超高速ネットワークの挫折と復活【第1回】
10Gbps通信の普及を阻んだ「高過ぎるエラー率」問題(1/2 ページ)
ITシステムが扱うデータが爆発的に増大している今、超高速ネットワークへの期待は大きい。しかし“10Gbps級”ネットワークの普及は遅れている。これは、その原因と克服への挑戦を記した物語だ。
データトラフィックは日々増大している。だからこれまで以上に高速で広帯域のネットワークが必要になる。この予測が大きく外れることはまずないだろう。ここでいうネットワークは、バックボーン回線だけではなく、データセンターやサーバルームの中にあるコンピューティングユニットとストレージの接続も当てはまる。
2010年まで、ラックに多数のブレードサーバを収めるようなケースでは、サーバとラックに設置したスイッチは、データ転送速度が1Gbpsのギガビットイーサネット(GbE)規格「1000BASE-T」ベースの接続で間に合っていた。ただ、スイッチは1000BASE-Tでは転送速度が足りないため、光ファイバーなどを利用して10Gbpsのデータ転送速度を実現した10GbEを使うのが一般的だった。当時はラック間の接続にだけ、10GbEを利用していた。
ところがブレードサーバの処理能力が向上し、ストレージでHDDの代わりにSSDを搭載して転送性能が向上した結果、スイッチとサーバの間で使っていた1000BASE-Tでもデータ通信容量(帯域)が飽和するようになった。この1000BASE-Tの帯域飽和は今に始まった話ではなく、かなり以前から関係者が警告していた話でもある。
この問題を解決する方法も幾つかの提案が出ていて、複数の1000BASE-Tポートを束ねて高速化するトランキングや、直接光ファイバーを接続してより高速(10Gbps~)なイーサネットを使うなどの方法が既に実用化している。ただトランキングは接続に要するポート数が増えることにつながる。スイッチ側のポート数が増えることは価格を押し上げる大きな要因となるため、普及のためには長期的に考えるといい方法ではない。高速なデータ通信を可能にする光ファイバーに関してもコストの問題が無視できない。
この問題を解決する方法も実は以前からあり、10Gbpsのデータ転送速度をUTP(シールドなしツイストペア)/STP(シールド付きツイストペア)ケーブルで実現する「10GBASE-T」という規格を策定している。この規格に準拠した製品も登場しているが、普及しているというには程遠い状況だ。また近い将来にデータセンター内のブレードサーバに広く入る、という話もない。今回はその理由について説明する。
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その原因は「ケーブルに対して無理難題な要求」
1000BASE-T準拠製品の価格は、2005~2006年で既に個人が購入できる価格まで下がっていた。2002年には速度を10倍にした10GBASE-Tの仕様策定作業が始まっている。当初は2005年ごろまでに仕様策定が完了する予定だったが予想外に難航し、いろいろな“新機軸”を切り捨てた上で、2006年10月にやっと仕様が策定した。ただし、1000BASE-Tでは仕様策定の直後に準拠製品が登場していたのに対し、10GBASE-Tに準拠した第1世代の製品が2009年になってようやく出てきた。加えて、この第1世代の製品には多くの問題があってほとんど普及しなかった。2012年に登場した第2世代の製品で「何とか使えるレベル」になったものの、まだ普及には至っていない。ただ2016年から2017年にかけて登場する第3世代の製品で本格的な普及が始まる兆しが見えてきた。仕様策定から普及するまで10年を要したことになる。
第1世代の製品で問題だったのは、「4対のUTPケーブルで双方向10Gbpsの通信」という大前提が技術的にかなり高い難易度だったことに尽きる。10GBASE-Tでは、次に挙げる要素技術を採用していた。
- 信号周波数は200MHz(2億サイクル毎秒のペースで信号を発信)
- 信号の変調方式に16PAM(PAM:パルス振幅変調)と128DSQ(DSQ:Double SquareQAM)を採用。16PAMは信号レベルを16段階に分けることで、1サイクルの信号で4bit相当を送信。128QAMは2サイクルの信号で7bit相当のデータを送信
この場合、伝送速度は以下の式で求めた通りになる。
2億サイクル毎秒(信号周波数)×{4×(7÷2)}bit毎サイクル(16PAM、128DSQ)×4(信号線の数)=11.2Gbps
ただし、このまま送ると、BER(ビット誤り率)が100分の1と高くなる。これは100bitを送ると1bitはエラーになる確率だ。これではBERが高くて実用にならない。参考までに、1000BASE-Tで要求しているBERは「10の12乗分の1」だ。これは116.4GB転送すると1bitエラーになる確率で、このBERなら上位層の訂正でカバーできる。
10GBASE-Tにも同程度のBERを求めた結果、通常の巡回冗長検査(CRC)などの誤り検出符号(EDC)や従来型の誤り訂正符号(ECC)では全然追い付かないため、最終的に高い誤り訂正能力を持つ低密度パリティ検査(LDPC:Low Density Parity Check)符号というECCを採用した。最近では1つのメモリセルに3ビットを格納できるTLC型NANDフラッシュメモリ採用のSSDなどもLDPC符号を採用している。LDPC符号は、現在ある中では最も強力な誤り訂正符号の1つで、10GBASE-TでもLDPC符号の導入によってBERを10の12乗分の1まで抑えることに成功した。10GBASE-Tの場合、2048bitを送るうち325bitをLDPC符号のパリティビット(検査用の冗長ビット)で使用するので、実質的なデータは1723bitになる。このためデータ伝送速度は次の式で示すようになる。
2億サイクル毎秒×{4×(7÷2)}bit毎サイクル×4(信号線の本数)×(1723ビット÷2048bit)≒9.42Gbps
10Gbpsにはわずかに届かないが、1000BASE-Tに相当する精度で10Gbpsに迫る高速データ通信を実現するということで、LDPC符号導入の可能性が見えてきた、とその時点では考えていた関係者も多かった。
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超高速ネットワークの挫折と復活
ITシステムが扱うデータが爆発的に増大している今、超高速ネットワークへの期待は大きい。しかし10Gbps級ネットワークの普及は遅れている。その原因と克服への挑戦を追う。
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