人類のデータを未来に届けるストレージ
「5D光学ストレージ」とは? 360TBのデータを138億年保存する仕組み
5D光学ストレージは、360TBのデータを138億年もの長期間保存できる見込みがあると研究者は話す。美術館や公文書保管所など膨大な情報を保存する組織には有用かもしれない。今後数世紀にわたって進化するだろう。
英国サウサンプトン大学の研究者グループは2013年、溶融石英ガラスにテキストファイルのデジタルコピーを300KB格納できることを実証した。同グループはそれ以降も5D光学ストレージ技術の改良を続け、膨大な量のデータをアーカイブする可能性を示してきた。同時に、5Dデータストレージの商用化へ向けて少しずつ動いている。
「5Dメモリクリスタル」とも称されるこの新しいストレージメディアは、超高速レーザーテクノロジーを使用して、複数のガラス層にデータをエンコードする。これにより、ストレージデバイスにはかつてなかった密度を実現している。5D光学ストレージは、他のメディアが苦しめられている環境因子の影響を受けず、数十億年にわたって持ちこたえられると期待されている。
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5D光学ストレージとは
溶融石英ガラスなどの透明素材にデータを格納するために超高速レーザーを利用するというアイデアが導入されたのは1996年のことだ。だが、研究者が光学ストレージに対し新しく革命的なアプローチを用いて、そのアイデアが実現可能であることを示すのに17年を要した。
5D光学ストレージは、CDやDVDとは異なり、プラスチックにエッチングされる反射線ではなく、溶融石英ガラス内の複数の層に刻まれるドット(点)を使用する。このドットにはそれぞれ、データを格納する一連のピット(グレーティング。注1)が含まれる。これを実現するため、高度に改良したレーザーが短く強い光パルスを放射してガラスにエッチングし、グレーティングを作製する。各ディスクでは、相互に5マイクロメートルしか離れていないドットが3つの層を形成する。
※注1 回折格子とも呼ばれる。種々の波長が混ざった光(白色光)を波長ごとに分散させる光学素子。
現在5D光学ストレージに使用されているディスクは直径25ミリ(約1インチ)だが、ストレージメディアのサイズを最大数メートルまで拡大できると研究者は確信している。研究者グループは、直径12センチのディスクをベースに標準を設定することを検討している。
研究者は、石英ディスクには360TBものデータ(約7200万枚の写真データに相当)をセ氏190度の高気温で138億年という長期間にわたって保存できる見込みがあると考えている。今日の光学ストレージメディアはそれに遠く及ばず、保存できるデータ量については、CDがたったの700MB、DVDは4.7~8.5GB、Blu-rayディスクは25GB超だ。これらのディスクの推定寿命は2~100年と大きな幅がある。
比較的新しいM-DISCは、これらのディスクよりも長い寿命が見込まれている。M-DISCの保存容量はBlu-rayやDVDと同様だが、1000年もの寿命があるとされている。環境から受けるダメージへの耐性も他のメディアよりも高い。
研究者は、石英ディスクはセ氏1000度の環境でデータの安定性を維持できることも示している。石英ディスクは、従来の光学ストレージに影響を及ぼす、引っかき傷やディスクの腐食などのダメージにも耐性がある。さらに、0.5トンの重量の直接的な衝撃にも耐えることができる。
5D光学ストレージの仕組み
溶融石英ガラスは二酸化ケイ素の非結晶体で、砂や水晶などの物質から豊富に採取できる。最も純度が高いガラスと見なされている溶融石英ガラスは、他の含有物を含まないため、従来のガラスとは異なる合成製品で、5Dデータの読み書きに必要な精度を実現できる。
