英国はソーシャルケアサービスのデジタルトランスフォーメーションに対する資金援助施策を実施し、この分野の変革を促そうとしている。プロジェクトの成果はどのようなものか。
英国におけるソーシャルケア(注1)のデジタルトランスフォーメーション(DX)施策は、約1億2700万ポンド(約191億円)の大きな利益をもたらす可能性があるという。このDX施策(以下、ソーシャルケアプログラム)は2016年に開始し、2021年に終了した。高齢者介護施設の遠隔モニタリング技術や、介護士を支援するロボティクス技術、介護施設居住者が病院訪問時に持参する「e-Red Bag」(注2)など、100件以上のプロジェクトに資金提供を実施し、総投資額は2280万ポンド(約34億円)に及んだ。
※注1 英国の「ソーシャルケア」は、高齢者や障害者、乳幼児などに対する社会福祉制度のこと。
※注2 英国サットン区は2015年から「Red Bag Pathway」という制度を実施している。これは高齢者や限局性学習障害者などが救急医療を必要とする場面で、救急医療機関への搬送を効率化するための取り組み。患者が必要とする医薬品や私物に加え、個人情報や薬歴など標準化された資料を1つのかばんに保管しておくことで、医療従事者、介護者、患者の情報共有を効率化する。e-Red Bagは、この患者情報をまとめた資料を電子化して共有するもの。
NHS Digitalによると、この新しい取り組みは入院やクリニック受診の機会を減らすと同時に、人々の生活の質を高める可能性がある。NHS Digitalは英国の国民保健サービス(NHS:National Health Service)において、ビッグデータなどのIT活用の司令塔となる組織だ。ソーシャルケアプログラムでも主導的な役割を担っている。
ソーシャルケアプログラムによって導入されたITは「すでに人々の暮らしに影響を与えている」と、NHS Digitalのソーシャルケアプログラムリーダーであるジェームス・パルマー氏は話す。今後もITは個人の生活だけでなく、医療やソーシャルケアにも幅広い恩恵をもたらすとパルマーはみる。
NHS Digitalのアプローチは「始めから終わりまでサービス利用者が主体であり、われわれは介護事業者や地方自治体と協力してきた」とパルマー氏は説明する。その結果、ケアを必要とする人と提供する人の両方に成果やメリットをもたらすことができ大きな自信につながった」(同氏)という。
ソーシャルケアプログラムの支援対象となったプロジェクトは幾つかある。NHS Digitalは組織や内容に基づいて、これらのプロジェクトを
などに分類した。この中でSocial Care Digital Pathfindersは地方自治体と非営利介護事業者を対象としており、データの標準化や情報共有手法の模索をテーマの軸に据えていた。26件のプロジェクトが開発段階で資金援助を受け、さまざまな地方自治体で幾つかの小規模な実証実験を実施した。
最近のトレンドは、幾つもの成年者向けソーシャルケアサービス事業者が、デジタルサービスの開発をするためにNHS Digitalから援助を受けたことだ。英国の全国介護者協会(National Care Association)の副会長マンディ・スローン氏は「Social Care Digital Pathfindersの支援は、永続的な遺産となった」と述べる。特に、成年者向けソーシャルケアサービス事業者と地方自治体、そしてNHSの連携を強化し、個人の意見をケアに反映する上で役立ったという。Social Care Digital Pathfindersは2021年3月に終了したが、このプロジェクトの成果物は今後、他の組織も利用できる。
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