AWS、ニフティ、IIJ GIOのストレージ速度を検証、比較してみたどれを選ぶ? パブリッククラウド比較【第3回】

Amazon Web Services(AWS)、ニフティクラウド、IIJ GIOのストレージサービスの処理速度を比較検証した。

2012年03月08日 09時00分 公開
[中山貴禎ネットエージェント]

 今回は、IaaS(Infrastructure as a Service)について解説していきたいと思う。

 「今さら聞けない! 各種クラウドサービスの違い」にも書いたように、IaaSはPaaSよりさらに柔軟な運用が可能な形態、平たく言えば仮想サーバを借りてインターネット越しに利用するサービスだ。ホスティングサービス(専用サーバレンタルなど)と大きく異なる点としては、料金の支払い体系とサーバ構築の速さ、自由度が挙げられる。

AWS、ニフティクラウド、IIJ GIOのストレージを比較

 今回筆者は、IaaSストレージサービスの1つである「ニフティクラウドストレージ」に触れる機会があった。ニフティクラウドストレージはこの分野のパイオニア的存在である「Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)」との互換性の高さをうたう。ストレージに対してHTTPを用いたシンプルなRESTベースのAPIでアクセス可能な、分散型オブジェクトストレージだ。

 せっかくの機会なので、本家的な存在であるAmazon S3、そして国内大手である「IIJ GIOストレージサービス」を同時に使い、簡単に比較を行った。ちなみにIIJ GIOサービスには、Windowsのファイル共有サービスを提供するプロトコルであるCIFSをサポートしたFS/S(CIFS)と、Amazon S3相当のHTTPS/RESTインタフェースをAPIとして提供するFV/Sがある。Amazon S3、ニフティクラウドストレージと合わせて、IIJ GIOでは後者のFV/Sを選択した。

 主にコンシューマ向けのクラウドストレージでは、Google DocsやDropbox、Windows Live Sky Driveも有名だが、基本的にビジネス向けのサービスを選択した。最初に断っておくが、今回の試用はカーレースでいうところの「理想の条件下で最速ラップを1000分の1秒単位で計測する」といったような「最大パフォーマンスの計測」ではなく、ごく一般的な環境で実際に試してみたというレベルでの比較にすぎない。よって各サービスともこの試用結果がそのまま性能値といえるわけではないことをあらかじめお断りしておく。

 試したクライアント環境は以下の通りだ。

項目 環境
場所 都内某所
CPU Intel Xeonプロセッサー X3440 @ 2.53GHz x2
メモリ 2Gバイト
OS Debian GNU/Linux 6.0
回線 UCOM 100Mbpsライン

 まさしく「手近にある環境でちょっと試してみた」というレベルの試用だが、同一の処理を10回繰り返して平均を取ることで、できるだけブレの少ない比較を試みた(※1)。結果については以下の表をご覧いただきたい。

※1 ベンチマークテストは、比較的空いている深夜の時間帯に実施した(追記:2012年3月9日17時30分)。

 表
Amazon S3(東京) ニフティクラウドストレージ IIJ GIOストレージサービス
512バイト シーケンシャルアクセス(PUT) 5.862680991 QPS 18.28045099 QPS 4.029765622 QPS
512バイト シーケンシャルアクセス(GET) 7.062949655 QPS 46.25614254 QPS 13.80952078 QPS
【Min】100Mバイト×5回 スループット(PUT) 9.742660104 Mbps 3.742924787 Mbps 2.294348988 Mbps
【Max】100Mバイト×5回 スループット(PUT) 77.94128083 Mbps 29.94339829 Mbps 18.35479191 Mbps
【Min】100Mバイト×5回 スループット(GET) 11.61423999 Mbps 3.972594785 Mbps 10.2984832 Mbps
【Max】100Mバイト×5回 スループット(GET) 92.9139199 Mbps 31.78075828 Mbps 82.38786564 Mbps
s3fs mount(R/W) OK OK NG
s3fs mount(List) OK NG NG
ping 2.38ms 11.5ms

 計測したのは512バイトという小さいファイルを外部からクラウドへPUT/GETした際の平均QPS(Query Per Second)と、100Mバイトのファイルを外部からクラウドへ5回PUT/GETした際のスループット(FTP測定値)だ。後者に関しては最低(Min)/最高(Max)の数値を記している。

 その結果、まずシーケンシャルアクセスについてはPUT/GET共にニフティクラウドストレージが非常に高速だった。ここでいうシーケンシャルアクセスというのは、先頭から順番に読み書きするという意味ではなく、ドライブ内で連続した1つの領域に対する読み書きを指す。ファイルコピーや大きなデータファイルを開くなどの処理速度に大きく影響する。つまり、ニフティクラウドストレージはクラウド上でのファイル操作やコピーのような作業の場として利用するには、非常に適しているであろうことが想像できる。

 一方で、比較的大きな100Mバイトのファイルについて5回連続PUT/GETのスループット(FTP測定値)を計測した平均数値は、Amazon S3の性能がかなり高かった。ちなみにスループットは処理能力の指標であり、高ければ高いほど高速といえるが、もう1つの要素であるレイテンシ(遅延)の値が小さくないと、一概にストレージ性能が高いとはいえない。スループットは処理の多重度を上げて向上することも可能だ。

