ERP導入事例:GLOVIA
意思ある“ベンダー任せ”が、人手不足に悩む企業のERPを実現
多品種少量生産の典型ともいえる香料ビジネスにおいて、ERPを活用した生産管理は欠かせない。その細密かつ大規模なシステム構築の原動力になったのは、意外にもベンダーの技術者たちだった。
すべてが専用品である香料の生産管理は困難を極めた
塩野香料は、薬種問屋として文化5年(1808年)に創業し、その歴史は200年以上を数える。香料の取り扱いを始めたのは、今から80年以上も前にさかのぼる。現在は、香料の製造・販売・輸出入を主な事業とし、そのほかに医薬品、化学製品の製造販売も手掛ける。
国内で香料を取り扱う企業は、輸入代理店を含めあまたある。とはいえ、その中でも大手食品メーカーと取引できる企業は多くない。それだけメーカーの要求が厳しい業界なのだ。その例として、香料には規格品というものが存在しない。ある製品で使われる香料はその製品専用のものであり、常に新しい「香り」をタイムリーに提供できなければならない。
「香料の提供という長い歴史を経て、わが社には莫大な数の製品群があります。例えばレモンの香り1つとっても、現在把握しているものだけで200種類から300種類はあります。過去にさかのぼれば、数千種類に及ぶかもしれません」と、取締役総務部長の三宅健一氏は語る。
これだけ多くの商品種を取り扱う香料ビジネスだけに、生産管理の重要性は極めて高い。1つの香料を作り出すために少なくとも20種類から30種類の原料を必要とし、その原料もまた、産地や生産時期などに細かな違いがあるためだ。
「香料作りは、顧客が抱いている香りのイメージを共有するところから始まります。その香りのイメージを実現するために研究開発を行い、顧客の了承を得ると、使用する原料がシステムに登録されます。実際に注文が来ると製品在庫はあるのか、納期はいつになるのか、あるいは受注生産であればどのように原料を調達するかなどを確認します。ERPが導入される前は、これらの作業をほとんど人手で行っていました」(三宅氏)
もちろん塩野香料は、それまでにも会計などの基幹系業務を中心に、メインフレームやオフコンを利用したバッチ処理型のシステムを導入していた。香料のレシピともいえる「処方せん情報」の管理に加え、製品や原料の在庫管理も行っていた。しかしながら、それらのシステムに製造や調達の指示を自動化する仕組みまでは構築されていなかったのだ。
業務をGLOVIAに合わせなさい
2006年、この生産管理の在り方を改善するために導入されたのが、富士通のERP「GLOVIA」だった。
「生産管理をオフコンベースのシステムからERPへ移行した目的は、顧客からの注文や納期に合わせ、各部門のプロセスが自動的に走るようにすることでした。GLOVIAを導入したことで、受注に合わせて必要な原料の自動発注が行えるまでの仕組みが完成しました」(三宅氏)
また、総務部 主席の中澤 俊氏は、GLOVIA導入後の効果を次のように語る。「GLOVIAの導入により、伝票を書くといった人手が必要な業務は確実に減りました。一方で、新しい業務プロセスを実施するための管理項目は増えたように思います。しかし、全体として効率化が進んだことで、人員の柔軟な再配置が可能になりました」
塩野香料は長い歴史の中で、既に数世代にわたるITシステムを会計や生産管理などの業務に活用してきた。富士通製は2世代目からで、今回のGLOVIAは5世代目に当たるという。
そもそもERPの導入は、作業が比較的容易な会計や人事などから始めるのが一般的だ。生産管理は企業の根幹となる部分であり、各社独自の業務プロセスを持っている。それを一般化されているERPで実現するのは簡単ではないからだ。そういう意味で塩野香料は、当初からERPの導入を目的としていたわけではなかった。生産管理を効率化したい。最終的には生産管理と会計を連携させたいと考えた結果の選択だった。
また、通常のERP導入時は、企業の業務プロセスとERPとの間でフィット&ギャップ分析が行われる。その分析結果を基にギャップとなるプロセスの洗い出しが行われ、その洗い出されたプロセスが重要と判断されればアドオン開発が行われる。つまり、ギャップをERP側で埋めていくという作業だ。しかし、この方法ではギャップの分だけ手間と時間がかかってしまい、導入コストの大幅な増大を招きかねない。そのため、可能な限り自社の業務プロセスに合ったERPパッケージを選択するか、あるいはその製品が持つ柔軟性や拡張性に任せてギャップを吸収していくのが賢明な策といえる。しかし塩野香料では、これらとまったく異なる方針で導入プロジェクトが進められた。
「『出すならフィットを出してほしい。ギャップを出すならやらなくていい』。手厳しいかもしれませんが、富士通さんにはそう言って導入プロジェクトを進めてもらいました」(三宅氏)
フィットを追求してギャップを捨てるという徹底した方針は、結果的に自社の業務プロセスをERPに合わせることになる。そのため塩野香料は、GLOVIAの導入を機に現状の業務プロセスの改革にも取り組んだ。
「200年も会社をやっていると、社内には不要なプロセスがたくさんあるはずです。そこでわたしは、『思い切って止めなさい。そして変えなさい。業務をGLOVIAに合わせなさい』と社内で言い続けました」(三宅氏)
GLOVIAは、導入の検討を開始した2004年の時点で、既に約1000社もの導入実績があった。それだけ多くの企業が採用しているのであれば、同社の業務プロセスを合わせることができると考えたわけだ。
ベンダーに任せることで最小限のシステム要員でも成功する
