SAPが2025年1月、経営陣の刷新を発表した。2024年に離脱した経営陣の“空席”を埋めるだけではなく、SAPが抱える“ある課題”を解消する狙いもあると、一部のアナリストはみている。どのような課題なのか。
2024年、SAPに在籍していた複数の幹部が退社した。相次ぐ経営陣の離脱という波乱の1年を経て、同社は2025年1月、再び経営陣の刷新を図った。一部のアナリストによると、経営陣刷新は同社が抱える“ある課題”を解消する狙いがある。どのような狙いなのか。
SAPは2025年1月28日(以下、現地時間)、セバスチャン・シュタインホイザー氏を執行役員に任命したと発表した。シュタインホイザー氏は、新設された「戦略・オペレーション部門」を率い、SAPの戦略実行を担う。同氏は2020年にSAPに入社し、クリスチャン・クラインCEOの下でチーフオブスタッフを務めた後、最高戦略責任者(CSO)に就任した。SAP入社以前は、コンサルティング会社Boston Consulting Groupに勤務していた。
2025年1月時点の最高AI(人工知能)責任者のフィリップ・ヘルツィヒ氏は、2024年9月にユルゲン・ミュラー氏が退社した後を受け、グローバル最高技術責任者(CTO)を兼任する。
ヤン・ギルグ氏とエマニュエル・ラプトプロス氏は、共同最高収益責任者(CRO)に就任する。2025年1月時点でクラウドサービスERP部門のプレジデント兼最高製品責任者を務めるギルグ氏は、米国地域の事業を統括。欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域のプレジデントを務めるラプトプロス氏は、中東およびアジア太平洋地域も新たに担当する。
エイダ・アグレイト氏は、2024年8月に退社したジュリア・ホワイト氏に代わり、“空席”となっていた最高マーケティング責任者(CMO)に任命された。
SAPは、新任のCTO、共同CRO、CMOを含む幹部で構成される拡大役員会を設置する。この拡大役員会は、AI技術関連の事業を推進するための諮問機関として機能する。
執行役員の一人、トーマス・ザウアーエシヒ氏の任期は2028年まで延長した。ザウアーエシヒ氏は2024年4月からカスタマーサービスおよびデリバリー部門の責任者を務めている。以前はプロダクトエンジニアリング部門の責任者だった。
これらの体制変更は、2025年2月1日に適用された。
調査会社Constellation Researchのバイスプレジデント兼主席アナリストのホルガー・ミュラー氏は「これまでSAPはCSOを設けていなかった」と指摘する。SAPは既存ユーザー企業をクラウドサービスERP「SAP S/4HANA Cloud」に移行させる戦略を立てる必要に迫られている。シュタインホイザー氏の登用は、そうした動きの表れだという。
ミュラー氏によると、SAP社内で戦略を策定し、ユーザー企業にSAP S/4HANA Cloudを提案する上で、AI技術は重要な要素になる。「最高AI責任者のヘルツィヒ氏をCTOに任命した点も、この方針と合致するものだ」とミュラー氏は言い添える。
ITコンサルティング会社Enterprise Applications Consultingの創設者ジョシュア・グリーンバウム氏によると、SAPの継続的な組織再編に対し、「分かりにくい」と批判する向きもある。しかし「SAPは業績が好調である限り、批判を免れることができる」と同氏は付け加える。
グリーンバウム氏は「シュタインホイザー氏の執行役員への登用は適切な判断であり、戦略・オペレーション部門の責任者という新しいポジションの設置も理にかなっている」と評価する。この登用によって、同氏はSAPが「複雑化した事業運営に対処しやすくなる」と見込む。
「シュタインホイザー氏の戦略的な役割は、複雑化した社内のさまざまな業務を合理化することだ」とグリーンバウム氏は述べる。「近年のSAPは、有機的成長(本業の成長)とM&Aによる成長によって、事業運営が複雑化している可能性がある。SAPのような大企業が業務を合理化することは望ましいことだ」(グリーンバウム氏)
グリーンバウム氏によると、ギルグ氏の共同CROへの登用などの異動は、SAPが有望な人材を抱えていることの裏付けでもある。SAP S/4HANA Cloudの販売に携わってきたギルグ氏は、これまで以上に営業の役割を担うことになるという。
後編は、SAPの経営陣刷新がユーザー企業に与える影響について解説する。
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