 試しにpingを打って応答速度を測ってみたのだが、Amazon S3はなかなかに優秀だった。Amazon S3に対しては以前使った際の記憶から、比較的レイテンシが大きいイメージを勝手に持っていたのだが、2011年3月に東京にできたデータセンターの効果だろうか、実際には思っていたよりはるかに良好な数値だった。またニフティクラウドについては80/443TCPポート以外のアクセスを拒否している仕様から、pingを打っても返ってこなかった。

 ちなみに、今回は同一の条件下での比較に絞ったが、ニフティクラウドストレージはmultipartアップロードという独自の機能を持っており、これを利用することでスループットの高速化を図ることも可能だ。

 IIJ GIOストレージサービスについては、どちらのテストでも平均的な成績を収め、特に強い/弱いといった特徴は見受けられなかった。言い方を換えればどの条件下でも安定した数値を見せており、テスト結果からは比較的用途やユーザーを選ばず利用できるサービスだと感じた。

 ところで、Amazon S3をローカルストレージと同じように扱うことのできる「s3fs」というツールがある。利用した経験のある読者もいると思う。かなり意地悪なテストだが、Amazon S3互換/S3相当とうたっている他のサービスでこれがそのまま利用できるかどうかも試してみた。

 最初からどれも恐らくNGだろうと予想して試したのだが、意外にもニフティクラウドストレージはマウントし、読み書きすることができた。もちろんAmazon S3と全く同じというわけではなく、利用できる機能などにも制限はある(※2)。だが、一応の互換性は確認できているため、現在Amazon S3を利用している人が併用したり移行したりするハードルは比較的低いといえるだろう。

※2 表中の「s3fs mount(List)」参照(追記:2012年3月9日17時30分)。

まとめ

 今回紹介したサービスはどれも使いやすく、パフォーマンスや信頼性が高い最新の分散型オブジェクトストレージだ。オンプレミス同様、運用時のセキュリティを自前で管理する必要はあるのだが、これまで難しかったサーバや大容量ストレージの短期間利用やディザスタリカバリを、簡単かつリーズナブルな価格で実現できる最新のIaaSは素晴らしいと思う。

コラム:「オブジェクトストレージ」と「分散ストレージ」の違い

 最近よく耳にするようになったキーワードに「オブジェクトストレージ」と「分散ストレージ」がある。この2つはどのような違いがあるのだろうか。まずオブジェクトストレージは、ファイル単位ではなくオブジェクト単位でデータを管理するストレージである。比較的アクセス回数や変更頻度が少ないデータを扱うアーカイブストレージに向いており、優れたスケーラビリティを備えている。

 現在デジタルコンテンツの容量は爆発的に増大しており、かつ9割のデータはめったにアクセスしたり更新したりされないという調査結果も耳にする。こうしためったに触らないデータを保管するためには、処理能力よりもスケーラビリティとコストパフォーマンスの高さ、かつ改ざん防止や管理の容易さが要求される。オブジェクトストレージは、こうしたニーズに応える1つの完成形ともいえる。

 ところで、スケールアウトという言葉は「柔軟に容量の増減が可能」というポジティブなキーワードとして用いられることが多い。確かにそういう側面はあるが、しかし一方で、使用機器の数が増えれば当然、故障というリスクが増大するというマイナスの要素も併せ持つ。単にアクセス速度が高ければ何でもいいなどと一概に言うことはできないのだ。例えば東日本大震災以来、急速に意識が高まっている「災害時のデータ消失対策(ディザスタリカバリ)」という点も極めて重要である(関連記事:パブリッククラウドは災害対策で役に立つのか? AWSとGIOも検証))。加えてグローバル企業においては世界中どこにいても同様のアクセシビリティが得られることが望ましく、また出入国時の端末没収などへの対案も必要だ。単に容量を大きくし速度を高めるという点のみに注力するのではなく、オブジェクトを幾重にも冗長保存するような仕組みが望ましい。

 こうした課題に対する解の1つが「分散ストレージ」と呼ばれるものである。これは、データを保存するストレージ(データセンター)を複数の場所に分散配置してデータをミラーリングし、それら個々のストレージを束ねて1つの長大なストレージプールとして管理するというものだ。複数地域に分散しておけば、その分だけ有事の際にもデータ消失のリスクは減少する。究極的には天災や戦争などによる被災、世界各地からのアクセシビリティなどを踏まえると世界中のあらゆる地域のデータセンターに分散して管理するシステムが理想だろう。


中山貴禎(なかやま たかよし)

ネットエージェント 取締役

主にコンシューマ市場を中心にさまざまな業界を渡り歩き、2008年ネットエージェント入社、2010年より現職。ジェネラリストとして各種企画および技術部門を統括。また、機密情報の外部流出対策製品のプロダクトマネジャーも兼務し、自ら知財も取得するなど活動範囲は広い。

執筆・講演活動では、広く一般の方々に向け、誰もがITや情報セキュリティなどの最も肝心な部分をきちんと理解でき、普段の生活に生かせるような解説方法を模索中。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

譁ー逹€繝帙Ρ繧、繝医�繝シ繝代�

事例 ニュータニックス・ジャパン合同会社

AIを活用した研究を支えるインフラを低コストで整備、キャンベラ大学の実現方法

AIや機械学習を基盤とするシステムを活用した、高度な研究を支えるインフラ整備が必要となったキャンベラ大学。だが負担が増大していたIT部門は、効率的な対応を行うことが難しかった。こうした中、同大学が採用したアプローチとは?

