無理に毎日ブログを書いたりする必要はない。優秀なリーダーに求められるのは、特定の技術の習得ではなく、急激に変化する時代に応える能力なのだ。
コンピュータが米国の企業にじわじわと侵入してきて以来、CIOは「融通がきかず、技術の変化についていけないステレオタイプ」というイメージにつきまとわれている。Web 2.0が脚光を浴びる今、そうした批判が再浮上している。Web 2.0というのは、ブログやWiki、ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)などのコラボレーション技術の総称だ。
企業ユーザーがこれらの技術を取り入れている今、CIOはこの新技術についてどこまで把握しておくべきかという議論が持ち上がっている。CIOは毎日ブログを書くべきだろうか? それとも手を染めずに済むだろうか?
Web 2.0の流行は、典型的な新技術受け入れサイクルにある、と見られている。つまり、コンシューマー側から発生し、ビジネスに広がるというサイクルだ。こうした新技術は多い。例えば10年前には携帯電話について同じような話をしていた、と話すのは人材紹介会社ピアソンパートナーズインターナショナルの副社長、レニー・ベーカー・アリントン氏。
だが、CIOは後れを取っていると考える人もいる。ソーシャルメディア専門のコンサルタント、リンダ・ラドセビッチ氏によると、CIOはWeb 2.0技術の推進では先頭に立っているとは言い難いという。「CIOがソーシャルネットワーキングのプロジェクトを率いることはまれだ。ビジネス部門の幹部がそうしたプロジェクトを立ち上げるが、IT部門はその実装に当たり、セキュリティとプライバシーの懸念を抱く傾向にある」と同氏は語る。ラドセビッチ氏は、ベンダーによってはCIOを通さずに、直接企業のビジネス部門にサービスを販売するところもあると言う。
こうした技術の価値を最大限に生かすための鍵は、CIOがどれだけ正確に技術を評価できるかにあり、CIOが個人的にそうした技術を使うかどうかは関係ない。
データ統合企業のインフォマティカでCIOを務めるトニー・ヤング氏は次のように語った。「この問題には2つの観点がある。1つはWeb 2.0の事業用途は何かということ、もう1つは、幾つかのWeb 2.0ツールの労働生産性から見た意味は何かということだ」
ヤング氏はSNSをはじめとするWeb 2.0技術のビジネスツールとしての価値を評価する作業を続けてきており、それなりの判断を下している。これには、各技術の基本概念とその事業価値を理解するスキルが必要とされる。「例えば、MySpaceは当社にとってはビジネスツールとしての価値はないとわたしは考えている。だがWikiやブログ、ウェブキャスト、ポッドキャストには利用価値があり、ユーザーはさまざまなやり方でこれらを取り入れている」と同氏は語る。
管理職スカウト会社のZリソースグループでITリーダーシッププラクティス担当責任者を務めるマーサ・ヘラー氏は、こうしたスキルはすべてのCIOが身につけておくべきものだと言う。「SOAやWebサービスに注目すべきなのと同様に、CIOは新しい技術に注意を払い、どの技術が影響を持つようになるか判断しなければならない。それは当然のことだ」と同氏。
CIOにとっての本当の試練は、いかに迅速に新技術を評価し、統合できるかにある。「こうしたツールがどう使われているかを見極め、会社のシステムにこれらを統合するのがCIOの役割だ。それらを精査し、利用できるようにすることで、利用するWeb 2.0技術をフォーカスすることができる」(ラドセビッチ氏)
SNSソフト開発企業のビジブルパスのビジネス技術担当副社長、ジェフ・パターソン氏はこの手法により、ITグループを通じて同社のWeb 2.0技術のほとんどを実装し、管理している。こうすることには事業価値があると同氏は主張する。例えば、同社は会員制ニュースグループを利用している。これは、メーリングリストに似ているが、コンテンツの内容別にまとめられ、Webアクセス可能なツールだ。
「社員たちがそれぞれにメールグループを設定することを懸念している。そうなれば、リポジトリは一元化できず、情報は散逸してしまう。だから社員に何が必要か教えてもらい、ニュースグループを立ち上げることにした」(パターソン氏)
要は受容力の問題だとヤング氏は言う。「否定ばかりしているとは思われたくない。ありがたいことに、社員のほとんどがわれわれにまず技術についてきいてくるレベルに達した」
ただ、CIOはWeb 2.0について、実装する以上のことをする必要があると考える向きもある。こうしたツールが流行する世代文化について考えるべきだというのだ。
これはIT業界でよく話題に上ることだ。ガートナーのアナリスト、トム・ビットマン氏は、CIOにとって、技術ではなく文化がいかに障害になるかを指摘している。
例えばWikiだ。情報マネジメント協会の上級プラクティスカウンセルプログラム責任者、マデリン・ワイス氏は、「Wikiでは技術以上に多くの文化的規範がある。ほかの人が書いたものを編集したり書き換えることができるオープン性などがそうだ。世代的なものでもあるが、組織文化的な面もある」と語る。
ピアソンパートナーズのベーカー・アリソン氏は、技術に対する受容度は世代によって異なり、キーボードやマウスに親しんで育った若い世代の方が技術を受け入れやすいと考えていると言う。だが結局のところ、ほとんどの人にとっては個人的好みの問題だという。また、ヤング氏の指摘によると、最新技術に夢中になるベビーブーマー(1946〜1955年生まれ)のCIOも多数存在する。
「人口曲線は釣鐘曲線を描くものであり、80対20の法則も成り立つ。MySpaceのアカウントを持っているベビーブーマーもいれば、アカウントを持っていないジェネレーションY(1980年以降生まれ)もいるのは確かだ」(ヤング氏)
結局のところ、ほとんどの企業では、CIO採用に当たってWeb 2.0の経験の有無は必須条件にはしていない。
「CIOの就職活動でも、後継者を捜しているCIOからも、そんな条件は聞いたことがない。優秀なITリーダーは、特定の技術を習得する必要はない。あくまでもリーダーであるべきで、柔軟で急激に変化する時代に応える能力が求められる。リーダーは適切な技術スキルを持った人材を採用すればいいのだ」(ヘラー氏)
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