AT&TはVMware製品のサポート契約やライセンスを巡ってBroadcomを訴えた。両者の主張は真っ向から対立している。訴訟の行方を左右するのは、契約の内容だ。
通信事業者のAT&Tは2024年8月29日(現地時間、以下同じ)、ニューヨーク州最高裁判所にて半導体ベンダーBroadcomへの差止請求訴訟を起こした。AT&TはBroadcomに買収される前の仮想化ベンダーVMwareが、AT&Tが利用するVMware製品をサポートすることに合意していたと主張した。両社はどのような契約を結び、どのような主張をしているのか。
AT&Tが説明するサポートの内容は、VMware製品のメンテナンスやアップグレード、セキュリティパッチの適用、トラブルシューティングなどだ。これに対してBroadcomは、ライセンス変更に合意しなければサポートは継続しないと主張している。
AT&TとVMwareが2022年8月に締結した契約では、VMwareが2024年9月8日までサポートを継続することになっていた。加えて、AT&Tが望めば2024年9月8日から追加で2年間はVMwareによるサポートを延長可能になるはずだった。
しかし、Broadcomは「新たに導入したサブスクリプションライセンス(3年契約)のいずれかを通じてVMware製品を購入した場合にのみサポートを継続すると伝えてきた」とAT&Tは主張している。
AT&Tの弁護士は訴状で、「当然ながら、Broadcomには将来に向けてVMwareのビジネスモデルを変更する権利がある」と述べた。その上で同弁護士は「しかし、既存の契約をさかのぼって変更することはできない」と語った。
Broadcomは、AT&Tがサブスクリプションライセンスへの変更に同意して購入した場合のみサポートを継続すると主張している。それに対してAT&Tの弁護士は、「それはAT&Tが望んでいることでも、必要としていることでもない」と主張している。
訴状によれば、AT&Tは直ちに損害の賠償を求めているわけではないが、Broadcomが当初約束したサポート期間を守るように求めている。両社は、Broadcomが一時的にサポート期間を延長することに合意したが、話し合いは今後も法廷で続く。
Broadcomの広報担当者は、「BroadcomはAT&Tからの申し立てに強く反対しており、法的手続きで勝訴すると確信している」と述べた。Broadcomの広報担当者によると、VMwareは買収される前からサブスクリプションモデルへの移行を進めていたという。
Broadcomは本件に対する米TechTargetからの取材に「新しいサブスクリプションモデルの要件に応じて対応するつもりだ」とコメントした。AT&Tにも取材を求めたが、期日までにコメントはなかった。
AT&Tは裁判所に、
と説明した。
AT&Tは裁判所に提出した書類で、「VMware製品のサポートがない状態で、一つでも問題が起こると、政府や情報機関を含めて数え切れないほどいるAT&Tの顧客に影響が出る」と説明している。
AT&Tが自らの正当性を主張するためには、「VMware製品から別の仮想化ソフトウェアに適切なタイミングで移行できなかった経緯や、サポート打ち切りが直ちにサービスの不具合につながる理由を示さなければならない」と法律事務所Goodwin Procterのニール・チャタジー氏は語る。「裁判所はAT&T対して、どのような危険があり、どうすればそうした危機を防げたのかと質問するだろう」(チャタジー氏)
チャタジー氏によれば、AT&TとBroadcomの間の訴訟は、航空会社Delta Air LinesとセキュリティベンダーCrowdStrikeの間の訴訟と類似している点がある。
CrowdStrikeは2024年7月19日に同社のソフトウェアの不備によって、クライアントOS「Windows」のシステム障害を世界各国で引き起こした。このシステム障害によってDelta Air Linesのシステムはネットワークに接続できなくなり、1週間以上の混乱につながった。Delta Air Linesは、このシステム障害により5億ドルの損害を被ったと主張している。
Delta Air Linesが主張し得る点の一つは、Windowsが市場に普及していることから、他の選択肢がなかったということだ。「AT&TもBroadcomに対して同様の戦略を採用できる」とチャタジー氏は指摘する。こうした主張が法廷で支持されるかどうかは、今のところ公表されていないAT&TとVMwareの契約次第だ。
チャタジー氏は「AT&Tのような企業なら常に別のベンダーを抱えている」と述べた上で、「裁判所の裁定は、契約内容やその回避策により大きく左右される」と説明した。
調査会社NAND Researchの創業者でアナリストのスティーブ・マクドウェル氏によると「長年にわたってVMware製品を利用してきた他の顧客も、AT&Tと同様の不満を抱いている」という。「顧客がベンダーを訴えるのは非常に珍しいことだ」とマクドウェル氏は述べた。
2年制の職業大学Milwaukee Area Technical Collegeでネットワークプログラム責任者を務めるブライアン・カーシュ氏は、Broadcomが2024年8月に教育機関向けの割引ライセンスを廃止した際に、見捨てられたと感じた。
カーシュ氏は他の教師や教育ソフトウェアベンダーの担当者と共に、オープンソースソフトウェアのハイパーバイザー「Proxmox Virtual Environment」を採用した新しいカリキュラムを策定している。
仮想化ソフトウェアは、Broadcomがこれまでに買収した他の製品と比べて、企業のITインフラと深く結びついている傾向にある。「仮想化ソフトウェアの移行やリプレースは困難で時間も掛かる」とカーシュ氏は述べる。
移行が困難であることに加えて、カーシュ氏によれば、VMware製品は他の仮想化ソフトウェアに比べて機能面で優れる傾向にあるという。「AT&Tや他の顧客もVMware製品の代替を探しているが、移行先がすぐに見つかることはまずないだろう」(カーシュ氏)
カーシュ氏は「移行先を見つけることが困難な状況では、完全かつタイミングよくITインフラをリプレースすることは不可能だ」と指摘した。
Broadcomはライセンスモデルの変更による顧客離れを予期していると思われる。しかし、「簡単にはVMware製品から移行できない顧客から得られる収益によって、VMwareの買収金額690億ドルは相殺できるだろう」とカーシュ氏は分析する。
カーシュ氏は次のように語る。「利益が得られなくなり、顧客が抜け殻になるまでBroadcomは搾り取るつもりだろう。稼げる期間は3~4年ほどしかないことをBroadcomは理解している」
Broadcomの最高経営責任者(CEO)であるホック・タン氏によれば、VMwareの買収はBroadcomに利益をもたらしている。
Broadcomが2024年9月5日に開催した2024年度第3四半期(6~8月)の決算発表でタン氏は、ITインフラ関連ソフトウェアの売上高が前年同期比200%増の約58億ドルで、そのうち38億ドルはVMware製品によるものだと報告した。同氏はさらにVMwareのおかげで、支出は2024年度第2四半期(3~5月)の16億ドルから第3四半期は13億ドルに減少したと述べたが、支出が減った理由は明らかにしなかった。
「VMwareの事業モデルの転換はかなり順調に進んでいる」とタン氏は決算発表で述べた。
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