“1週間無充電で動くスマホ”も実現? IBMが開発した「夢の半導体チップ」とは「ムーアの法則」の限界突破に望み【前編】

トランジスタを垂直に積み重ねる新しいチップ設計をIBMが発表した。半導体業界がスケーリング(微細化)の壁にぶつかる中で、このチップに集まる期待とは。

2022年07月11日 05時00分 公開
[Ed ScannellTechTarget]

 IBMはトランジスタを垂直に積み重ねる構造のチップ(半導体集積回路)を開発した。このチップが革新的なのは、より多くのトランジスタを搭載するとともに、エネルギー消費量を格段に減らせる可能性があることだ。米ニューヨーク州にある施設「Albany NanoTech Complex」が新チップの研究開発拠点になった。IBMはSamsung Electronicsと共同で新チップの開発を進めた。

 この新チップを利用することで、暗号資産(仮想通貨)のマイニングなど、サーバを大量に使用する場合のエネルギー消費量を大幅に減らせる可能性がある。「ムーアの法則」の限界を回避できる可能性も見えてきた。

スマホが充電なしで1週間動く? IBM「夢の半導体チップ」の中身

 新たに開発したチップにIBMが期待しているのは、例えば自動運転や宇宙船、海上の用途などにおける活用だ。こうした用途はエネルギーの調達が容易ではないため、省エネルギー化が重要になる。一方であるアナリストは、省エネルギー化は携帯電話やIoT(モノのインターネット)デバイスでも必要だと指摘する。新チップをスマートフォンに使用すれば、1回の充電で1週間使い続けることも夢ではない。

 調査会社Futurumの創業者でプリンシパルアナリストのダン・ニューマン氏は、以下のニーズが高まっていることを理由に、IBMの新チップはエッジ(データの発生源の近く)やIoTにおける大きな進歩だと評価する。

  • 遠隔にあるデバイスのネットワーク接続をより長時間にわたって維持したい
  • 遠隔で使用するAI(人工知能)技術向けの計算能力を向上させたい

トランジスタを垂直に積み重ねる利点

 IBMが開発した新チップは、トランジスタを平面に並べるのではなく、垂直に積み重ねる。これによってチップにより多くのトランジスタを搭載できるだけでなく、エネルギー効率を大幅に向上できるようになった。

 この設計は、ムーアの法則の限界を回避する可能性を秘めている。ムーアの法則とは、18〜24カ月でチップのトランジスタ数が2倍になるという法則だ。Intel創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が1965年に提唱した。近年、チップベンダーはスケーリング(微細化)に苦慮しており、ムーアの法則は限界を迎えていた。

 IBMによる新チップは、垂直型トランジスタ「VTFET」(Vertical Transport Field Effect Transistor)を技術の軸としている。トランジスタをチップの表面に対して垂直に実装することで、電流を上下方向に流すことを可能にした。この設計によってより大きな電流を流すことができ、エネルギーの無駄を省くことができるとIBMは説明する。

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