米国医療機関のCIOは、新型コロナウイルス感染症に対処するために、電子カルテをはじめとする既存ツールの新たな使い方を模索している。どのように活用しているのか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、医療機関の最高情報責任者(CIO)は前例のない課題に直面している。この危機を乗り切るために新たなツールを取り入れるだけでなく、電子カルテ(EHR:電子健康記録)をはじめとする既存ツールの用途を変更している。
マイケル・ガルシア氏は医療機関Jackson Health Systemでシニアバイスプレジデント兼CIOを務めている。同機関はもともと導入していたCernerの電子カルテやその他の医療情報システム(HIS)の新たな使い方を模索し、COVID-19の患者を遠隔地から見守っている。
Jackson Health Systemは2007年からCerner製品を使用している。最初に利用したのはCernerの遠隔監視ツール「Cerner Patient Observer」(写真)で、中央監視システムから同時に複数患者の容体を見守ることを目的として導入した。
COVID-19のパンデミック(世界的大流行)はさまざまな課題をもたらした。こうした課題の解決に役立つ新しいツールを探しているのはガルシア氏だけではない。電子カルテベンダー各社も、こうしたニーズに応えようと取り組み、ツールの販売スケジュールを早めて、低コストのツールやコストの掛からないツールを提供しようとしている。
ガルシア氏によると、Jackson Health SystemはCOVID-19が広がる前から、病室の壁にCerner Patient Observer用のカメラとスピーカーを取り付け、技師が中央監視システムで患者の容体が悪化しないよう見守っていた。COVID-19のパンデミックが起きたために、Jackson Health SystemのIT部門はカメラとスピーカーのユニットを病室ではなく移動用のカートに移し、医療従事者がCOVID-19患者と遠隔で会話し、容体を見守れるようにした。
この患者遠隔監視システムは「医療従事者がCOVID-19患者と必要以上に接触することを避け、個人用保護具(PPE)の使用を減らし、患者とのコミュニケーションの質を高める」とガルシア氏は話す。患者自身を見守るだけでなく、患者に取り付けた生体情報モニターを遠隔監視することで、患者に酸素吸入器を付ける必要があるかどうかといった臨床診断を素早く下すことができたという。
CernerでITWorks部門のシニアバイスプレジデントを務めるディック・フラニガン氏によると、同社はパンデミックがもたらした課題に対処するために、顧客がCerner Patient Observerのようなツールを新たな用途に利用することを支援しているという。フラニガン氏は「当社顧客の多くが当社の既存ツールを利用してCOVID-19と闘い、医療従事者や患者の安全を保つために努力している」と強調。同社は現状のニーズに合わせて既存のツールを最善の方法で利用したり、構成を変更できたりするよう、アップデートや推奨設定の情報を提供しているという。
電子カルテの米国大手ベンダーEpic Systems(以下、Epic)も、パンデミックに対処するために既存ツールを転用する医療機関の存在を認識している。Epicは、院内感染を予防して監視する感染管理ツール「Bugsy」を2014年に発売した。Bugsyは発売から5年以上たつが「当社の全顧客がこれを有償で使用しているわけではない」と話すのは、同社臨床情報チームで薬剤師の資格を持つジム・ラッセル氏だ。
COVID-19のパンデミック発生を受け、Epicは医療機関向けにBugsyの無償提供を開始した。ラッセル氏によると、2020年3月以降、Epicの顧客70機関がBugsyの感染管理機能を利用し始めている。BugsyのようにCOVID-19に対処するために使用されているツールの中には、パンデミックの最中は無償提供されているものもある。COVID-19が終息した後もBugsyの利用を希望する医療機関には「最終的にはライセンス料の支払いを求めることになるだろう」と同氏は話す。
患者がCOVID-19に感染したり、感染の疑いがあったりしたことを確認すると、Bugsyは自動的に医療機関のスタッフに通知する。通知を受け、治療チームは隔離予防措置を講じることができる。Bugsyには接触追跡機能も含まれているため、COVID-19患者と院内で接触した可能性のある医療従事者を特定することも可能だ。
後編は、COVID-19対策でニーズの変化が生じている医療IT市場の動向を解説する。
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