管理会計の実現を目指し、Microsoft Dynamics AXを導入したマルエス工運。マイクロソフト製品だけに、WindowsやExcelなどとの連携で強みを発揮するという。
マルエス工運は、高圧ガスの輸送を中核に、関連するさまざまな業務を行っている。高圧ガスの輸送には、高圧ガス保安法をはじめ多くの法的基準に適合する必要があり、常に安全の確保が求められている。
高圧ガスを必要とする工場などの荷主からは、毎日受注がある。工場の高圧ガスタンクの容量が減れば、それを補充するためにガスを運ぶ。消費されるガス量は工場の稼働状況に合わせ日々変化するため、受注内容の追加や変更、あるいはキャンセルが頻繁に発生するという。
マルエス工運は、効率的な業務を実現するためにIT化を推進してきた。オフコンベースの自社開発システムを財務会計に使用していたが、2000年にオープン化を目的にWindows環境へ移行し、会計パッケージを導入した。
情報システム部に勤務する村岡博明氏は、データさえきちんと会計システムに蓄積できていれば管理会計を実現する手段はほかにもあると考え、あえて使いにくい管理会計機能に手を付けなかったという。
「当時導入していた会計パッケージには基本的な財務会計機能しかなく、管理会計のためにはオプションを組み込む必要がありました。結果的に、管理会計は放置していました」(村岡氏)
2004年を迎えるころ、システムが更新時期に差し掛かった。サーバ環境を更新しなければ、既存の会計パッケージのサポートも受けられないと判明。見える化を実現し、経営に必要な数値をリアルタイムで見たいという社内の要求に応えるためにも、いよいよもって管理会計の本格的な導入が必要とされた。
新たなシステム環境に合わせ、使い慣れた会計パッケージのバージョンアップも検討された。この時点でマルエス工運は分社化を行っており、連結対象の子会社は6社あった。既存パッケージでも連結処理はできたが、マスターデータを統合管理できないという難点に加え、管理会計用の科目に結び付かない数値を追加で入れるなどの機能も標準ではなかった。
マルエス工運は、ほかで付き合いのあったオムロンソフトウェアに他社パッケージ製品の調査を依頼することにした。調査の条件は3つで、最も重要だったのはコストに見合うかどうか。2つ目は、独自の管理会計を実現できること。3つ目は、マルエス工運の業務に合わせられることだった。
「莫大な費用を掛けてカスタマイズすれば、われわれの要求に合うものを構築できることは分かっていました。大勢のシステム担当者を擁する企業であればいざ知らず、管理会計の機能を手間暇掛けて開発するような事態は避けたいと考えていました」(村岡氏)
この条件に対しオムロンソフトウェアが選んだのは、マイクロソフトのERPパッケージ「Microsoft Dynamics AX 4.0」(以下、Dynamics AX)だった。
SAP ERPやOracle E-Business Suiteは、価格に見合うものではなかった。国産パッケージの中には魅力を感じるものもあったが、データ構造を公開していなかったため、カスタマイズが行えるかどうか判断できなかったという。
オムロンソフトウェアの掛谷尚永氏は、「カスタマイズが容易なこと」という条件を克服するために調査を重ねた。その結果たどり着いたのが、Dynamics AXだった。Dynamics AXはデータ構造がドキュメントで公開されており、基本機能の部分とユーザーが拡張可能な部分は分離されていることが分かった。これならば、財務会計に必要な処理には影響を与えずに、さまざまなカスタマイズが行えると判断したのだ。
「マルエス工運が実現したい管理会計の仕組みを構築するには、一般的なERPで提供されているデータの切り口とは違うものが必要でした。そのため、データ構造の変更は必須だったのです」(掛谷氏)
このような管理会計を実現するならば、通常は会計システムからデータを抽出し、別途管理会計に必要なデータを加え、外付けで分析環境を構築するのが一般的だ。しかし、この方法では複数のアプリケーションを使い分ける必要がある上に、「One Fact in One Place」(データを1カ所で管理する意味で使われる)という理念から逸脱してしまう。
「伝票を入力する際に、同じ画面で走行距離など自社の管理会計に必要な数字を入れたかったのです」(村岡氏)
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