2020年11月03日 08時00分 公開
特集/連載

公共サービスにおけるDXのトレンドと障壁Computer Weekly製品ガイド

COVID-19が流行する中で、市民サービスの提供や自治体運営のデジタル化が加速している。レガシーの制約がありながら、クラウドの採用も増加しつつある。

[Angelica Mari,Computer Weekly]
iStock.com/anyaberkut

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、あらゆる形態や規模の企業の間でデジタルトランスフォーメーション(DX)のペースを加速させている。公共セクターも例外ではない。意思決定者は急速に変化するニーズに対応するため、レガシーの課題を抱えながらもデジタルソリューション探しに奔走している。

 当面の目標は人的、社会的、経済的損失を防ぐことにある。さらに「新常態」における業務のために今後数カ月の間はITに重圧がのしかかる。公共セクターはデジタルチャネルを使って市民に情報やサービスを提供しながら、同時にCOVID-19が流行している間は多くの機能を全てデジタル化しなければならず、効率的なバックエンドシステムを求めるニーズは強まる。

 COVID-19の流行は、技術の効率化が必要な現実を露呈させた。英Computer Weeklyは公共セクターの運営スペシャリストに話を聞き、危機的な状況の中でバイヤーが直面している主なトレンドや障壁について語ってもらった。

デジタルのやりとり増加

 スリムで効率的な政府をつくり出す必要性と、新たな責任に対応してオンラインの市民サービスを向上させるニーズが組み合わさって、デジタルチャネルに向けられる注目は今後数カ月で大幅に増大する。

 英国ではCOVID-19が流行するずっと前から、一般向けのデジタルサービスの普及率は一貫して上昇していた。Institute for Governmentの統計によると、「Gov.uk」の利用件数は市民の需要やユーザー中心の設計、反応性の向上が後押しする形で、2014年以来350%増加した。

 COVID-19の流行によって新たなレベルのデジタルサービス体制が構築され、福祉や公衆衛生からヘルスケアに至るまで、幅広いサービスが立ち上げられた。英国民保健サービス(NHS)が提供するデジタルサービスは、今回の流行の間に利用が増え、処方薬の再注文といった機能を提供する「NHS App」の2020年3月の利用は111%増加した。

 歴史的に、公共サービスの発展においてはデジタル/非デジタル両方のチャネルを考慮する必要があった。だがCOVID-19において非デジタルは急速に後退したと、コンサルティング会社6point6のアドバイス担当ディレクター、ドニャネッシュ・ケール氏は指摘する。

 「紙ベースのソリューションや対面サービスは例外的になる。だが、リモートで利用できるデジタル化されたサービスの需要は加速している」とケール氏は話す。

 デジタルサービスの採用が増えると同時に、2020年以降は改めて自動化に対する関心も高まると予想するのは、Capgeminiの英公共セクター担当CDO(最高デジタル責任者)、ミック・ハリデー氏。これはRPA(ロボティックプロセスオートメーション)やAI(人工知能)、ビッグデータを通じて起きると予想する。

 「そうした分野に照準を合わせた動的な調達システムが2020年中に構築され、そうしたサービスの調達を担当する政府機関のバイヤーを支援するようになる。併せてAIにも相当額が投資される」(同氏)

 ハリデー氏によると、採用の中心となる分野ではbotが支援するオムニチャネルエクスペリエンスの創出に重点が置かれる見通しだ。その狙いは、デジタルチャネルとコールセンターチャネルを横断するシームレスな連携性の向上と、AIが支援するリスク分析や、申請および更新を自動化しながら人が介入する例外を切り分けるといった対応のプロファイリングの提供にある。

新しい働き方

 市民と政府機関の関係に加え、公務員同士が自分の勤務する部門内で連絡を取り合う方法も、テレワークが求められる現状の中で大きく変化した。それでもバイヤーにとっては学習曲線があり、Crown Commercial Serviceはリモートワーク環境で利用できる選択肢に関するアドバイスを行っている。

 DXを手掛けるPublicis Sapientでバイスプレジデント兼公共セクター担当DX責任者を務めるダン・ローチェ氏によると、共同の職場や印刷されたバインダーに至るまで、従来型のビジネス慣行を重視してきた公共機関の多くはビデオ会議やコラボレーションツールに急速になじみつつある(下記クロイドン市の事例を参照)。

 これまでの前向きな結果を前提とすると、COVID-19後はアジャイルプロジェクト内の分散されたチームデリバリーとITサービスに対する意欲が高まるだろうとCapgeminiのハリデー氏は予想する。

 「これまでの成果から判断すると、ロックダウン中のコラボレーション技術やプロセスの採用を通じ、アジャイルプロジェクトにおけるデリバリー速度と効率性が向上したことがうかがえる」(同氏)

クラウドのチャンス

 オンラインのやりとりの増加を考えると、政府機関のDXはもはや単純なイノベーションではなく、規模の管理、業務の効率化、納税者の金額に対する価値を保証することに主眼がある。

