Dellが「ワンストップショップ」になるというのは、顧客を引き付けるセールスポイントだが、ベンダーロックインの問題や専門性が失われるのではないかといった懸念もある。
米NPO法人Tri-Counties Regional Centerのドミニク・ナムナス最高情報責任者(CIO)は「Dellは欲張っていると思う。私自身はDellに対して少し警戒するようになりそうだ。私が最高の製品を手に入れられるのか、それともDellが最高の利益率を得るのか、それが疑問だ」と話す。
「米IBMはかつて、PC事業を売却したことで自社の中核部門の1つを手放し、取り扱う製品の幅を縮小した。その結果、同社は他の重要な製品に一層集中できるようになった」とナムナス氏は語る。「Dellがしていることはその正反対で、製品の幅を拡大している。この買収がDellに利益をもたらすかどうか疑問だ。少数の製品に集中できなくなるからだ」
小規模企業の多くは、1つないし2つの製品に集中することが成功の鍵だと考えているようだ。Dellが巨大な製品ポートフォリオを新たに手に入れることで、同社の焦点が定まらなくなるのではないかと危惧するIT専門家もいる。
「ワンストップショップは大変結構だが、特定分野に専門化することも大切だ」とムアヘッドは話す。
今回の買収はDellにとって大きなリスクだという見方もあるが、EMCとVMwareには大きなメリットがある。「VMwareにとっては顧客を拡大するチャンスだ」とVMwareのゲルシンガー氏は電話会見で語った。Dellの巨大な販売チームは、VMwareの製品を顧客に売り込むだろう。Dellはその一方で、同社のパートナーであると同時にVMwareと競合するMicrosoftとCitrix、さらに多数の既存顧客に対して、特定の製品に肩入れするつもりはないことを説明する必要がありそうだ。
「Dellがこれまで推進してきた製品を見捨てるようなことがあれば、自分で自分の首を絞めるようなものだ」と話すのは、米Technology Business Researchの業界アナリスト、ジャック・ナーコッタ氏だ。「彼らはこれからも、顧客の好みと要求に耳を傾ける必要があるだろう」
VMwareと直接競合するCitrixは、2015年9月に合併の可能性についてDellと交渉していたと伝えられている。EMCとVMwareを買収するというDellの動きは、Citrixの幹部に驚きと不安を与えたかもしれない。DellがCitrixの製品よりもVMwareの製品を推奨する可能性があるからだ。
「今回の買収でDellと提携企業の関係が終了することはないだろう」とナーコッタ氏は予想する。「だがDellの経営陣には数々の難問が突きつけられ、以前よりも高い透明性が求められるだろう」
ナーコッタ氏によると、顧客のニーズに対応するには広範な提携と製品を保持することが重要だが、DellはCitrixおよびCitrixのユーザーに対して、VMwareの買収が彼らに影響することはないと安心させる必要があるという。
「これも難問の1つだ。Dellは時間をかけてユーザーの不安を払拭し、『われわれはユーザーが既に保有している製品の入れ替えを求めたりしない』と安心させる必要がある」とナーコッタ氏は話す。
Dell自身も仮想デスクトップソフトウェアを提供している。米Quest Softwareの買収に伴って取得した「Dell Wyse vWorkspace」という製品だ。だがDellは従来、同製品をVDI(仮想デスクトップインフラ)分野のパートナーであるVMwareおよびCitrixの製品と一緒に販売してきた。
「われわれはVMwareだけを排他的に選んでいるのではない」とデル氏は会見で述べた。
米ITコンサルティング企業のSIGMAnetでビジネス開発と戦略構想を担当するスティーブン・モンテロス副社長によると、DellはEMCと買収契約を結んだことで、EMCおよびVMwareなどの関連企業が提供する新技術を取り入れる動きを加速したという。
「Dellは基本的に、デスクトップ仮想化分野で世界ナンバーワンの製品を手に入れた。研究開発に投資するか買収するかという選択肢に対して、彼らは最大の買い物をしたのだ」(モンテロス氏)
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