失敗は許されなかった――Citiのソフトウェア導入を支えたものとは?銀行が考えるデータの生かし方【中編】

顧客体験の向上に取り組む金融機関Citigroupは、データに基づく顧客応対を実施するためにソフトウェアを導入した。導入に際しての課題や、その課題を乗り越えるための取り組みを紹介する。

2023年11月08日 07時00分 公開
[Bill GoodwinTechTarget]

 金融機関Citigroup(以下、Citi)は、パーソナライズされたサービスを顧客に提供し、顧客体験を向上させる取り組みを実施している。独自に開発したルールエンジン(業務上の判断を自動化する仕組み)や、CRM(顧客関係管理)ベンダーPegasystemsが2010年に買収したChordiant Softwareのソフトウェアなど、さまざまな意思決定の手段を利用して顧客とのやりとりを管理してきたが、そこには課題があった。意思決定支援に使用するソフトウェアを、モバイルバンキングとインターネットバンキングそれぞれで運用していたのだ。

 Chordiant Softwareから引き継いだソフトウェアのテクニカルサポートをPegasystemsが縮小し始めたのをきっかけに、Citiはソフトウェアを刷新する必要に迫られた。

悩んだ末にCitiが選んだソフトウェアとは

 意思決定支援のための新たなソフトウェアを探す過程で、Citiは幾つかのベンダーと協議をし、そのたびに行き詰まったという。同行のパーソナルバンキング事業部で分析、テクノロジー、イノベーション担当の責任者を務めるプロミティ・ダッタ氏は、「状況が変わったのは2019年だった」と話す。「さまざまなソフトウェアを簡易的にレビューし、最終決定を下した」と説明する。

 PegasystemsやSalesforce、Adobeをはじめ20社からの提案をレビューした後、CitiはAI(人工知能)技術を搭載する意思決定ソフトウェア「Pega Customer Decision Hub」を導入することに決めた。

 ソフトウェアの選定においては、分析、IT、融資といった複数の部門の従業員が戦略チームを組んで協力したという。

失敗は許されない

 Pega Customer Decision Hubには、Chordiant SoftwareのソフトウェアにはなかったAI技術が備わっている。CitiではAI技術を利用するために業務のプロセスを新たに開発する必要があった。そこで、分析部門が他部門と連携し、社内に存在する業務プロセスの洗い出し、その業務プロセスが存在している理由の究明、業務プロセス同士の連携に取り組んだ。

 「さまざまな規制を順守しなければならない金融機関として、一切失敗は許されなかった」とダッタ氏は語る。「学んだことがあればその場ですぐに業務に適応していかなければならなかったし、失敗は許されなかった。それは大きな挑戦だった」

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を機に、Citiではテレワークを余儀なくされ、ソフトウェア導入への取り組みは困難を極めたという。「ワークショップを何度も開催し、電話会議にも時間をかけた」とダッタ氏は語る。

 導入に際してはさまざまな部門の従業員からボランティアを募ったという。「この取り組みに貢献する準備が整った従業員がまず戦略チームに参加を表明したし、その表明を拒む者はいなかった」とダッタ氏は振り返る。

 ダッタ氏によると、マーケティング部門の業務の中から移行可能なものをPega Customer Decision Hubに移行し始めたという。その後、顧客エンゲージメント部門や他部門へと移行の取り組みを広げていった。

 戦略チームが直面した最大の課題は、Pega Customer Decision Hubの仕組みと、Citiが蓄積してきたデータをどう連携させるかを従業員に説明することだったという。「連携といえば、コンセントにつなげば動くようになるイメージ。みんながそのように思っていた。でも、そんなことはない。家庭用のWi-Fiにつなげるのとは訳が違う」とダッタ氏は話す。

 Citiは、インターネットバンキングとモバイルバンキングのデータをPega Customer Decision Hubに統合し、支店とコールセンターの連携も進んだという。


 後編は、パーソナライズした顧客応対を実施するだけにとどまらず、一歩進んだデータ活用を実施するCitiの取り組みを紹介する。

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