MicrosoftはWindows 7までの方式を一変させ、Windows 10で小さなアップデートを頻繁にリリースする方式に切り替えた。これはIT管理者にとっても大きな変化を意味する。
IT市場ではマネージドデスクトップサービスへの関心が高まっているようだ。何よりも、Windows 10そのものがMicrosoftによって管理される。
Windows 10へのアップグレードは、組織のIT管理者が行わなければならない最後のWindowsアップグレードになるはずだ。Windows 10を使い始めれば、MicrosoftがSemi-Annual Channel(SAC)を通じて半年ごとに更新プログラムを配信する。PC管理の観点から見ると、MicrosoftがOS更新の面倒を見てくれるのであれば、数年ごとに新しいWindowsとPCを導入する大掛かりなアプローチは不要になる。実際のところ、Windows 10ではハードウェアの刷新が新しいOSのリリースと関連付けられることはなくなった。
だがIT管理者の役割が消えてなくなるわけではない。Windowsの新しいリリースによって使用中のソフトウェアに不具合が出ないことを確認するため、アプリケーションの互換性テストは依然として必要とされる。ただし「Windows Update for Business」を設定することで、アップグレードを実施する時期を組織が選択できるオプションもある。
さらに、セキュリティをどう強化するかという問題もある。Forrester Researchの「Global Business Technographics Infrastructure Survey, 2016」(グローバルビジネスITインフラ調査2016年版)によると、ITに関する意思決定者の51%は、Windows 10にアップグレードする主な理由としてセキュリティとプライバシーを挙げた。
2018年7月に発表されたForresterの別の報告書「The Partner Opportunity For Microsoft 365 Modern Desktop」(Microsoft 365のモダンデスクトップがパートナーに与える機会)によると、「Azure Active Directory」や「Windows Hello」といったMicrosoftのIDアクセス管理サービスや条件付きアクセス、Windowsの認証情報保護対策を実装すれば、組織が「Microsoft 365」のモダンデスクトップに移行するために必要なコンポーネントが提供される。これで「Intune」を通じたデスクトップ管理も含め、以後のセキュリティ対策やクラウド移行プロジェクトを機能させるための基盤が整う。
Microsoftパートナーは、さまざまな料金体系やデリバリーモデルを導入して顧客のWindowsとOfficeの更新を支援するとともに、そうしたシステムをエバーグリーンに保つことに伴うアプリケーションの修正も支援している。
Forresterによれば、過去1年間、マネージドサービスの料金や運用モデルはMicrosoft 365ツールキットをベースとして構成されてきた。これには「Office 365 ProPlus」「Windows 10」「Enterprise Mobility + Security」が含まれる。さらに「Windows Defender」や「Advanced Threat Protection」(ATP)、「Windows Analytics」、Intune、Azure Active Directoryに関連した斬新な新サービスも多数登場している。
「そうしたサービスを契約に追加することに関してパートナー各社の成功の程度はまちまちだが、あるパートナーはマネージドサービス契約の100%にエバーグリーンおよびサポートサービスを付加していた。自動マネージドサービス購入契約を実験的に提供しているパートナーもある」(同報告書)
Forresterの調査によると、Windows 10とOffice 365 ProPlusの更新サービスを網羅するエバーグリーンデスクトップサービスの料金は、1ユーザー当たり月間10ドル前後だった。こうしたサービスは顧客のシステムを常に最新の状態に保ち、新しい機能セット全てが利用できることを保証する。これにはティア1およびティア2の技術サポートとユーザーサポートが含まれる。
完全にロックダウンされたマネージドデスクトップ環境を提供したいと望む組織は、かつて仮想デスクトップを導入していた。仮想デスクトップインフラ(VDI)はPCを仮想化し、ユーザーインタフェースのデータのみが転送される。全ての処理はバックエンドサーバでユーザーのデスクトップ環境のイメージを使って実行される。この運用環境イメージは、仮想デスクトップが再起動するたびに再構築される。ITの観点から見ると、これでその環境のセキュリティと一貫性が保たれる。
IT業界全体で、高性能のPCアプリケーションをVDIで実行するというアイデアが現実的と見なされたことは一度もなかった。過去にはそれほど高い演算能力が要求されない教育や医療、政府機関といった分野でニッチ的に仮想デスクトップが導入された。だがクラウドコンピューティングや高速ネットワークのおかげで、集中的な演算処理を伴うPCアプリケーションのストリーミングに必要な性能や帯域幅が利用できるようになった。
例えば米アナハイムで開かれたNutanixのイベント「2019 .NEXT Conference」で、同社のニコラ・ボジノビッチ氏(バイスプレジデント兼統括マネジャー)がドラマ『Game of Thrones』の1シーンに映っていたあの悪名高いStarbucksのカップを覆い隠すデモを見せた。60fpsの4K映像を「Adobe Premiere Pro」で編集し、Nutanixの仮想デスクトップ製品「Frame」を介してWebブラウザの「Chrome」にストリーミングした。このユーザーインタフェースはHTML5対応のWebブラウザで利用できる。
かつてのVDIはGPUが欠如していて性能も低かった。だがNutanixのデモは、仮想デスクトップでもグラフィックスを集中的に利用するアプリケーションを実行できることを実証した。2019年3月にGoogleが発表したゲームプラットフォームの「Stadia」は、60fpsの4KゲームをWebブラウザにもストリーミングでき、他のクラウドサービスと連携させることもできる。
Nutanixの他にもCitrix SystemsやVMwareなどがハイブリッドVDIを企業向けに提供し、仮想デスクトップをオンプレミスで実行してパブリッククラウドにバーストできるようにしている。
デスクトップ仮想化のもう一つの選択肢としてDaaSがある。これは通常、クラウドサービス経由で提供されるマネージドデスクトップを指す。Gartnerの「Market Guide for Desktop as a Service」(サービスとしてのデスクトップのための市場ガイド)が指摘する通り、DaaSプロバイダーはかつて自前のホスティングプラットフォームを運用していたが、今ではパブリッククラウドにサービスを移行するようになった。
「全DaaSベンダーはデフォルトでハイパースケールプラットフォームに引き寄せられている。セキュリティとコンプライアンス、主権性のニーズに対応するため(特に欧州、中東、アフリカにおいて)、組織は専用のホスティングプラットフォームを必要とする。この市場に参入したDaaSベンダーの多くはプラットフォームのアジャイル性を活用して顧客に選択肢を提供し、サービス料金を引き下げる目的でハイパースケールベンダーと手を組んでいる。最も重要なことに、このアプローチはDaaSベンダーの地理的な拡張を支援し、組織の規模を問わず、ユーザーが地理的に分散している組織に売り込む助けになる」。Gartnerのアナリストは報告書の中でそう指摘した。
Gartnerによると、DaaSはIT意思決定者に対し、ワークスペース提供の目的でデスクトップのワークロードをクラウドに移行するメリットについて考える機会を与えてくれる。そのメリットには、機能の拡張からアプリケーションのセキュリティコントロール、幅広いプラットフォームやエンドポイントを横断するワークスペースとデータの提供が含まれる。
「クラウドでホスティングされたユーザーワークスペースを提供して、オンプレミスサービスへのアクセスを減らすことは、アーキテクチャおよびプロビジョニングのアプローチとして主流になりつつある」(同報告書)。こうしたプロビジョニングのスタイルは、ユーザーの居場所やネットワークの場所を問わず、「常時接続」と高可用性を実現するために設計されている。これはまた、PCであれMacやiPad、あるいはAndroidタブレットであれ、どんな端末にもWindowsデスクトップをストリーミングできることを意味する。
Gartnerによると、2018年のDaaSの平均料金は2016年に比べて1.50ドル下がり、1ユーザー当たり月間20.50ドル(約2100円)になった。一方で、料金が最も高いサービスとして、1ユーザー当たり月間630ドル(約6万8000円)というマルチGPU仮想ワークステーションをDaaSプロバイダーが提供するようになった。
デスクトップITは、単なるオフィスの生産性の領域を越え、ハードウェアやOS、ソフトウェアスイートをユーザーに提供するようになっている。
Microsoftは一連のアプリケーションを組み合わせ、コラボレーションや柔軟な働き方を支援している。同社は人工知能(AI)を現代のワークプレースを実現する一環と位置付け、かつて人が長時間を割いて手作業で行っていた文書作成を機械に担わせている。
例えば同社は音声をリアルタイムでテキストに変換する技術や、そのテキストを別の言語に翻訳する技術のデモを行ってきた。さらに、音声で操作するデジタルアシスタントの「Cortana」が「Skype for Business」の通話内容を聞き取り、参加者が求めていると思われる関連情報を提示するデモも披露している。
Gartnerの分析によると、デスクトップITの管理が行き届いた大企業ではDaaSの方がVDIや従来型のマネージドデスクトップより高くつくことが分かった。だがVDIで提供される柔軟な働き方のためのプラットフォームは、その組織のデジタルトランスフォーメーション戦略に沿うかもしれない。サービスプロバイダーが提供するエバーグリーンサービスを選ぶことは、デスクトップITアウトソーシングの一形態かもしれない。だがそれは、現代のデスクトップ環境とはどんなものなのか、そしてそうしたデジタルワークスペースを自分たちの組織にどのような形で導入できるのかについて、ITリーダーが再評価する機会を与えてくれる。
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