多くの企業がAI導入を急ぐ中で、「利益を出せるか」という視点が置き去りになっていないか注意が必要だ。企業がAIで利益を生み出すための10のヒントを紹介する。
人工知能(AI)に対する企業の関心は、ここ数年で急上昇した。特に、AIベンダーOpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」の登場を皮切りに、テキストや画像を生成する「生成AI」やそのベースとなる大規模言語モデル(LLM)が大きな注目を集めるようになった。
これまで企業は「他社に後れを取りたくない」という不安からAI導入を急ぐ傾向にあった。しかし昨今は、「AIをどう使い、利益を生み出すか」という現実的な視点が重視されているようだ。特に、PoC(概念実証)段階だったAIプロジェクトが本格始動するにつれて、収益化の期待も高まっている。本連載は、収益を増やすためにAI技術をどう活用すべきか、10のヒントを紹介する。
AI技術をベースにした仮想アシスタントやチャットbotを導入して顧客体験価値(CX)を強化することは、企業の売り上げ増加につながる可能性がある。家具小売業者IKEAは、顧客向けにAIアシスタント「IKEA GPT AI Assistant」を導入している。顧客が自宅のインテリアをデザインしたり、家具を購入したりする際に、このAIアシスタントがサポートを提供する。宝石保険会社BriteCoも同社の顧客向けにAIチャットbotを開発し、問い合わせにおける離脱率の減少に役立てている。
TechTargetは2023年10月から12月にかけて、世界のITおよびビジネス意思決定者1432人に対して支出目的調査を実施した。これによると、今後の優先投資分野の上位3選は生成AI、顧客関係管理(CRM)、チャットbotだった。
AI技術を活用してCXを強化することで、製品やサービスの顧客離れを阻止し、売り上げの損失を軽減することができる。具体的には、AI技術を用いて顧客データを分析し、離脱するリスクの高い顧客を把握する。その情報を基に、顧客満足度を高めるための施策を打ち出す。チャットbotやコンタクトセンターにAIを組み込むことで、顧客体験のパーソナライズ化も可能になる。
顧客の購入履歴や行動データをAIアルゴリズムで分析することで、提案のパーソナライズ化が可能となる。企業は顧客に新しい製品やサービスを購入してもらうためのクロスセル(関連商品の売り込み)やアップセル(上位モデルや高機能の提案)がしやすくなる。
ユーザーの閲覧履歴や行動データを基にコンテンツを表示するレコメンデーションエンジンの導入は、SNSにおけるユーザーの滞在時間を伸ばし、広告主を集める上で効果的だ。Meta(旧Facebook)は2024年初頭、顧客エンゲージメントの強化に向けて、同社のビデオ関連製品にAI搭載のレコメンデーションエンジンを導入した。同社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏は2024年第2四半期(2024年4〜6月)の収支報告で、「将来的は全てのコンテンツに共通のレコメンデーションシステムを導入する計画だ」と述べた。
マーケティングは直接収益を生み出すわけではない。一方で、効果的なマーケティングはリード(見込み客)獲得に貢献する。企業は生成AIを用いて、ニュースレターや動画広告などのコンテンツを短期間で作成できる。さらにパーソナライズ化というAIの利点を生かして、顧客一人一人の関心に合うメッセージを作成し、マーケティングの効果を最大化できる。調査会社Gartnerの予測によると、2025年までに大企業が発信するマーケティングメッセージの30%がAI技術によって生成されるという。この数字は、2022年の2%未満から大幅な上昇となる。
金融サービスを提供する企業を中心に、不審な活動の検出にAI技術が使われている。例えば米金融機関のCapital Oneは、機械学習アルゴリズムを用いて異常な取引を検知し、クレジットカード詐欺を防いでいる。eコマース(EC:電子商取引)企業も、AI技術を用いて不正な注文を特定し、詐欺被害を未然に防いでいる。ユーザーの行動パターンを認識し、分析するAIの能力は、詐欺のリスクを低減し、企業の安全性と利益を守る手助けとなっている。
次回も引き続き、収益化の観点からAI導入のポイントを解説する。
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