ERPの導入に当たって当初想定していたよりも高額な費用を請求されたり、計画していなかった費用が発生したりする場合がある。想定外の「目に見えない費用」にはどのようなものがあるのか。
ERP(統合基幹業務システム)を導入する中で生じる費用が、想定よりも高額だと感じるIT担当者は珍しくない――。そうした事実に対して、コンサルティング企業WithumSmith+Brownでクラウドテクノロジーリーダーを務めるウォーリー・マーカス氏には次のように指摘する。「十分な計画を立てられないままERPの導入に進む企業は、想定していなかった費用や予算超過に遭遇する可能性が高い」
このような指摘があるにもかかわらず、費用に驚く企業は依然として存在する。想定していなかった「目に見えない費用」はなぜ生まれるのか。IT専門家が挙げる9つの要因を紹介する。
企業がまず驚くのがERPのライセンス費用だ。コンサルティング企業Protivitiでマネージングディレクターを務めるジョン・ハリソン氏は、「導入が始まってから、当初立てた計画が正確でも詳細でもなかったことを思い知らされる」と話す。
「ERPのスペックや従業員がERPに期待する役割を詳しく理解しないまま予算を組んだ場合、その金額が現実に即していない場合がある」とハリソン氏は説明する。その結果、計画が進むにつれて、IT担当者は想定していたよりも多くのモジュールが必要であることに気付き、途端に費用が高額になる可能性があるという。
自社の業務プロセスを十分に理解しないまま、従業員のニーズに合わないERPを選択する場合がある。その結果、導入自体が頓挫したり、従業員のニーズとERPの機能を整合させるための追加作業と、そのための費用が必要になったりする可能性がある。
ERPに接続するシステムの数を少なく見積もると、システムを連携させる段階になって人件費や技術の導入費が必要になるといった状況になりかねない。「予想外に追加費用が必要になってしまった事例を見てきた」とハリソン氏は話す。ERPとデータを連携させた結果、ミドルウェアのサブスクリプション費用が増加した事例があるという。
既存のワークフローに合わせてERPを微調整することで生じる費用もある――マーカス氏はこう指摘する。一部のマルチテナント(インフラ共有型)SaaS(Software as a Service)型ERPは、さまざまな業界で蓄積された成功事例やガイドライン、最適な業務プロセスや管理手法などに基づいて、業務の効率化や自動化を支援可能だ。一方で、そのような情報に基づいて業務プロセスを構築せず、既存のワークフローで動作するようにERPをカスタマイズしようとすれば、想像以上に高い費用が発生する場合がある。
マーカス氏は一部のシステムインテグレーター(SIer)について、「企業がERPのカスタマイズを求めてくれば『分かりました』と返事するものの、具体的にどの程度の費用が発生するのかは言わない場合がある」と指摘する。そうしたSIerは、「作業が終わったら料金を請求するだけ」だという。
企業が独自にカスタマイズしたERPの機能を使う場合、そうした機能を保守したり更新したりするのはSIerではなくERPの利用者である企業だ。企業にはそのような作業に必要な費用が継続して発生することになる。「機能のカスタマイズが、長期的に膨大な費用を生じさせる可能性がある」(マーカス氏)
ERPコンサルティング企業ElevatIQの創業者兼CEOを務めるサム・グプタ氏は、「ERPの導入計画を誤った場合に予期しない人件費が発生する場合がある」と話す。
例えば経営層は、ERPを使った業務に必要なスキルを企業の過小評価する一方で、従業員の専門知識を過大評価することがあるという。「こうした誤算によって、ERP導入を完了させるための人材が不足することになる」とグプタ氏は説明する。
従業員の就業能力を過少評価する経営層もいる。「従業員が通常業務をこなしながらERPの導入もできるはずだ」と期待してしまうのだ。その結果、導入を支援する従業員を調達したり、ERP導入に携わる従業員の本来の業務を穴埋めしたりするための人件費が必要になる場合がある。
コンサルティング企業Taffet Associatesのマネージングパートナー兼最高情報責任者(CIO)を務めるグレッグ・タフェット氏は、「目に見えない最大の費用の一つは、データに関する作業に由来するものだ」と指摘する。
レガシーなERPを使ってきた企業は、データの集約や活用に不慣れなこともしばしばだ。ERPの導入に先立って、データの構築や活用にそれほど注力していなかった場合、「新しいERPへの移行に際して想定してなかったデータ処理に関する費用が発生する場合がある」とタフェット氏は説明する。具体的には、データのクレンジング(不正確なデータの排除)や管理といった作業に要する費用だ。
ERPの導入に振り分けた従業員の穴埋めをする従業員が経験不足だった場合、業務が遅延したり、その遂行が難しくなったりする場合がある。その結果、業務の生産性が低下し、ビジネスチャンスを逃すことにつながりかねない。これもERP導入に伴う目に見えない費用だと言える。
「レガシーなERPを使ってきた従業員にとって、新しいERPは機能を強化するというよりも業務に変革を起こす存在だ」。タフェット氏はこう指摘する。新しいERPに合わせて、従業員の働き方にも変革を起こさなければならない。
タフェット氏によると、この変革にかかる費用を予測しない企業がある。そうした企業は、ERPを使いこなすための従業員トレーニング費用も、企業の変化に必要な時間も不足してしまう恐れがある。
従業員が不慣れな中でERPを使うことに時間を割けば、業務の生産性は低下し、ERPを使いこなしたいと考える従業員が増えればトレーニング費用がかさむ。ERPの導入に反対する従業員がいれば、ERPの導入で得られるはずだった効果が減少する可能性もある。
「目に見えない費用の発生は回避できる」とグプタ氏は指摘する。
ERP導入で発生する業務の中には、データの準備と移行に関連する費用をはじめとして、正確に把握するのが難しいものがあるという。ERPは頻繁に導入するものではないため、正確な費用を見積もるのは困難だ。「導入計画を分解し、導入プロセスやデータ、技術といったテーマごとの計画を詳細に評価しなければならない」とグプタ氏は説明する。
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