企業がクラウドを導入しても活用できない深刻な病巣非難し合うユーザーとサプライヤー

企業はいま、クラウドの実装に成功していない。適切なソリューションを提供しないプロバイダーの責任か? 業務部門を無視した企業のIT部門の責任か?

2014年04月24日 08時00分 公開
[Jim Mortleman,Computer Weekly]
Computer Weekly

 企業のIT部門は、自社の業務に適したクラウドテクノロジーの実装に成功していない。また、クラウドプロバイダーが顧客を増やそうとアピールする際の方法も適切ではない。2014年2月末に英国ロンドンで開催された「Cloud Expo Europe」カンファレンスで重要課題として目立ったのが、このテーマだった。

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 カンファレンスの2日目、香港の香港上海銀行(HSBC)のグローバルイノベーションの責任者、バリー・チャイルド氏が、やや異例ながらクラウドサービスの顧客として基調講演を行った。同氏はサプライヤーに対して、ビジネスユーザーにとってより業務に即した理解しやすい形で、システムとサービスをパッケージとして提供するように要請した。チャイルド氏のこの主張は、英Outsourceryの共同最高経営責任者であり英BBCのテレビ番組で一躍有名になったピアーズ・リニー氏(訳注)が、カンファレンス初日の基調講演で語った内容と趣旨を同じくしている。

訳注:英国版『マネーの虎』出身者。本誌10月23日号:ギガビット無線LAN徹底解剖に同氏のインタビュー記事を掲載している。

 企業のIT部門でクラウドの導入を進める立場であるエバンジェリストは現在、クラウドモデルの将来性はアジリティ(俊敏性)、コスト管理、効率などを向上させる点にあると認識している。その一方で、自社の経営陣にクラウドの効果を理解させ導入の承認を得るところでかなり苦労しているとチャイルド氏は語る。

 「これまでは願望で終わっていたことが、ゆくゆくはクラウドを使って全て実現できるようになる。クラウドは、あらゆるテクノロジーを組み合わせて新しいものを生み出すための接着剤の役割を果たす。またクラウドを利用すれば、サービスを全世界にオンデマンドで提供できるようになる」と同氏は語る。「それなのに、現在のIT利用の中では主流のモデルといえないのはなぜなのか。どの業界を見ても、大企業はクラウドへの取り組みを始めたばかりのところがほとんどだ」(チャイルド氏)

サプライヤーはユーザーに向き合え

 リニー氏と同じくチャイルド氏も、この現状に至ったのは、各業界の人々の心に直接響くようなサービスを効果的にアピールできていないサプライヤーにまずは責任があると考えている。

 「昨日このイベント会場を見て回ったが、どこに行っても私に声をかけてくる人が売り込むものは、(例えてみれば)ドライバーやらスパナなど、サービスを自社で使える形に自分で仕上げるためのツールばかりだった。また、われわれユーザーもその状況を単純に受け入れてしまっている」とチャイルド氏は語る。

 「私がCIOに予算が欲しいと言うと、CIOにまず聞かれるのは『それでどの部門の問題が解決できるのか』ということだ。だからサプライヤーには、私のような顧客が(クラウドを使って)実現したい業務のイメージをもっと明確にする作業の支援を切実に望んでいる。なぜなら現時点では、われわれは自力ではこの困難な状況の打開策を見いだせていないが、その一方で、自分たちより優れた解決策のアイデアを持っている人間はどこかに必ずいるという確信もあるからだ」(チャイルド氏)

 さらにチャイルド氏は続けてこう説明する。「結局のところ、ITサプライヤーはこれまで長い間、企業のIT部門とだけ関係を築いてきた点が多くの問題の原因になっている。今やSaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)の時代となり、企業のIT部門が直接自社のITインフラを管理する必要はなくなった。古くからの付き合いは、もはや意味がない。ビジネスモデルを変えなければならない。最終的にSaaSやPaaSの恩恵を受ける人に対して、そのシステムをアピールしなければならない。そんなアピールが成功していたら今ごろは、(ITシステムに)要求されることが各業界のリーダーにもっと理解されて、クラウドシステムはずっと普及していたはずだ」

 チャイルド氏は講演の最後に次のように語って、サプライヤーに奮起を促した。「クラウドが各業界に提供している機会は、業界の流れを一変させる可能性も秘めている、千載一遇のチャンスだ。われわれは真剣に世界を変えることに取り組んで、これまでの仕事のやり方を根底から覆すほどの変化を実現しなければならない。私は現状を脱却して当社の世界中の顧客に喜んでもらえる仕事がしたい」

仮想データセンターはクラウドではない

 他方、サプライヤーが顧客の要望に応えられるレベルの俊敏性を実現できていない現状を招いた責任は企業のIT部門にもあると話すのは、米Dellでクラウドコンピューティング担当のエグゼクティブディレクターを務めるジョージ・リース氏だ。

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