2006年08月10日 08時00分 公開
特集/連載

ERPシステムの切り替えはITプロジェクトではないColumn

ERP切り替えプロジェクトで準備万端整えていたITスタッフは、作業本番では「起きるはずのない火事に備えて待機する」消防士同然だった。

[Les Johnson,TechTarget]

 「で、土曜日にはIT部門は何人出社する?」 それは水曜の午後のことだった。当社の最高財務責任者(CFO)とわたしは、ERPシステムの切り替えプロジェクトの第1フェーズに備え、プレ稼働のプランをチェックしていた。当社では、バックオフィスの会計システムの切り替えを計画していたのだ。冒頭の発言はCFOによるものだ。彼の声には、不安の色がにじんでいた。

 「2人だけだ。それとわたしだ」と答えた。「2人? これはITプロジェクトだろう、違うかい?」と彼は冗談めかして言ったが、そこには、1年以上かけて立てた計画に対する緊張感も感じられた。彼は5人のコンサルタントのほかに土曜日の作業に参加するITスタッフの数が会計スタッフの半数であることに不安を抱いていたようだ。わたしは次のように言って、彼を安心させた。「切り替え作業中に何か起きたら、全員が集まるだろう」

 われわれは金曜の午後5時ちょうどに仕事を打ち切った。スクリプトが実行され、夜を徹して、データが量産された。過去のデータや静的なデータについては前の週末にすでに変換してあったため、最新の変更点のみを切り替えればいいようになっていた。

 翌朝6時に第1陣のチームメンバーが現れたときには、ラインプリンターはまだカタカタと音を立てていた。メンバーは、スターバックスの大きなカップとクリスピークリームのドーナツを腕いっぱいに抱えて現れた。チームは集結し、作戦を確認した。「正午までに終わらせられたら、どこでも好きなところでランチをごちそうしよう」とCFOは言った。気前はいいが、いたって安全な申し出だった。

 われわれが手を休めると、机の上は途端に、当社のレガシーシステムから引き出された試算表や会計報告が記録された、大量の緑の罫線付き用紙で埋め尽くされた。新規システムのデータが旧システムのデータと適合しているかどうかを確認するための作業がどんどん進められた。周りからは、どこの高級レストランでランチをごちそうしてもらおうかと話し合う声も聞かれた。

 われわれITスタッフは最初、独立記念日の式典の消防士のように、ただ突っ立っていたが、そのうち、自分のデスクへと戻っていった。そして、いつもの土曜日出勤と同様、われわれは決して起こらない火事を待ちながら、その週の未解決の問題を時間をかけて片付けた。

 だが結局、ランチの申し出は受けそびれた。そして、夕食もだ。データのちょっとした不均衡が見つかったため、会計チームは切り替え時に増減した金額を探し出さなければならなくなったのだ。最後のスタッフが退社したのは午後9時だった。だがIT部門のスタッフには何もすることがなかったため、われわれは夕食の時間には、すでに帰宅していた。

最終的な調整

 われわれが何カ月も前から、期待半分、不安半分で待ちわびてきた月曜の朝がやってきた。月曜の朝は穏やかに過ぎていった。懸案材料は2つだけ。1つは、主にインボイスのスキャンプロセスに予想より5倍も長い時間がかかっていたために、買掛金担当者の生産性がシステムの切り替え前よりも40%下がったことだった。これは、担当者らがそれまで通りの方法でインボイスを分類しようとしていたせいであることが、その後、すぐに判明した。新しい手順に従わせたところ、生産性は元通りに回復した。もう1つ、もっと大きな問題となったのは、バランスシートと損益計算書における不均衡だった。最後の支店での作業が終了するまで、あと4カ月間は2つのシステムで稼働することになるが、われわれはその間に、こうした矛盾を引き起こしている原因を解明する必要がある。

 新しいシステムが稼働して、これで2週間になる。ときどき異常なトランザクションが忍び込んだりもしているが、稼働に伴う不安は解消された。第2フェーズでは、新規システムに切り替える最初の支店の認証を開始することになる。

 わたしは最近、再びCFOと話をした。「この前のあなたの質問だが、答えはノーだ。これはITプロジェクトではない」とわたしが言うと、彼は笑って、「そうだ、これはビジネスプロジェクトだ」と答えた。

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