中国特有のIT事情と法律問題
外資規制が強まる中国、日系企業が直面するネットワーク、セキュリティ課題とは?
「ネットワークの南北問題」や「中国公安82号命令」など、外国企業が中国でビジネスを展開するには乗り越えなければならない壁が存在する。中国特有のIT事情とその課題を紹介する。
「グレートファイアウォール(金盾)」「ネットワークの南北問題」――中国でビジネスを行っている、もしくはビジネスを検討したことがある企業であれば、これらの言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。いずれも中国ならではの事情といえるだろう。
中国の日系企業
中国は日系企業の海外進出先として真っ先に名前の上がる国だ。経済産業省が2010年に発表した調査によると、海外に進出する日系企業数は2010年で1万8599社であり、そのうち現地法人の設立先地域としてアジア圏が62%、中でも中国はその40%を占め、日系企業が最も進出している国となる。
しかし中国では今、外国企業への規制が厳しく、一部では外資排除の動きも見られる。例えば中国政府は2014年5月、中央省庁で使われるコンピュータに米Microsoftの「Windows 8」を購入することを禁止する通達を発表した。また、中国国内の銀行で導入している米IBMのサーバを中国国内製品に置き換えるといった指示も発令。さらに2014年7月、中国の国家工商行政管理総局はMicrosoftに対し独占禁止法違反の可能性を示し、複数のオフィスへの立ち入り検査を実施した。
日本とは異なる政治体制やIT事情を有する中国で外国企業がビジネスをするに当たっては、乗り越えなければならない壁が存在する。今回は、IIJ Global Solutions China 山口貴司氏が2014年9月4日に行った講演「中国で直面するIT課題の実情と対応策」を基に、ネットワークを中心とした中国のIT課題を紹介する。
中国のネットワーク課題
山口氏
「中国と日本の間のネットワークが遅い」と感じたことがある人は多いのではないか。山口氏は「通信サービスの品質は国ごとに異なるが、一般的に見て、中国の通信サービス品質は低い方の部類に入る」という。
山口氏は、中国のネットワークが遅い理由には3つの原因が考えられると話す。1つ目が需要と供給のバランス、2つ目は南北問題、3つ目は検閲と、陸揚局の少なさだ。
1.需要と供給のバランス
中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)によると、2014年6月の中国のインターネット人口は6億3200万人に上る。2010年6月の4億2000万人から見ても増加傾向にあるといえる。普及率は日本の71.8%に対し46.9%と低いため、まだ伸びることが予測できる。また、中国から海外への国際インターネット回線の帯域は増加しているが、「急増する需要に帯域幅の供給が追い付いていない。特に中国と日本間の帯域が不足している」(山口氏)という。
2.南北問題
山口氏によると中国のネットワークは、「北部を中心に事業展開をしているチャイナユニコム(CU)と、南部を中心に事業展開をしているチャイナテレコム(CT)の2大キャリアが、インターネット固定網の99.9%を占める」そうだ。
しかし、CUとCTは相互接続がされていない。そのためCUからCT、もしくはCTからCUへ切り替わる箇所で遅延が発生する。このことを南北問題というそうだ。
「中国国内でのCTからCUのボトルネックは大きく、同じを上海市内でも1000msecを超える場合もある。中国→米国→中国もしくは中国→欧州→米国→中国のようなルートを通る場合も多々ある」(山口氏)
3.検閲と、陸揚局の少なさ
3つ目の課題は、グレートファイアウォール(金盾)だ。中国国内外で行われるインターネット通信に対して、接続規制・遮断をする大規模な検閲システムのことである。
「中国の国際関門局は北京、上海、広州の3拠点。グレートファイアウォールによる検閲はこの3拠点に集中することになる。海外へのインターネット通信で利用されている海底ケーブルの陸揚局には常に通信が集中するため通信に遅延が生じるのだ。
インターネット速度への改善策案
上記のような中国のネットワーク事情を踏まえ、日系企業が利用するインターネットの速度を改善するにはどのような施策があるのだろうか。山口氏は4つの対策を紹介した。
1.通信事業者/回線の変更
まず、国際ネットワークに強いキャリアに変更することで改善されることがあるという。「例えば、上海でチャイナモバイルのようなキャリアを利用し国際通信をしようとしている場合は見直した方がいい」(山口氏)。また、回線契約をしたのが5~10年前など、当時の遅い回線を契約したままになっているケースも多いという。
拠点の利用者数に適した帯域幅かどうかもチェックポイントだ。「従業員100人規模で512Kバイトの契約をしていた企業もあった」(山口氏)という。さらに、中国国内拠点間接続においてCTとCUをまたがっていないかどうかも確認したい。通信キャリアによっては、国際通信を優先してもらえるオプションサービスがあるため、契約することで改善されるケースもあるという。
2.インターネット出口の集約
