「DRaaS」をめぐる頂上決戦、Microsoft vs. VMwareの行方は「Azure Site Recovery」登場で変わる市場

Azureのクラウド障害復旧サービス「Azure Site Recovery」は、VMwareの「vCloud Air Disaster Recovery」とどう戦うのか。

2015年04月26日 09時00分 公開
[Trevor JonesTechTarget]
障害復旧を構成する仕組み 障害復旧を構成する仕組み(TechTargetジャパン記事から)《クリックで拡大》

 米Microsoftは、クラウドサービスである「Microsoft Azure」のエコシステムの垣根を越えて障害復旧(DR)機能を拡大している。

 障害復旧サービスの「Azure Site Recovery」とクラウドベースのバックアップサービスの「Azure Backup」は、仮想化プラットフォーム「Hyper-V」のユーザーが既に利用しているサービスを上回る新たなDRaaS(Disaster Recovery as a Service)機能を提供している。

 Azure Site Recoveryを使用すると、IT担当者は物理サーバやVMwareの仮想マシン(VM)用の障害復旧サイトとしてAzureを活用できる。一方Azure Backupを使用すると、Microsoftの「Windows」と「Linux」を搭載したVMで稼働しているパブリッククラウドをAzureに複製して、復元することが可能だ。

 Azure Site Recoveryには、2014年7月にMicrosoftが買収した米InMage Systemsのテクノロジーが採用されている。そのテクノロジーは、クラウドベースのビジネス継続性に重点を置いている。米安全装備メーカーの米MCR Safetyでシステム エンジニアを務めるマイケル・キャントキア氏は次のように語る。「当社ではMicrosoftがInMage Systemsを買収する以前から同社のDRソリューション『InMage Scout』を利用していた。今もAzureの一部として利用している」

 「Azureがユニークなのは、他のサービスと比べて特別な機能は持っていないものの、サーバやアプリケーションなど他のサービスを1つの製品としてまとめている点だ」(キャントキア氏)

 MCR Safetyでは主要アプリケーションを米IBMのUNIXサーバOS「AIX」で実行している。また大半のサポートアプリケーションではVMware製品を使用している。「Azure Site Recoveryを使用すると、複数のOSやアプリが存在していても、細やかな制御と持続的なデータ保護を同時に行うことができる。またAzureのレプリケーションツールは、標準的なSAN(ストレージエリアネットワーク)のレプリケーションよりも優れている」とキャントキア氏は述べる。

 「当社では、より大規模なエンドツーエンド(※)制御を実現するために、依然として自社でDRサイトを構築することを計画している。Azureのレプリケーションツールを使用すると、プライマリサイトに問題がある場合にはクラウドで実行中のVMに避難できる。また、メールボックスからVM全体に至るまで、あらゆるものを復元できる」(キャントキア氏)

※ ネットワークを結ぶ経路全体のこと。

Azureが招くVMwareとの競合

 AzureのアップデートによってVMwareの障害復旧サービスである「vCloud Air Disaster Recovery」と同じ機能が提供された。

 「VMwareは、vCloud Air Disaster Recoveryをきっかけとして、Azureの利用者にアプリケーションをvCloud Airに移行してもらおうとしていた。これは実に分かりやすいクラウドのユースケースだ。だが、Microsoftも同じような障害復旧サービスを提供するようになった」と米Forrester Researchで主席アナリストを務めるデーブ・バルトレッティ氏は指摘する。

 「DRaaSは、どのパブリッククラウドインフラでも実現できる。だが、AzureがvCloud Airと異なるのは、データセンターの管理者がシンプルなツールで、DRaaSを設定してテストできる点だ。今回のアップデートによりMicrosoftの競争力は維持できる。また、VMwareのユーザーは、VMwareから一部のシステムの稼働負荷をAzureに移す動きが進み、Azureに移行する可能性もある」とバルトレッティ氏は補足する。

 「MicrosoftはDRaaSの機能を単なる障害復旧の機能として考えているわけではない。Azureをハイブリッドクラウドとして利用するアプローチの1つとして位置付けており、単なるDRの製品ではなく、幅広い機能を提供している印象を与えることを期待している」と米Gartnerでストレージ リサーチ部門の統括責任者を務めるベルナー・ツルヒャー氏は語る。

DRaaSはクラウドへの入り口になるが、万人向けではない

 DRaaSはクラウドベンダーにとって簡単に提案できるサービスとして見なされることがある。それは、従来のテープ記憶域と比べて使いやすさや価格が改善されていることと、顧客がクラウドに頼る最初の機能になることが多いためだ。これは特に中小企業に当てはまる。

 「中小企業の規模であれば、データをクラウドに送って、クラウドで復旧できるようにすることは造作もない。多くの企業は、ベンダーが期待していた形でDRaaSを実現しているわけではない。500台を超えるVMをDR用クラウドで運用しているのは、ほんの一握りだ。DRaaSユーザーのうち、90%のユーザーの運用しているVM数は、50台以下であるのが実情だ」とツルヒャー氏は述べる。

 500台を超えるVMを保有している企業では、コストが数百万ドルにも上る可能性がある。大きな組織が契約を結ばないのは、コストに加え、セキュリティに関する懸念が払拭されていないからだ。また、適切にDRaaSを実現するには、基幹業務アプリケーションもクラウドに配置しなければならない。これはほとんどの企業がちゅうちょする点だ。

 「大企業や大型の見込顧客がDRaaSの契約を結ぶ気配は見られない。2016年にはセキュリティ面やコスト面が改善され、もう少し多くの企業が契約を結ぶようになると思われるが、契約が殺到することはないだろう。Microsoftが大口顧客の取り込みにどの程度成功するかは、MicrosoftのパートナーにとってDRaaSをどれだけ魅力的なものにできるかに懸かっている」(ツルヒャー氏)

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