塩野香料でITシステムの運営を担当するのは電算室だ。ここには、メインフレームやオフコンの時代からCOBOLを専門に担当してきた技術者と、各種データから帳票の作成や分析を受け持つ技術者の2人しか在籍していない。そのため、ERP導入のために各部門の担当者へ詳細なヒアリングを行ったのは、電算室の技術者ではなく導入をサポートした富士通の技術者だった。その打ち合わせ頻度は高く、週に3回、1回にかける時間は半日にも及んだ。
「富士通の技術者は、あたかもわが社の社員であるかのように活動してくれました。付き合いも長いため、担当のSEが弊社の業務を熟知していたことも業務の洗い出しには有利に働きました」(中澤氏)
一般に、「ベンダー任せ」と聞くとあまりいい印象は受けない。ベンダーの言うがままプロジェクトは進み、気付かないうちにコストが膨らむ。あるいは、納品すればそれで終わりといったところだろうか。しかし塩野香料は、あえてベンダーに任せることでERPの導入を成功させた。その秘訣は、ベンダーに任せはしたが丸投げはしなかったことにある。
また三宅氏は、ERPを導入する際は製品を選ぶのではなく、ベンダーを選ぶという考え方もあると主張する。幾つものベンダー製品を詳細に評価し、どれを選ぶかにお金や人を費やすくらいであれば、いっそ自社のことをよく理解してくれているベンダーに任せた方がリスクは少ないというのだ。
「SAPやOracleの製品と比較していれば、それらの方が優れていると判断したかもしれません。しかし、そもそも自分たちに使いこなす能力があるのか。そして、あまり付き合いのないベンダーが確実に実行しくれるのか。何の保証もありませんでした」(三宅氏)
コスト削減にも取り組んだ。不本意にもアドオン開発の必要性が発覚した場合は、富士通になぜ必要なのか入念な説明を求め、自分たちが心底納得してから進めたという。
「わたしの頭の中には、理想のシステム像が構築されています。ただし、わたしは技術者ではありませんから、テクニカルな面では理解していないことも多いでしょう。しかし、何をしたいのかがはっきりしていれば、どんなことでもシステムで実現できると考えています。ここがしっかりしていれば、人手不足に悩む中小企業でもERPの導入は可能です」(三宅氏)
老舗のしがらみから抜け出し、大きく飛躍するための武器としてERPを活用した塩野香料。今後は、ERPの海外拠点への展開も視野に入れているという。また、営業担当者が外出先からリアルタイムに在庫や出荷状況のステータスを確認できるよう、モバイル対応も検討中という。
実現したいことを明確にした上で、ベンダーに任せるべきものは任せる。そうすることで、中小企業における大規模なERPパッケージの導入・活用も可能となるようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
[ヴィーム・ソフトウェア株式会社] SCS評価制度を導入するだけで十分? 組織の防御力を高める活用方法とは -
技術文書・技術解説
[フォーティネットジャパン合同会社] AIランサムウェアに勝つ 自律型エンドポイント管理導入で確認すべき条件4つ -
技術文書・技術解説
[フォーティネットジャパン合同会社] LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント -
製品レビュー
[ネットアップ合同会社] 研究分野でAI活用が進まない? 真の成果につなげるデータ管理の在り方とは -
製品レビュー
[ヴィーム・ソフトウェア株式会社] SCS評価制度を導入するだけで十分? 組織の防御力を高める活用方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
2
AI時代のITインフラ戦略とは? 販売代理店が知っておきたい最新トレンド
-
3
VMware離れの決め手は“機能”以外だった 情シス109人が選んだ新基準と死角は
-
4
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
5
二極化する生成AI活用 「一部の社員しか使いこなせない」をどう解消すべきか
-
6
「企業におけるAIの運用」に関するアンケート
-
7
「GPUが待ちぼうけ」の悪夢を防げ AIストレージベンダー7選
-
8
Claude Opus 5.5、GPT-6 Sol/Luna登場 情シスが迫られるモデル使い分け
-
9
デンソークリエイト、Excelからの移行も簡単に行えるプロジェクト管理ツールを発表
-
10
「仮想化基盤の利用・検討状況」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
2
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
3
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
4
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
5
月1000枚の紙を削減 9年動けなかった組織が、業務改革のその先に得たもの
-
6
「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略
-
7
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
8
ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
-
9
AI活用を停滞させる「2:6:2の壁」を乗り越えるためのポイントとは?
-
10
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー