実は中間管理職に多い? 「静かな退職」を脅威からチャンスに変えるための施策とは仕事だけ頑張っていればよい時代は終わった?【後編】

業務への意欲を示さず、必要最低限の業務のみをこなす「静かな退職」は企業や管理職にとって脅威だ。一方ある専門家は、静かな退職をむしろチャンスだと捉えることを勧める。そのために企業は何ができるのか。

2025年03月15日 06時00分 公開
[Cath EverettTechTarget]

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 業務や勤務先への不満はあるものの退職することはせず、必要最小限の業務のみをこなす「静かな退職」(クワイエットクイッティング)が静かに広がりつつある。クワイエットクイッティングをされる側の企業や上司には困った事態のように思える。一方、ユニバーシティカレッジロンドン(University College London)経営学部の准教授、アンソニー・クロッツ氏は、クワイエットクイッティングを職場における脅威ではなくチャンスとして捉えることを勧める。

 クロッツ氏によると、この10年ほどで雇用主と従業員の関係性は弱まりつつあり、よりビジネスライクなものになってきた。同氏はこれを「仕事をより良いものにし、従業員や収益の向上にメリットをもたらす機会として捉えることが可能だ」と説明する。クワイエットクイッティングをチャンスとして捉え、生かすために企業は何ができるのか。

クワイエットクイッティングは脅威ではなくチャンス?

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 クワイエットクイッティングをチャンスと捉えるにしても、まずは従業員からその兆候を把握することが重要だ。IT部門のリーダーはクワイエットクイッティングの兆候をどのように察知し、どのように対処すべきか。

 クロッツ氏によると、従業員が退職やクワイエットクイッティングを選択する前には、以下のような特徴的な行動を示す傾向がある。

  • 会議での発言が減少する
  • 皮肉を込めた笑い方をする
  • 仕事に対する自信を失ったように振る舞う

 退職やクワイエットクイッティングを食い止めるための対策にはどのようなものがあるのか。クロッツ氏は、IT部門のリーダーと人事部門が協力して、従業員の業務が肥大化していないか把握することを挙げる。この目的は、業務内容を分析し、ジョブディスクリプション(職務記述書)が定めた業務以上の量や質の労働を実施していないか、各従業員の役割や責任が過去数年でどの程度増加したかを評価することだ。

まずは傾聴

 クロッツ氏は、従業員の話を傾聴することも重要だと指摘する。「上司としてより多くの仕事をこなすのではなく、従業員の気持ちを理解することが重要だ」と同氏は述べる。具体的には、従業員が価値のある仕事をしていると感じられているか、ワークライフバランスについてどう考えているかを理解する。同氏によると、傾聴がリーダーシップの効力を発揮することはさまざまな研究で立証されている。「傾聴を通じて質的データを収集し、どの業務が従業員のやる気を引き出し、ビジネスに価値を付加するのか、どの業務が従業員を消耗させるのかを見極める」(クロッツ氏)

 マネージドサービスを提供するLogicalis Groupの人事担当副社長、ジャスティン・カーニー氏もこれに同意する。同氏は、コンサルティング企業Gallupの会長ジム・クリフトン氏の提言を引用し、週に1回15~30分程度の面談を部下との間で実施することが有用だと提案する。クリフトン氏によると、IT部門に限らず、さまざまな部門で活躍する上司は、部下との15~30分程度の面談を実施し、情報共有や、目標達成に向けた進捗状況について協議しているという。この提言は、クリフトン氏がGallupのブログエントリ(投稿)で挙げたものだ。

「目的志向のリーダーシップ」を実践する

 コンサルティング企業PA Consulting Groupの人材・変革部門プリンシパルコンサルタントのキャサリン・オハロラン氏は、従業員のモチベーションを維持し、業務への関与を促すための秘訣として、「目的志向のリーダーシップ」を実践することを挙げる。同氏はダニエル・ピンク氏の著書『Drive』を引用し、モチベーションは3つの要因から生まれると説明する。

  • 自律性
    • 各個人が最善の方法で働くこと
  • 熟達
    • 自分の情熱に従い、自分にとって重要な領域の専門家になる方法を学ぶこと
  • 目的
    • なぜその仕事をしているのか、それが世界にどのように貢献するのかを理解すること

 オハロラン氏は、リーダーが部下一人一人を理解し、何がそれぞれのモチベーションになっているかを把握することが重要だと述べる。「それができれば、全てのことは簡単になる」と(同氏)

リーダーの役割を定義し直す

 IT部門に限らずさまざまな部門の上司が直面している問題は、部下との関係構築の責任を求められ続けているにもかかわらず、その取り組みが評価されにくいことだ。

 「中間管理職にとってもクワイエットクイッティングは自然な反応だ」。クロッツ氏はこう説明する。一方で、中間管理職がそうした行動を取ることは危険だと警告する。「上司がクワイエットクイッティングをすることが、部下のクワイエットクイッティングを促す恐れがある」(同氏)

 人材評価、管理ソフトウェアベンダーTalogyで国際評価研究開発部門長を務めるアリ・シャルフルーシャン氏によると、業務に対して消極的な態度を取る「ディスエンゲージメント」状態になりやすいのは中間管理職だという研究結果がある。

 そこでシャルフルーシャン氏は、中間管理職のクワイエットクイッティングを防ぐための、投資が必要だと説明する。人材管理やコミュニケーションなどのソフトスキルを向上させるだけでなく、変化への対処や回復力(レジリエンス)を強化することが一考だ。

 シャルフルーシャン氏によると、レジリエンスの本質は、世界が困難な変化に満ちていることを受け入れることだ。そこで、変化に対処できるようにするための投資が重要だと同氏は述べる。「私たちは世界をコントロールすることはできないが、自分たちの反応や行動はコントロールできる」(同氏)

 マネージドサービスを提供するLogicalis Groupの人事担当副社長、ジャスティン・カーニー氏も、部門や部下の管理に必要なスキルを確実に身につけることが重要だと指摘する。「そうしなければ、クワイエットクイッティングは増加し、自発的な離職は増えるばかりだ」

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