製品資料 株式会社シーイーシー

VMware製品のライセンス変更を契機に策定する、企業ITインフラの新戦略

VMware製品の永続ライセンスが廃止され、新ライセンスモデルが導入されたことで、多くの企業はITインフラ戦略の再検討を迫られている。本資料では、3つの選択肢のメリットとデメリットを整理し、最適な判断を下すための方法を紹介する。

製品資料 株式会社シーイーシー

vSphere環境からの移行術、AzureとNutanixによる柔軟なインフラ基盤構築を紹介

VMwareの体制変更を機に、IT基盤のクラウド移行を検討する組織が増えつつある。そこでMicrosoft AzureとNutanixを活用した柔軟なインフラ基盤の構築方法や、実際の成功事例を解説。VMwareからの移行を検討中の担当者はぜひ確認してほしい。

技術文書・技術解説 ニュータニックス・ジャパン合同会社

ベンダーロックインを伴わずに、優れた仮想化テクノロジーへ移行する方法とは

仮想化環境の移行は、チームがどれだけ高いスキルを有していても困難を伴う。「今の環境と同じ機能を利用できるか」などのチェック事項も多い。そこで、ベンダーロックインを伴わずに、優れた仮想化テクノロジーへ移行する方法を紹介する。

製品資料 ニュータニックス・ジャパン合同会社

VMwareによる仮想化環境からの移行を簡素化する方法とは?

IT環境の多様化・複雑化に、VMware買収の話が加わって、組織のIT担当者の悩みは増える一方だ。このような状況において、管理運用の簡素化とリスクの軽減をどのように実現すればよいだろうか。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

繧「繧ッ繧サ繧ケ繝ゥ繝ウ繧ュ繝ウ繧ー

2025/07/13 UPDATE

  1. Red Hat縺ョ縲後ワ繧、繝代�繝舌う繧カ繝シ謌ヲ莠峨€阪〒VMware繝ヲ繝シ繧カ繝シ縺悟虚縺鞘€懃ォッ逧�↑逅�罰窶�
  2. 繧ウ繝ウ繝�リ譎ョ蜿翫�莉翫%縺晁ヲ狗峩縺吶€御サョ諠ウ繝槭す繝ウ縲阪′菴ソ繧上l繧狗炊逕ア縺ィ縺ッ��
  3. 縲娯€弖Mware繝ヲ繝シ繧カ繝シ縺ョ螟ァ遘サ陦娯€昴↑縺ゥ襍キ縺阪※縺�↑縺�€阪b縺セ縺�1縺、縺ョ逵溷ョ溘□縺」縺滂シ�
  4. 縲後Μ繝「繝シ繝医ョ繧ケ繧ッ繝医ャ繝玲磁邯壹€阪〒繝槭え繧ケ縺御スソ縺医↑縺�→縺阪�窶懊%縺ョ險ュ螳壺€昴r逍代≧縺ケ縺�
  5. Hyper-V繧ッ繝ゥ繧ケ繧ソ縺ォ縺翫¢繧儀M縺ョ迥カ諷句酔譛溘→讒区�繝輔ぃ繧、繝ォ縺ョ蝠城。�
  6. VMware縺九i縺ョ遘サ陦悟�縺ィ縺励※縲¨utanix縺ョCEO縺梧緒縺鞘€懷享縺。遲銀€昴→縺ッ
  7. ESXi繧オ繝昴�繝育オゆコ�セ後〒縺ッ驕�>縲€縲後ワ繧、繝代�繝舌う繧カ繝シ遘サ陦後€阪r閠�∴繧九b縺」縺ィ繧ゅ↑逅�罰
  8. Mac繝ヲ繝シ繧カ繝シ縺後€祁Mware Fusion縲阪r菴ソ縺�燕縺ォ遏・縺」縺ヲ縺翫″縺溘>豕ィ諢冗せ
  9. 繝�Ξ繝ッ繝シ繧ッ髟キ譛溷喧繧偵€轡aaS縲阪〒荵励j雜翫∴繧九◆繧√�豕ィ諢冗せ縺ィ隗」豎コ遲�
  10. 繝悶Ο繝シ繝峨さ繝�縺ォ繧医k雋キ蜿弱〒繝エ繧、繧ィ繝�繧ヲ繧ァ繧「縺ョ繧ッ繝ゥ繧ヲ繝臥ョ。逅�」ス蜩√�縺ゥ縺�↑繧九�縺具シ�

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...