 「政府機関が変化に応じて質の高いサービスをタイミング良く提供し続けられる能力は、変化する状況や法令、政策、リスクに対して動的に対応できる能力に懸かっている。公共サービスの提供を下支えする技術の幅、規模、性質は、多大なチャンスと重要な課題の両方をもたらす」とハリデー氏は言う。

 コロナ禍の中で、SaaSは拡張性とコスト削減、デジタルサービス統合のシンプル化、自動化、効率化、双方向性の向上といった要求を確実に満たすために不可欠になった。

 ハリデー氏によると、2019年末から2020年初めにかけて、政府機関ではSaaS採用の意欲が高まっている様子だった。これについて同氏は、総保有コストの認識や実用化までの時間短縮を求める圧力といった要因にけん引されて、自分たちで構築するという思考を離れて新しいアプローチに転換する「インテリジェントリファインメント」と形容する。

 一方で、公共セクターにはコストとメリットに関して「新たな現実主義」が存在すると、PA Consultingのトランスフォーメーション専門家、プロテウス・ダックスベリー氏は語り、「予想外の隠れ費用がかさみ始める中で、財務管理が強化されている」と指摘する。

 ダックスベリー氏によると、政府機関のバイヤーはクラウドの選択肢に飛び付いたものの、金額に見合った価値を引き出すことに不慣れだった。それが原因で、クラウドファーストが必ずしもコスト削減を意味しないことを認識する場合がほとんどを占める。同氏は一例として、災害復旧やデータ入出力専用の接続および帯域幅の必要性が新たなコストを発生させていると指摘した。

 まだ学ぶべきことはたくさんあるが、予算に制約がある公共セクターのバイヤーはクラウドの利用を増やし、DRaaS(サービスとしての災害復旧)、コンテナ化、DevOps、サーバレスコンピューティングといったアプローチはますます一般的になると同氏は予想する。

レガシー問題

 Government Digital ServiceによってクラウドはDXの鍵を握る支柱と位置付けられており、そのことは意思決定者も十分認識している。だが大きな障壁の一つとしてレガシー技術がある。組織は徐々にデジタルに移行しながらも、業務の中核を担う旧式なシステムを引退させることに苦慮している。

 PA Consultingの英公共セクターデジタル責任者、ニール・クレイグ氏によると、政府機関のトランスフォーメーションについては進展があったものの、課題はエンド・ツー・エンドのデジタル化にあり、その大部分がフロントエンドで起きている。

 「改善、リファクタリング、入れ替えは一部の分野で進展したが、運用や正味費用の観点から見た技術の真に変革的な側面は、今になって実現しているにすぎない」とクレイグ氏は話す。

 政府機関の老朽化した技術の排除は頻繁に話題になる。科学技術委員会が2019年3月に実施したデジタル政府に関する調査では、公共セクターのレガシーITに対処するためには基準と追加的予算が必要だと結論付けた。

 クレイグ氏によると、COVID-19によるデジタル需要の増大に伴い、政府機関のレガシーに対しては現実的なアプローチが求められる。

 「課題の大きさや、将来的に財政が逼迫(ひっぱく)する可能性があることを考えると、投資収益率に対する明確な見通しを持ち、優先順位を決められるようにしておくことが不可欠になる」とクレイグ氏は結んでいる。

事例:クロイドン市が急いだMicrosoft Teams採用

 クロイドン市のCDOで「Gov.uk」に関わったパイオニアの1人、ニール・ウィリアムズ氏によると、コロナ禍の結果として自治体のデジタル化は大きく進展した。

 「愛する人を失った人に対して罪悪感を覚えずに、明るい希望の話をするのは難しい。しかしデジタルツールやリモートワークの採用を急がなければならなかったことには、明らかに多くのメリットがある」と同氏は言う。

 COVID-19流行の間に同市議会が加速させたプロジェクトの一つは、約4000人の職員が「Microsoft Teams」を使えるようにすることだった。ウィリアムズ氏によると、計画では同システムを数カ月かけて段階的に導入し、進捗(しんちょく)に応じてサポートや研修を拡大するはずだった。だがその計画はすぐに変更しなければならなかった。

 「われわれは(導入期間を)1週間に短縮した。組織全体が一気に飛躍してこの種のツールを採用し、コラボレーションとコミュニケーションのベストプラクティスを取り入れたスピード、そしてチームワークやデリバリーのペース、知識の共有のオープン化促進に与えた影響は、目を見張るものがあった」とウィリアムズ氏は振り返る。

 クロイドン市は同様に、事業補助金、市税減免、内部状況報告用の新システムの構築を含めて、テレフォニーやWebサイト、オンラインサービスについても急激な変更を強いられた。

 「ちょうど新しいローコードプラットフォームに投資したばかりだったので、これについては早く動ける態勢にあった。そうでなければ数カ月かかっていたアプリを数日で構築できた」。ウィリアムズ氏がそう言及した開発プラットフォームの「Capterra Liberty Create」は、同市がコロナ禍の直前に導入したものだった。「単純に言って、われわれは組織として新しい技を身に付けた。コロナ禍の前の状態に戻りたいとは思わない」と同氏は話している。

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