J-SUMMITS 連載コラム「電気羊はユーザーメードがお好き!?」
電子カルテベンダー諸君、「レイアウトデザインは二の次」を今すぐ改めよ
電子カルテの処理能力は、技術の進化により確実に向上している。しかし、ことデザインに関しては、一昔前のコンセプトを引きずっているように思える。
医療現場における電子カルテの導入や利用に関するエッセイ集『電子カルテは電気羊に食べられる夢を見るか』(加藤 五十六 著)を題材に、「日本ユーザーメード医療IT研究会」(J-SUMMITS)のメンバーが、現場が抱える課題の解決策をリレー形式で提案する本連載。今回は、電子カルテのレイアウトデザインを取り上げる。
電子カルテに限らず、エンドユーザーがアプリケーションで目にするのは、いわゆるユーザーインタフェース(UI)に限られる。その裏でCPUがどれだけ働いていようが、どれだけ複雑なプログラムが走っていようが関係ない。重要なのは「見やすさ」「操作性」「処理性能(クエリが終了するまでの時間)」だといえる。加藤先生は、エッセイの中で電子カルテのデザインやサインの重要性と難しさについて興味深く書かれている。
ユーザーの生産性を大きく左右するレイアウトデザイン
レイアウトデザインや色調によって、アプリケーションの見た目の印象だけではなく、使い勝手も大きく変わる。世界で最も使われているであろう、米Microsoftの「Microsoft Word」や「同Excel」を例にとってみても分かるように、どの位置にどのような機能のボタンを配置するかはとても重要だ。
主要なコマンドボタンは同じような位置に配置されていて、メーカー内でのデザイン統一が図られている。ボタンには最小単位の単語や絵などのアイコンが書かれており、その機能が分かるようになっている。ところが、これがある日突然変わるとどうなるだろうか。ユーザーは面食らい、全く手が動かなくなり、生産性が落ちる。さらにはいら立ち、ストレスがたまり、そのアプリケーションを酷評することもある。
Microsoftアプリケーションも、バージョンアップのたびにそのレイアウトデザインが現代風に変わっている。これは正しい進化なのであろうが、ユーザーは決して喜んではいない(少なくとも数カ月は)。とはいえ、16ビット時代の白黒デザインのままでは当然受け入れられないわけで、要は人の慣れに大きく依存しているのである。使い慣れることで目的を達成するための手順は、理屈ではなく指が覚えているものだ。しかし、よくできたレイアウトデザインは、直感的で使いやすいものでなくてはならない。
電子カルテのUIが改善されない本当の理由
エッセイの中で、加藤先生は「エンドユーザーにとって大切なデザインや操作性の統一が進まないのは、ベンダーにとって魅力のないところだからしようがない」と指摘している(編注:章「誤りは人の常」)。これは、ベンダー間でのデザインの統一性のなさを指摘していると思われる。では、同一ベンダー製品であれば、そのデザインや操作性の統一が図られているのだろうか。少し見てみよう。
まず、電子カルテ本体のデザイン。限られたクライアントPCの画面に、いかに多くの情報を盛り込むかが最大のテーマとして開発されていることが伺える。本来、画面に多様な情報を表示することは非常に重要だが、必ずしも見やすいとはいえない。ユーザーが画面を見る場合、視線は左上から下へと流れる。そのため、左上に一番重要な情報を置くべきであり、途中で右往左往する必要がある画面はよろしくない。ボタンの配置もしかり。左上に最重要ボタンや画面を終了するコマンドを置くべきだと考える。現在開いている画面を閉じる、あるいは終了するボタンが、画面の右上や右下にある場合、画面の調節によって隠れてしまうことがある。画面の左上角であれば、それが隠れることはない。こうした配置が画面ごとに統一されていないのである(少なくとも、今見ている画面については)。
画面によって同機能のボタンが違う場所に配置してあるとユーザーは迷う。ストレスが高まり誤操作の原因にもなる。使い始めにこのような“洗礼”を受けたユーザーは、挫折やイライラ、無力感を覚える。結果として「何て使いにくい電子カルテなんだ」と決めつけて評価は下がる。ところが、数カ月すると操作に慣れて使いこなしてしまう。人間の対応能力はすごい。ベンダーにとってはレイアウトデザインの問題は二の次なのだろうか。最初の数カ月のクレームの嵐を乗り越えれば、デザインに関する文句はなくなるとでも考えているのだろうか。
現在稼働している代表的な電子カルテは、その誕生から10数年たっている。バージョンアップごとにマイナーなデザイン変更はあるものの、根本的なコンセプトは変わっていないように思える。初期の開発者と現在の開発者は、同じではないだろう。そもそもデザイン担当者はいないと考えられ、開発者の独断と偏見でレイアウトデザインを作り、ユーザーの使いやすさはあまり考慮されていないと想像する。
名ばかりのモバイル対応はダメ、電子カルテベンダーへの提言
CPUの発達や仮想化技術などにより、電子カルテの処理能力は確実に発展してきている。しかし、デザインに関しては一昔前のコンセプトを引きずっている。基本的なデザインポリシーを守りつつ時代にあったUIを創造することが医療IT業界にも必要だと思う。
独自動車大手Daimlerのブランド「メルセデス・ベンツ」の新車種が発表されると、その外見や運転席のデザインなどに批判的な意見が多く挙がる。しかし、しばらくすると他のメーカーがそのデザインを追従する。メルセデス・ベンツは時代の先を行っているのである。それでも根本的な機能、つまりハンドルやアクセル、ブレーキなどの配置は普遍的だ。また、よいデザインは安全性や性能面での向上にも役立つ。例えば、自動車の場合、見た目のかっこよさも大事であるが、空気抵抗の低減はすなわち性能向上に直結する。電子カルテのデザインも同様に、閲覧性と操作性が向上する非常に大事な要素だ。電子カルテベンダーにはこの点をよく考えてもらいたいものである。
「モバイル端末で電子カルテが閲覧できる」「持ち歩いて回診に使えて便利」とアピールする電子カルテが増えている。しかし、実際にはレイアウトが細か過ぎて画面の拡大作業が頻繁に必要だったり(腱鞘炎になりそう)、レスポンスが悪くてもたついたりすることもある。「デスクトップ画面を見せるだけのモバイルツールはやめよう。専用レイアウトを作ってから『モバイル対応』をうたうべきだ」と言いたくなる。その場合は、やはりユーザーメイドの出番かもしれない。
著者紹介
松波和寿 社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院副院長・産婦人科
ファイルメーカープロで構築した院内情報システムを2005年から施設全体で使用。現在は、NEC製の電子カルテとの連係を図りながら機能を拡大している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
J-SUMMITS 連載コラム「電気羊はユーザーメードがお好き!?」
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[日本オラクル株式会社] ピンチをチャンスに変えたEPR製品は? 先行企業の導入事例3選 -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] 無自覚なリスク 秘伝Excelファイルが監査の壁、不正・ミスの温床となる理由 -
製品資料
[日本オラクル株式会社] 戦略的経理の第一歩 失敗のない「脱Excel」を実現する秘訣とは? -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] いまさら聞けないオンプレERPとクラウドERPの違い 最適な製品をどう見極める? -
事例
[株式会社ビザスク] 連結売上高が約2倍に成長、富士フイルムが実践した新規事業創出の戦略とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
「0.3秒のスピード顔認証」の入退室管理が社員に好評 事例に学ぶオフィス改革
-
4
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
5
エンジニアの生産性はどう測る? マネジメントに不可欠な可視化の実現方法とは
-
6
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
7
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
8
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
9
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
10
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー