温故知新の医薬品開発が進むか
「AI」を創薬と疾患特定に生かす医薬品業界、既存薬の新たな薬効も見つかる?
臨床試験や創薬など、医薬品製造における人工知能(AI)技術の利用が進んでいる。制度面での障壁はあるとしても、製薬会社はAI技術による新薬開発のプロセス短縮化を期待している。
医薬品業界は、創薬や医薬品の製造、標的を絞った臨床試験、個別化医療などの分野に人工知能(AI)技術を導入している。こうした分野はほんの一例にすぎない。AI技術が実現する未来は、標的を絞り、より個別化した適切な医療を全体的かつ迅速に提供する社会だ。
データへのアクセスが非常に多い医薬品業界では、機械学習をはじめとするAI技術を応用できる可能性が非常に高いといえる。
医薬品業界に属する企業はAI技術を利用して、診断法や治療法を研究開発している。AI技術をビッグデータや分析技術と組み合わせると、発病前に病気を見つけ、予防するのに役立つ。AIツールを利用して患者のデータを詳しく調べることで、健康問題につながる恐れのある兆候を示すパターンを特定できる。実際、臨床試験や研究では、糖尿病やアルツハイマー病などの病気の兆候を早期検出する従来の医療行為と変わらないほどの水準で、AIツールが役立つことが示されている。
企業はAI技術を利用すれば、遺伝子情報やソーシャルメディアの情報、治療法のエビデンス(科学的根拠)など、以前よりも広範なデータを利用して、臨床試験の設計や臨床試験対象者の特定に効果が高い方法を作り出せる。これにより研究者はこれまで以上に広範なデータセットを検索できるため、臨床試験の対象になる患者を探し出す時間が短縮されるだろう。その結果、標的をより絞り込んだ臨床試験を、費用を抑えて迅速に実施できるようになる。
疾患特定に役立つAI
MIT Clinical Machine Learning Groupは、2型糖尿病のような疾患向けに、病気の進行状況を適切に理解し新たな治療方針を立てやすくするアルゴリズムを開発している。AIツールは患者の医療情報や病歴を利用して、治療に最適なオプションを選択することもできる。
IBMの「IBM Watson for Oncology」は、拡張された治療(Augmented Treatment)をがん患者に提供している。IBM Watson for Oncologyは患者の医療記録だけでなく、医療関係の定期刊行物や出版物の最新情報など、さまざまな情報を特定の患者について評価して、信頼度別にランクを付けた治療の選択肢を提供できる。そのためがん専門医は、IBM Watson for Oncologyの提案を評価し、その患者個人に合った治療オプションを考案できる。
医薬品業界におけるAI技術の利用は、疾患の特定や診断にも大きな役割を果たす。コンピュータビジョン(画像の自動認識と説明の自動生成)の技術は、放射線検査の画像や検査結果を見て、健康な組織とがん組織の違いを検出できる。こうしたシステムは放射線治療の仕組みを改善し、治療の個別化によって精度を高める可能性がある。今流行のインテリジェントな電子カルテを組み合わせれば、それが「もう一つの視点」となり、診断や臨床上の決定、個別化した医療の提案などを支援する。
AIによって強化される医薬品製造
新薬開発は時間もコストもかかるプロセスだ。このプロセスの支援にAIシステムが使用されるようになっている。
データを分析することで、医薬品の製造時間を短縮したり、当初は意図していなかった病気の治療に、既存の医薬品を利用する方法を特定・発見したりしやすくなる(注1)。治験や製造のプロセスで得られるデータは、製薬会社が医薬品の製造に必要な時間を短縮するのに役立つ可能性がある。その結果、開発コストが抑えられ、成分の複製方法が改善される。
※注1 例えば、狭心症治療薬として長年使われてきたニトログリセリンをがん治療のために再利用する研究がある。ベルギーのAnticancer Fundと米国のGlobalCuresによる国際連携プロジェクト「Repurposing Drugs in Oncology」(ReDOプロジェクト)は、既存薬でがん治療以外に広く使用されている薬剤が、新たながん治療の手段となる可能性を探求している(参考:ecancer Global Foundation「Exploding the drug deadlock: repurposing nitroglycerin for anti-cancer treatments」)。
AI技術は医薬品の利用目的を変えることも可能にする。これが実現できれば医薬品の開発者は毒物検査など幾つかの工程を省略して製品化を進めることができ、薬品開発プロセスを劇的に迅速化できる。
GlaxoSmithKline、AstraZeneca、Pfizer、Eli Lillyなどの製薬会社は、医薬品開発プロセス全体の効率を上げるためにAI技術の応用を始めている。例えばEli Lillyは創薬ベンチャーInpharmaticaからAI技術のライセンス提供を受けて、研究速度を上げ、研究活動の費用と環境への影響を抑えながら、オンデマンドでの創薬作業を可能にしている。
医薬品業界は規制の厳しい分野で事業をしている。そのため製薬会社が迅速かつ広範にAI技術を導入するには障壁がある。医薬品業界は、特にこうしたシステムが監視する患者データの量を考えると、セキュリティ、患者のプライバシー、スマートシステムの信頼性などの問題に対処する必要がある。
米国の場合、大半の企業がクリーンなデータを隠し立てせずに競合他社と共有することはないため、こうしたデータへのアクセスが問題になる可能性がある。ただし、AI技術が製薬会社にもたらす進化、コスト削減、付加価値は、詳しく探求する価値がある。
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