BroadcomのCEOホック・タン氏はパブリッククラウドの課題を挙げ、自社のプライベートクラウド製品を強化する戦略を示した。Broadcomは何を狙っているのか。
仮想化ベンダーVMwareを買収した半導体ベンダーBroadcomの最高経営責任者(CEO)を務めるホック・タン氏は「企業のIT部門はパブリッククラウドへの移行に伴う問題や予測不能のコストに苦しんでいる」と述べた。
Broadcomに買収される前のVMwareは複数のクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」を推奨していた。しかし、タン氏は2024年8月27日(現地時間)にBroadcomが開催したイベント「VMware Explore」の基調講演で、包括的なプライベートクラウドサービスを提供する方針を強調し、従来の戦略を転換したことを示した。タン氏がプライベートクラウドを推進する背景には何があるのか。
タン氏は「IT部門は現在PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥っている」と述べた。同氏がそう主張する背景にあるのは、パブリッククラウドの推進だ。パブリッククラウドを利用する企業のIT部門は、以下の理由でストレスを抱えている可能性がある。
IT部門をストレスから救う方法としてタン氏はプライベートクラウドを挙げ、「プライベートクラウドがビジネスやイノベーションを推進する」と語った。
タン氏の主張に対しては懐疑的な見方がある。調査会社Forrester Researchでアナリストを務めるナビーン・チャブラ氏は、VMware製品の顧客企業も顧客ではない企業も、まだタン氏の主張に完全に納得したわけではないとみている。
Broadcomは2023年にVMwareを買収した。その買収後、Broadcomは複数のVMware製品をパッケージ化してサブスクリプションライセンスで購入するように顧客企業に求めるようになった。以前の顧客企業はVMware製品を個別に選択して永久ライセンスで購入可能だった。「実際には、顧客企業の大半は以前よりも高いコストでのVMware製品購入を余儀なくされている」とチャブラ氏は述べる。
「Broadcomがプライベートクラウドに関して掲げる見込みは、その実態やそれが実現することよりもはるかに野心的だ」とチャブラ氏は指摘する。
Forrester Researchは、VMware製品を利用する顧客企業のうち、およそ5社に1社が最終的に他の仮想化基盤に移行すると予測している。
VMware製品を「パブリッククラウドの包括的な代替手段」と考えるタン氏の見解について、チャブラ氏は次のように語る。「大半の顧客企業がプライベートクラウドとパブリッククラウドを併用している現実に即しておらず、併用している顧客企業は新しいライセンスへの契約変更やコスト上昇に不安を感じる可能性がある」
Broadcomは、プライベートクラウド構築用製品群の「VMware Cloud Foundation」(VCF)と、サーバ仮想化製品群「VMware vSphere Foundation」(VVF)という2つの製品群のサブスクリプションライセンスを提供している。
サーバ仮想化製品「VMware vSphere」のエディションとしては「Standard」と「Enterprise Plus」が存在しており、ITインフラの規模によって適切なエディションを選択できる。
タン氏の基調講演では、今後リリースが計画されているVCFの次期バージョン「VMware Cloud Foundation 9.0」(VCF 9.0)に重点が置かれていた。VCF 9.0ではITインフラの移行機能「VCF Import」に加え、運用業務を自動化するための機能が追加される。
タン氏は「製品を集約して人員を削減することで、結果と顧客企業の成果を重視しながら無駄が少なく目的志向を強めたVMwareが誕生した」と話した。「VCFは企業のデータセンター内にクラウドサービス群を導入するようなものだ」とタン氏は説明した。
「ご期待に添えず申し訳ないが、私たちは真面目なビジネスマンだ。華やかできらびやかなものを見せるためにここにいるわけではない」とタン氏は述べた。とはいえ、BroadcomはVMware製品のアップセル(サービスのより高価なエディションや追加機能を提案、販売すること)の機会を逃すつもりはないようだ。VMwareは今後、
など、追加の製品やサービスを販売する。
Broadcomの幹部は、「無駄を省き効率を高めたVMwareが将来の企業戦略を決定付けることになる」というタン氏のメッセージを何度も繰り返した。同社のVCF部門の人工知能(AI)およびアドバンストサービス担当グローバル責任者を務めるクリス・ウルフ氏は次のように語る。「複雑であることは利益を生むが、生み出されるのは顧客企業の利益ではない」
Broadcomに買収される前のVMwareは、開発者のニーズと新製品を生み出すことを重視していた。「それは長年にわたるVMware Tanzuの発展を見れば明白だ」と調査会社The Futurum Groupでアナリストを務めるポール・ナシャワティー氏は語る。
タン氏はVMware製品の戦略を変更した。顧客企業は、時間がたてば他社に目を向ける可能性はある。だがナシャワティー氏は、VMware製品の企業向け機能が直ちに変わることはないことを前提にして、「顧客企業はコストが上がったとしてもVMware製品の機能を使い続けることを選ぶ可能性がある」と予測する。
VMwareは革新を目指していないが、提供しなければならない本質的価値に対しては真摯に取り組み続けているとナシャワティー氏はみる。「知らない悪魔と知っている悪魔の、どちらに頼るのかという問題だ」(同氏)
次回はVMware製品のライセンス変更といった課題に対して、顧客企業がどのような対応を検討しているのかを解説する。
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
なぜ料理の失敗写真がパッケージに? クノールが展開する「ジレニアル世代」向けキャンペーンの真意
調味料ブランドのKnorr(クノール)は季節限定のホリデーマーケティングキャンペーン「#E...
業界トップランナーが語る「イベントDX」 リアルもオンラインも、もっと変われる
コロナ禍を経て、イベントの在り方は大きく変わった。データを駆使してイベントの体験価...
SEOを強化するサイトの9割超が表示速度を重視 で、対策にいくら投資している?
Reproが「Webサイトの表示速度改善についての実態調査 2024」レポートを公開。表示速度改...