(投稿)を公開した。そのエントリでパテル氏は、英国の医療機関におけるデジタル成熟度は「依然として一様ではない」と指摘した。
パテル氏は、NHSXがWGLL frameworkやWPfWの策定を通じて目指すものは「全ての地域の医療機関や介護施設を支援し、患者や医療従事者が取り残されることなく、デジタルの進歩を継続させることだ」と説明する。
医療の仕組みの内で学び、制度の垣根を越えて学ぶ。デジタル成熟度の高い模範的な組織と共存する機会を受け入れる――これらはいずれも「非常に重要だ」とパテル氏は語る。「共同学習の精神は、臨床現場のデジタル化を支援する全ての取り組みの根底にある。この精神は、WGLL frameworkを通じて提供するサポートの重要な構成要素だ」(同氏)
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