いまさら聞けない「PyTorch」「TensorFlow」で何ができるのかPyTorchとTensorFlowを比較【前編】

「PyTorch」と「TensorFlow」は、どちらもオープンソースの深層学習フレームワークだが、細かい設計思想や使い勝手に違いがある。両者の特徴と機能を紹介する。

2025年02月04日 08時00分 公開
[Chris TozziTechTarget]

 「PyTorch」と「TensorFlow」は、深層学習(ディープラーニング)モデル開発のための機械学習フレームワーク(特定の機能を持つプログラムの開発を支援するプログラム部品やドキュメントの集合体)だ。どちらも無料のオープンソースフレームワークであり、大部分がプログラミング言語「Python」で実装されている。大規模な開発者コミュニティーが継続的に改良を加え、現代のAI(人工知能)技術活用プロジェクトで広く使用されている点も共通する。

 ただし詳細に見ると、両者には重要な違いがある。どちらが自社での利用に適するのかを見極めるために、それぞれの特徴や設計思想の違い、用例を学ぼう。

PyTorchとは?

 PyTorchは、深層学習モデルの開発に特化したオープンソースフレームワークだ。2002年公開のオープンソースの機械学習ライブラリ(プログラム部品群)「Torch」をベースに、Facebook(現Meta Platforms)と、非営利団体Linux Foundationが共同で開発を進めた。2016年に公開され、2017年にオープンソースプロジェクトとなった。

 以下にPyTorchの主要な機能を挙げる。

  • Dynamic Computational Graph(動的計算グラフ)
    • 「Define by Run」(実行ごとに定義する)とも呼ばれる方式。
    • プログラム実行中に処理手順を変更できる方式を動的計算グラフと呼ぶ。
    • 計算グラフは、プログラムの処理手順を図式化したもの。
    • ニューラルネットワーク(人の脳の神経細胞をモデル化した情報処理システム)の挙動を実行中に変更できるため、直感的なデバッグやテストが可能。
  • Tensor(テンソル)
    • AIモデルの入力や出力、中間層のデータを表すための多次元配列。
    • PyTorchでテンソルを扱うためのデータ型は、さまざまな数学的演算機能を持ち、効率的なデータ処理が可能。
  • torch.nn.Module
    • PyTorchでニューラルネットワークモデルを構築するための基本クラス。
    • あらかじめ定義された層構造や損失関数(Loss Function)、最適化アルゴリズムを組み合わせて、ニューラルネットワークモデルの構築とトレーニングを簡易化できる。
  • GPU(グラフィックス処理装置)による演算
    • PyTorchと「CUDA」を組み合わせることで、GPUを用いた効率的なテンソル演算が可能になり、モデルのトレーニングと推論速度を高速化できる。
    • 「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)は、GPUを用いた並列処理技術を使うための開発者向けツール群。

TensorFlowとは?

 TensorFlowはオープンソースの深層学習フレームワークだ。Googleが開発し、2015年に一般公開された。主要な機能は以下の通りだ。

  • Static and Dynamic Computation Graph(静的および動的計算グラフ)
    • 初期のバージョン「TensorFlow 1」は、主に静的計算グラフを使用していた。静的計算グラフはプログラムの実行前に計算手順を確定させる方式を指す。これによって、デプロイと本番環境での処理を効率化していた。
    • 「TensorFlow 2」では、「Eager Execution」機能で動的計算グラフも利用できるようになった。プログラム実行中に計算グラフを構築し、臨機応変にデバッグやテストを実行可能だ。
  • テンソル
    • TensorFlowは、PyTorchと同様にテンソルを基本データ構造として採用している。TensorFlowのテンソルも、CPUとGPUの両方で演算を実行できる。
  • 「Keras」の統合
    • Kerasは、ニューラルネットワークモデルの構築とトレーニングを簡素化する、オープンソースのライブラリ。
    • TensorFlowはKerasを組み込んでおり、TensorFlowの操作性を向上させている
    • KerasはPyTorchでも利用可能。
  • CUDAとの連携
    • PyTorchと同様、TensorFlowはCUDAと連携でき、GPUを活用した高速トレーニングと推論を実現する。

 次回は、両者の違いや選定ポイントを紹介する。

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