ビデオ会議/テレビ電話はこれまで、単独で利用されることが多かった。ユニファイドコミュニケーションの統合によってさらに普及するビデオ利用が、コンタクトセンターにもたらすメリットについて考える。
ユニファイドコミュニケーション(UC)が統合するコミュニケーション手段の中で、相手と面と向かって話をする状況に最も近いものは、恐らくビデオ会議/テレビ電話だろう。電子メールやFAXはリアルタイム性が低く、電話はリアルタイム性が高い。また、前回「顧客への“折り返し電話”減らすプレゼンス連携の即応力」で解説したインスタントメッセージには「ゆるい」リアルタイム性がある。
そして、ビデオ会議などのビジュアルコミュニケーションは、電話が持つ高いリアルタイム性に加え、視覚的にも相手に情報を伝えることができるメリットを兼ね備えている。セミナー会場や会議室などでプレゼンをする場合にも、プロジェクターを利用してプレゼン内容を見せながら説明をすると、話は聞き手に的確に伝わるものだ。また、相手の表情を見ながら話せることも大きなメリットである。
ビデオ会議/テレビ電話は1990年代からあったものの、近年まであまり他のコミュニケーション手段と統合されず、単独で利用される傾向にあった。なぜだろうか。
ビデオ会議/テレビ電話が一般的になるには、まずビデオ対応端末が普及することが前提条件になる。オフィス環境で、ビデオ会議/テレビ電話端末を特定の会議室に設置している会社もあるが、それらの利用は複数人の会議に限られ、個人が気軽に活用するというケースは少ないようだ。その理由の1つとして、通常の電話と違ってビデオ会議を開始するには、IT部門などから利用許可を取る必要があることが挙げられる。また、通話先も同様にビデオ会議/テレビ電話専用機を持っている必要があり、同じ時間に利用しなければならないなどの条件があるからではないだろうか。
また、ビデオ会議専用端末に加えて通信回線の問題があった。ビデオ通信をするには従来の公衆電話網やインターネットのネットワーク帯域は狭すぎたため、通常オフィスで利用する電話回線とは別に、ビデオ会議専用回線を整備しなくてはならないケースが多かった。また費用面でも、ビデオ会議専用回線に掛かるコストは比較的高い。これらは、従来のビデオコミュニケーションの阻害要因と考えられる。
それでも2000年前後、ADSLや光ネットワークが普及するにつれて、一般ユーザーがPCを利用してビデオ通話やビデオチャットを気軽に利用できるようになってきた。Skype、MSN Messenger/Windows Live Messenger、Google Talkなどが既にビデオチャット機能を提供していることもあり、今後はさらにビデオチャットのサービスは普及すると考えられる。PC上のビデオチャットは、インスタントメッセージやメールなどを統合(ユニファイド)しているケースが多い。
一方、携帯電話のビデオ機能について考えてみると、テレビ電話のサービスはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどが早期から提供してきたが、相手の顔を見ながら通話するニーズが少なかったせいか、あまり利用されることはなかった。しかし最近、高解像度のビデオカメラを備え、メールやソーシャルメディアとの連携がしやすいiPhoneやAndroidベースのスマートフォンが急速に普及している。それに伴い、携帯端末でビデオを撮影しメールに添付して送ったり、YouTubeで公開したりといったビデオの使い方が一般ユーザーにとってより身近になってきた。
ここで注目したいのは、コンタクトセンターでのビデオ利用も一般のビデオ会議/テレビ電話と同じトレンドで普及してきていることだ。まず、店舗や特定の場所に備え付けられたビデオ専用端末(キオスク端末)から、ユーザーがコンタクトセンターにいるオペレーターによるサービスを受けられる形態がある。国内でも、シティバンクが2010年から銀行の窓口業務と平行して、店舗でオペレーターとテレビ電話で取引ができるサービスを他国に先駆けて提供開始している。今後は無人のATM店舗にもビデオ機能を持たせることで、コンタクトセンターのオペレーターが顧客の顔を見ながら取引でき、顧客対応の質を向上できるようになるだろう。
コンタクトセンターにおけるビデオ活用のファーストステップとして、PC上でオンラインサービスを利用しているユーザーが、ビデオチャット機能を使ってコンタクトセンターのオペレーターにコンタクトできるようにし、オンラインショッピングの購入手続きなどのサポートを提供するといったサービスが考えられる。また、ユーザーとオペレーターが閲覧するWebサイトの共有やストリーミング配信により、今までは「自動・無人」対応だったWebサイトを活用して、オペレーター参加型の密なサービスを提供できるようになる。
ビデオ会議専用端末、PC上でのビデオチャットに続き、近年のスマートフォンユーザーの急激な増加に伴い、コンタクトセンターへのビデオ機能を活用した問い合わせが今後はさらに増えると考えられる。既に一部の通信会社ではテレビ電話用のフリーダイヤルサービスが提供開始されている。コンタクトセンター普及の過程において、0120といった音声通話のフリーダイヤルが必須条件であったことも考え合わせると、ビデオ電話用のフリーダイヤルのサービス増加が、今後の「ビデオコンタクトセンター」の普及を後押しすることが予想される。
先述したように、スマートフォンは電話、メール、ストリーミング、そしてビデオ会議/テレビ電話などのマルチメディア機能が1つの端末に統合されているため、UCが提供する利点を手軽に享受できる。前回解説したマルチモーダル(Multi-Modal)の概念は、スマートフォンの登場によって一般ユーザーの間でも浸透し始めているといえるだろう。
コンタクトセンターにおいて、ビデオを利用した新しいサービスを提供するときに重要なポイントになるのは、ビデオ通話でただ単にオペレーターの顔が見えることではない。コンタクトセンターに電話で問い合わせしてくる顧客に、状況に応じてWebサイトやメールを活用して地図や観客席のレイアウト、レストランのメニューなど音声だけでは伝え切れない情報をリアルタイムで提供し、より顧客に伝わりやすくすることだ。現在、電話の保留中に会社のプロモーションを音声で伝えるコンタクトセンターもあるが、ビデオ機能を取り入れることにより、スマートフォンユーザーには数十秒のビデオクリップを配信することも可能だ。
次回は、マルチメディアを統合するUCが、コンタクトセンターにもたらすメリットについて解説する。
1989年に渡米。1996年シリコンバレーのCRMソフトウェア会社にソフトウェア開発者として入社。その後M&Aを経て2001年アバイア設立当時から同社で勤務。2004年に日本アバイアへ移籍、帰国しAPACコンタクトセンター製品担当者に就任。CRM Demo & ConferenceやInteropなどで数多く講演している。
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