だが5D光学ストレージに不可欠な要素として溶融石英ガラスはその1つにすぎず、「フェムト秒(セカンド)レーザー書き込み」という概念もこのテクノロジーに欠かせない。これは、極めて素早くかつ正確に複数層のガラスにエッチングするプロセスだ。このレーザーはフェムト秒単位のごく短い時間に光パルスを生成する。フェムト秒とは100万分の1ナノ秒、つまり10のマイナス15乗分の1秒を表す。
フェムト秒レーザー書き込みは、視力矯正用の屈折矯正手術で使用されている。フェムト秒レーザーは、非常に小さなグレーティングを石英ガラスにエッチングする際ナノグレーティングという20ナノメートルほどの自己組織化ナノ構造を構築する。ナノ構造の大きさは、顕微鏡で見えるサイズから分子サイズまで幅がある。5D光学ストレージの構造は、ガラスにエッチングされたナノグレーティングであり、一連のドットに自己組織化されている。各ナノグレーティングは8ビットのデータを格納できる。
ナノグレーティングを解説しようとすると、もちろんこれよりはるかに複雑で細かい説明が必要になる。重要なのは、偏光サングラスがまぶしい光を遮るのと同じように、ナノグレーティングが偏光を修正し、光がガラスを通して移動する方法を変えることだ。
偏光は、5D光学ストレージの「5次元」という性質を説明するのに役立つ。1~3次元は、ガラスにエッチングされた3層のドットによって定義される。4~5次元は、複屈折という現象(ナノグレーティングが生成する光学的性質)によって決まる。
複屈折を特徴付ける要素は2つある。1つは遅軸方向で、これはガラス内のナノグレーティングの方向と一致する。もう1つはリターダンス(注2)の強度で、これはナノグレーティングの大きさと一致する。
※注2 複屈折で、X軸とY軸の2つの偏光方向に生じる位相差。長さ(ナノメートル単位)で表す。
方向も大きさも、光がナノグレーティングに衝突した際の反応に影響を及ぼす。フェムト秒レーザービームは、偏光と強度を使用することで、方向とリターダンスを独立制御する。これにより複屈折を定量的に測定してデータを取得することが可能になる。5D光学ストレージの4次元と5次元を提供するのが方向と大きさであり、次元が3つしかないディスクでは不可能な非常に高い密度を実現できる。ナノグレーティングはさまざまな角度から読み取ることが可能なので、各ナノグレーティングは1ビットではなく8ビットのデータを格納できる。
ガラスにデータを書き込む際に重要になるのが複屈折だ。このプロセスの間、遅軸方向を制御するために偏光が、そしてリターダンスの強度を制御するために光強度が使用される。この結果としてデータを表す一意のパターンが形成される。このデータはその後読み取りが可能になるが、そのためにはデータへのアクセス時に5次元全てを活用できるように、偏光子とともに光学顕微鏡を使用する。
現実化が進む5D光学ストレージ
5D光学ストレージの商用化はまだ実現していない。その理由の一つは特殊レーザーの価格が高いことだ。だがこのテクノロジーは美術館、図書館、公文書保管所など膨大な量の情報コレクションを保存する必要がある組織には役立つことが証明されている。研究者は既にアイザック・ニュートンの「光学」の他「マグナカルタ」「世界人権宣言」などの主要文書を石英ディスクに記録している。
2018年2月、ケネディ宇宙センターからSpace Exploration Technologiesによるロケット「Falcon Heavy」が打ち上げられた。このロケットはイーロン・マスク氏が所有するTeslaの電気自動車「Roadster」を積載していたが、5D光学ストレージがこの車に積まれていたことで大きな話題を呼んだ。ロケット、車、そしてアイザック・アシモフのSF小説「ファウンデーション」シリーズを記録した5D光学ストレージは、火星と似た軌道をたどり太陽を周回している。
Teslaの実験は、5D光学ストレージに注がれている熱い視線の数々を示す一例だ。これら全てのことを踏まえると、5D光学ストレージ技術は光学ストレージを21世紀、恐らくは今後数世紀にわたって進化させる可能性があるだろう。
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