多拠点にわたって回線を増速するのではなく、いったん中国内のデータセンターにインターネット出口を集約させて、バックボーンに近い太い帯域を利用することで国際通信の速度を上げることが可能だ。例えば、「IIJ-CUバックボーン」を利用したプロキシサーバの導入が挙げられるという。
3.既存設備の改善
中国拠点におけるネットワーク配線が複雑になりすぎていたり、家庭向けのルータやハブを使用していないだろうか? 拠点内のLAN構成を見直すことで改善されることがあるそうだ。社屋や地域の電圧が不安定で瞬間停電が頻繁に発生している場合は、設備の見直しで改善することもあるという。また、従業員のインターネット不正使用(映画ダウンロードなど)に制限を掛けることも重要な対策の1つだ。
4.国際/国内IP-VPN
「1~3の対策で改善が見込めない場合および業務システムやデータ転送などで利用頻度が高い場合はIP-VPNを導入するのが確実」だという。さらにWAN高速化装置を導入すればコストを抑えながら高速化を実施でき可能性が高いそうだ。
| 項目 | 対策 | 費用 | 改善度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 通信事業者/回線の変更 | 中 | 中 |
| 2 | インターネット出口の集約 | 中 | 中 |
| 3 | 既存設備の改善 | 低 | 中 |
| 4 | 国際/国内IP-VPN | 高 | 高 |
IT関連法の順守
中国には同国特有のIT関連の法律が存在する。冒頭で述べた通り外資規制が厳しくなっているため、軽視できない法律といえる。
1.中国公安82号命令
中国でインターネットにアクセスする企業は、IDとアクセス先のログを取得し60日間保持することが全企業に義務付けられている(中国公安82号命令)。「状況次第で1万5000元以下の罰金、再三の注意にも関わらず違反の改善が見られない場合は6カ月以内のインターネット接続の中断、それでも改善が見られない場合は、インターネット接続権利が剥奪される場合がある」(山口氏)
2.海外の暗号化製品の使用規制
中国の商用暗号管理条例では、海外製暗号化製品の中国への輸入、販売を禁止しており、国家暗号管理局が認可した暗号製品のみ利用可能とした条例を定めている。
山口氏は「今まではそこまで厳しい摘発はそれほど多くなかったが、外国企業に対する規制が厳しくなっているので、注意が必要になっている」と注意を即す。
3.ICPライセンス
厳しい情報規制を敷く中国では、中国企業/外国企業問わず、中国でWebサイトを運営するには中国政府の認可が必要になる。認可の条件はWebサイトの経営性によって異なる。
Webサイトは、非経営性サイトと経営性サイトの2種類に分けられる。お金をもうけるWebサイトを経営性サイトといい、それ以外は非経営性サイトになる。「経営性サイトの認可を外国企業が直接受けることはほぼ不可能だ。よって、ゲーム、ECサイトなどを展開する外国企業は、パートナー経由でライセンスを取得することになる」(山口氏)
セキュリティ対策
ネットワーク、IT関連法に続いて課題なのが、著作権侵害と情報漏えいである。
中国においてウイルス感染は深刻な事態だ。中国政府関係機関が発表した調査によると、PCでのウイルス感染率は2012年で45%になるという。「日本の0.2%とは比べものにならないレベルだ」(山口氏)。主な感染原因は海賊版ソフトなどのダウンロードである。「中国での違法ソフト利用率は77%に上る。違法コピーによる損害額は世界第2位である」(山口氏)
中国国民の間で違法ソフトの利用が当たり前になっているとはいえ、企業は著作権を守らなければ摘発される恐れがある。中国の著作権侵害における罰則は、損害賠償などの民事責任、中国独自のシステムである行政処罰、懲役などの刑事責任の3つ。過去には日系企業の摘発事例もある。本社側の内部統制システムの不備が指摘されれば、外国本社への損害賠償請求や株主による代表訴訟が起きる恐れもあるので注意したい。
続いて、特に深刻なのは企業内の機密情報の漏えいである。ウイルス感染による情報漏えいの他、金銭目的で内部資料を公開する従業員や元従業員が多いという。
「中国で最もメジャーな検索エンジンの『百度文庫』では、利用者が自分の持つ文書や資料をアップロードすればポイントを獲得でき、そのポイントを使って物や金券に交換することができる」(山口氏)
こうした仕組みが横行しているためか、中国ではインターネット上に企業の内部資料が多数公開されている。これには既に多くの日系企業が被害に遭っているのが現状だ。
以上、中国でビジネスを行う企業にとって課題となるネットワーク遅延、IT関連法、セキュリティ対策と3つの問題について紹介してきた。こうした課題に対しては、IIJ Global Solutions Chinaなどのプロバイダーがさまざまなソリューションを提供している。中国の経済成長は緩やかになってきているとはいえ、世界第2位のGDPを誇り、高い成長率を維持している。今後も日系企業にとって有望な事業展開先といえるため、適切な対策を講じてビジネスに臨みたい。
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